顧問にハブられる部員

　私の通っていた小学校では5、6年生の中から有志で部員を集めて一時的に活動する部活動としてバスケ部があった。私はそこに参加して夏休みを部活動に勤しむことにした。
　当時流行ったバスケ漫画の影響もあるが、前年まで通っていた習い事で培ったポートボールの経験をバスケに生かしたかったと言うのも理由の一つだ。

　ボールが変われどドリブルやパスはポートボールの経験が生きたと思う。しかしシュートだけはそうはいかなかった。
　ご存知かもしれないがポートボールというスポーツははゴールも人なのだ。シュートしたボールが多少外れてもゴールマンというゴールのポジションの人が手を伸ばしてボールをキャッチしてくれれば得点になるのだ。
　しかしバスケはそうはいかない。シュートが外れてもゴールはボールを獲りに手を伸ばしてはくれないのだ。
　これが理由の１つであるとは思う。不器用も相まって私は得点にならない部員となったのだ。
　それでも夏休み期間中練習に明け暮れ、夏休みが終わった後も9月の大会に向けて休み時間や授業後に体育館に通ってひたすらシュート練習をしていた。どの方向から打っても私のシュートはなかなか入らないからゴールの正面から決まった位置で確実に入れられるように練習して、大会前には練習が始まった頃よりはシュートの成功率は上がっていたと思う。

　ただここまでは、あくまで私の自主練の話だ。夏休みが終わって大会が近づくにつれて私は練習に参加できなくなっていった。得点にならない選手を練習に参加させても時間の無駄だと顧問は判断したのだろう。基礎練習までは全体で行ったあと3人対3人などより実践的な練習になると、顧問は主力になる上級生やバスケ歴の長い生徒を優先的に練習に参加させるようになった。
　とはいえ、私以外にもその実践的な練習に優先的には参加できない部員はいた。しかしその参加していない部員は交代時間になると顧問が率先的に参加させてチームの底上げを図っていた。しかし私はその練習に参加することはできなかった。
　顧問が私の存在に気づいていないということは考え難い。私は手をピンと伸ばして顧問の顔の前に迫り大声で「私まだ参加してません」と主張していたので、無視していたという方が正しいだろう。本当に私が見えていなかったのなら、顧問は眼科か精神科を受診した方がいい。
　こうして私は準備体操と基礎練が終わると体育館の隅で練習が終わるのを待つしかなくなったのだ。
　何もしないで練習を見続けていても顧問が何を言っているのか男子バスケ部も活動している騒がしい体育館では聞こえないし、補助として入っている他の教師の近くにいても雑談しかできないので練習に飢えていた私は空いているゴールを使ってひたすらシュート練習をしていた。
（補足しておくと、この補助の顧問達も私が練習に参加出来ていない事や私と顧問のやり取りを直で見聞きしているはずだがその殆どが我関せずを徹していた。）

　先程顧問は私を実践的な練習に参加させなかったと述べたが、正確には2度ほど参加することができた。補助の顧問の一人である私たちの学年の学年主任が口を挟んできたときだ。学年主任は顧問に「参加してないのは可哀想だから参加させろ」と口を出してきた時のみだ。今思えば学年主任の主張も大分上からの物言いで大概ではと思う。そもそも部員が練習に意図的に参加させられていないことが問題なのだが。学年主任自身も人を指差して馬鹿にして笑う人間なのでそういった発想にはならなかったのだろう。
　優れた人間である自分が困っている生徒を助けてやったのだから自分は尊ばれるものだ、という思考回路だったのだろうか。

　まあとにかく、後半ろくに練習に参加出来なかった自分は大会当日選手として出場することはなかった。自分以外にも試合に出なかった生徒はいたがその全員が5年生だった。6年生は卒業アルバムか何かしらの形に残すものの為に試合に参加していた。
　一応試合に出ていた主戦力の選手をうちわで仰いだり応援したりしたが、試合の様子はあまり記憶に残らなかった。それにあの大会で私たちが何位だったのかも覚えていない。
その場にいたにも関わらず大会そのものが他人事のように感じた。
　ただ何かするわけでもなく選手を団扇で仰ぐ為だけに私はタクシーにすし詰めにされて会場に行っただけだった。

　虚しいだけの大会の後日、私は顧問に不等に練習に参加させられなかった理由を問い詰めたが顧問の返答は「私の存在に気が付かなかった」の一点張りだった。実践練習に参加する部員を決める際に大声で何度も周りの生徒は少し引くぐらいに顔の数センチ前に手を伸ばして主張したのにだ。だがもし本当に気が付いていなかったのなら眼科か精神科を受診したほうがいい。耳鼻科も足すべきか迷ったが阿呆らしいのでやめた。

　苦い記憶だけ残った私の部活動はもやもやとしたまま幕を閉じた。翌年私はバスケ部の活動に参加しなかった。当然だろう、碌に練習すら出来ない部活動に参加する意味なんてないのだから。