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【掌編】 青春と平和 #シロクマ文芸部

平和とは、

と書き出した手が止まる。平和とは〜である、と言ってしまったら、それ以外は平和とは呼べないのってことになりそうで。

そもそもあれだ、この作文は友だちに頼まれたもの。友だちが平和についてどう思ってるかなんて深く話してもいない。俺が思ったことを書いていいんだろうか。いや、いいんだよって、友だちは言ってたけれど。 

以前、その友だちのラブレターを代筆したら、なんだかうまくいっちゃったものだから、今回もまたお願いって頼まれてるってわけ。おまえの好きな子との仲、取り持つからさー、と。別にそういうのはいいんだけど、問題は今、その好きな子がとなりにいるってこと。彼女は値上がりしたばかりのハンバーガーを食べながら、俺の作文を覗いてくるのだ。

「平和とは? それ宿題?」

「うん、まあ」

友だちのクラスの宿題だけど。

「ふぅーん、書けたら読ませて」

と言って彼女はハンバーガーの続きを食べる。俺のポテトに手を出すのは時間の問題だろう。先にポテトを食べようと思い、手を伸ばす。手に取ったポテトを俺からひょいっと奪った彼女はいたずらに笑う。

「いい?」

いいと言われるのがわかってる言い方をする。うん、と俺は頷く。ラッキー、と言って彼女はポテトを食べる。それを見届けて視線を「平和とは、」の文字に戻す。

「あのラブレターさあ」と声が聞こえて、俺はまた顔を彼女のほうに向けた。

「きみが書いたんだよね」

そう言われて、とりあえずシェイクを口にしようとするが、うまく吸い込めない。

「あれは、彼の気持ち? それともきみの気持ち?」

俺の好きな子は、友だちの彼女だ。なんと答えていいか正解を必死で探していると、シェイクがむせこむ。

だいじょうぶ? と彼女が諭すように問いかける。

「あー、うん、だいじょうぶ」

「だいじょうぶなんだね」

念を押すかのように言われる。

「うん」

「そっか」

俺はポテトを手にとって、それを彼女に渡そうとする。彼女はそれを受け取ろうとせず、口をあんぐりと開けている。

「そういうのはさ」と俺はつぶやく。

「そういうのは?」

「そういうのは……、平和かもしれない」

「お、書けそうだね。そういうので、いいんだよ、きっと」

ポテトを彼女の口にやる。なにかが決壊する予感がする。ギリギリの平和が今は保たれている。




シロクマ文芸部さんでは初の小説にしてみました。ありがとうございました。

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