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判コレ、できました。

有斐閣書籍編集部です。

2021年6月、『知財判例コレクション』という、新しい判例集が刊行になりました。

思えばこの本の始まりは2018年まで遡り…などと、思わず苦難の歴史を語りたくなるほどに、感想の第一は「ここまで長かったな…」でした。
でも、判例集は、つくるのは結構、すごく、大変なのですが、構成の工夫や「本書の特長」のようなものを著者に様々に語っていただくのは、悲しいけれどちょっと難しい。

でも、せっかく、こんなに何年もかけて頑張ってつくったこの本と、頑張って書いてくださった先生方をできるだけ多くの人たちに知ってほしい!と思い、「とにかく(なにがなんでも)noteで記事をつくるぞ」と決意し、先生方に、「特に思い入れのある判例」についてコメントを寄せていただきました!(※下線部分をクリックすると、裁判所ウェブサイトの裁判例情報ページにリンクします)

まずは愛知靖之先生、よろしくお願いします!

私が特に思い入れのある判決は、最判平成29・3・24 民集71 巻3 号359 頁〔マキサカルシトール上告審〕です。この判決が扱った均等論第5要件は、研究生活を始めるに当たって私が最初に設定した研究テーマに関するものだからです。2004年から2005年にかけて発表した第一論文で審査経過禁反言を取り上げ、2005年に発表した2つ目の論文で、まさにこの判決で扱われた出願時同効材に関する問題を取り上げました。私の立場は否定されましたが(涙)、長年研究してきたテーマを正面から扱った最高裁判決を、(これまでも評釈はしていましたが)この判例集で扱えたのは感慨深いです。コメント欄でも、いろいろ書きたいことはあったのですが、従来の裁判例の傾向や、本判決が残した課題に焦点を当てつつ、できるだけコンパクトにまとめました。
事案と判旨をまとめて少しコメントを付けるくらいなら、たいした作業でもないだろうと高をくくり、『知的財産法(LEGAL QUEST)』の「はしがき」に、「本書と同じ共著者が編集する判例集が公刊予定である」と、あたかもすぐに公刊されるかのような記載を私が不用意にしてから早3年、悪戦苦闘の末ようやく生み出された本書が、知的財産法の生きた紛争に接し、紛争解決に必要な応用力を身に付けるための一助となれば幸いです。

先生、「高をくく」っていたのは、私のほうです…!!


次は、前田健先生からです。

企画立ち上がりからおよそ3年、ようやく刊行にこぎつけることができました。
私は、特許法、著作権法、商標法の一部を担当しています。3年もの間には、多くの判決が出て、収録判例の差替えもたくさん経験しました。
私が担当した判決の中で思い入れが深いのは、特許だと差替えで入れたアレルギー性眼疾患治療剤事件です。著作権だと侵害主体論のロクラクⅡ事件、商標だと地域団体商標の喜多方ラーメン事件も、最初のころから研究対象としてきて割と思い入れがありますが、直近の一番を挙げるなら特許のそれです。この事件は、特許の進歩性要件について初めて出された最高裁判決で、事件に少し個人的にも関与しましたし、昨年学会発表をしたことなどもあって思い入れがあります。この判決を一つの契機として、進歩性要件についての関心が一気に高まった感もあります。
判決にふれたことをきっかけにして新たな気付きが得られたり関心が広がることは、よくあることと思います。この本は従来見落とされがちだったものも含めて満遍なく判決を収録しようと心掛けたつもりです。是非この本が、読者のみなさんにとって、新たな興味の扉を広くきっかけになればと思います。

本書には約200件の判例が収録されていますが、先生方が思い入れをもって執筆してくださった項目は、同じ「200分の1件」であっても、編集作業中に不思議と手が止まり、つい読んでしまう引力のようなものを感じました。

次は、金子敏哉先生からです。

ななめよみ

判コレ執筆の際に特に苦心したのが、事実関係や裁判所の判断を文字数の制約の中でどのようにまとめるかという点です(音楽教室事件の控訴審判決についても生来の優柔不断で最初の差替え案がかなり長くなり、他の先生方にお時間を頂いて相談し何とかまとめたところです)。特に学生の読者の方には、判コレとともに、判決文自体を実際に読んでみて、まとめ方が適切か、自分ならどうまとめるか、を考えてみていただきたいと思います。
知財判例コレクションが、皆さんにとって知財判例の森や海へと乗り出す(あるいは、私たちと共に深みにはまって彷徨う)際の羅針盤となれば幸いです。

読者のみなさま、何が仕掛けられているか、わかりましたか??


最後に、青木大也先生から、お願いします!

本書との関係で思い入れのある事件というと、私にとっては、Twitterリツイート事件が挙げられるでしょうか。本書では、リツイート(インラインリンク)をめぐる著作権侵害の成否については同事件控訴審判決を、氏名表示権侵害の成否については同事件最高裁判決を掲載しています。分量の問題もある中で、本書作業終盤(?)に(自分の担当範囲で)最判が登場した際には天を仰ぎました。
ついでに、本書で扱い損ねてしまった、同事件控訴審判決の同一性保持権侵害に関する判示部分も簡単にご紹介しましょう。

画像3

断り書き1

裁判所は、(保存された画像データ自体は改変されていなくても)リツイートにより表示される画像の改変(トリミング表示)を根拠に、リツイートにつき同一性保持権侵害を肯定しました。

判コレはいいぞ(ダイマ)v2 (1)1_1

断り書き2

上記判示内容と関連して、こういったSNS上のプロフィール画像におけるトリミング表示や、それを含むその人の投稿へのインラインリンクについてはどう評価されるでしょうか?(東京地判令和元・12・24平29(ワ)33550も参照)
本書を取っ掛かりに、是非多くの裁判例に触れてみていただければと思います。

こちらのコメントを整えるにあたっても、さまざまな権利関係にぶつかりました…(知財は、難しい…)。

先生方、お忙しいところ、本当にありがとうございました!

本書は、圧縮に圧縮を重ねてなお、本文だけでもきっかり500頁という分量ですが、知財判例の森(あるいは、海)をぎゅっと詰め込んで、できるだけコンパクトに見渡せる一冊となることを目指しました。
戦いにも似るような、学習・実務の傍らに、ぜひ判コレを。


出発。

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