毎日超短話433「バクタクシー」 #シロクマ文芸部
「逃げる夢が追いかけてくるんです」と、お客さんが言い出す。タクシー運転手の私からすると、おそらく酔っているのだろうと思い、そうなんですね、と当たり障りのない相槌を打つ。
「どうしたらいいですか?」との問には「止まったらいいんじゃないですか」と答える。
「止まったら、追いつかれてしまって、怖いんです。逃げるのを追いかけるのが楽しいのに」
「よかったら、食べましょうか、その夢」
そう言うと、お客さんは「でも……」と悩み出し、泣き出した。黙ったまま車を走らせ、目的地に着く。
「こちらでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます、いくらですか」
「お代はもらってます。ありがとうございました」
「そんな気がしました」
お客さんは、晴れた顔をしている。
「バクタクシー、またのご利用を」
今夜の夢もまた、美味しく頂きました。
シロクマ文芸部さんへの投稿です。
追いかけてるつもりで、追われていたりすることありますね。
一年前の超短話↓