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予備選挙制度が生み出した「ファシスト」か「嘘つきカマラ」の選択の構造
社員食堂のメニューが、激辛ラーメンかシロップがたっぷりかかったホットケーキセットだけだったら、どちらを選ぶだろうか。
激辛ラーメンが好きな人やホットケーキマニアには問題ないかもしれない。しかし、多くの社員は、激辛でも激甘でもない、もう少しバラエティに富んだメニューを望むだろう。
今回の大統領選挙で有権者に与えられた選択肢は、「アメリカ第一主義」を掲げるドナルド・トランプと、民主社会主義者のバーニー・サンダースよりさらに左寄りと評されるカマラ・ハリスのいずれかであった。
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真逆に近いイデオロギーを持つ候補者同士が争ったわけだが、その政策の違いは顕著であり、たとえば、ハリスは富裕層の金融資産の含み益に課税することを提案していた。一方で、トランプは所得税の廃止を示唆した。
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熱心な民主党支持者や共和党支持者にとっては、この二者択一でも問題ないかもしれない。
しかし、全有権者の約40%はどちらの党にも属さない、いわゆる「インディペンデント」と呼ばれる人々である。
また、それぞれの党には、いわゆる穏健派(モデレート)と呼ばれる、イデオロギー色が薄く、政策を重視する人々もいる。彼らにとって、このような極端な二者択一は非常に厳しい選択となるだろう。
なぜアメリカの選挙はこのような極端な選択を生み出すのだろうか。その要因の一つとして、予備選挙制度が挙げられる。
アメリカのややこしい予備選挙制度
アメリカの大統領候補は、それぞれの党の予備選挙(プライマリー)で勝利した候補者が一般選挙に進み、そこで勝利した候補者が大統領に就任する。
例えば、前回の2020年大統領選では、バイデンが民主党の予備選挙で、トランプが共和党の予備選挙でそれぞれ指名を獲得し、その後、一般選挙で争った。
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今回の2024年大統領選では、民主党側で予備選挙は実施されなかった。
その理由として、現職の大統領が2期目に立候補する場合、特に有力な対抗候補がいない場合は予備選挙やディベートを行わず、現職がそのまま指名されることが一般的であるためだ。
さらに今回は、バイデンが途中で立候補を辞退したため、時間の制約もあり、副大統領のハリスがそのまま民主党候補に指名された。この対応は、民主党の規約にも違反していないとされる。
一方、共和党では予備選挙が実施され、最も多くの票を獲得したトランプが大統領候補に指名された。
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クローズドかオープンか
予備選挙の仕組みは州ごとに異なり、各党に登録した有権者のみが投票できる「クローズド・プライマリー」と、党に関係なく誰でも予備選に参加できる「オープン・プライマリー」がある(その中間的な形式も存在する)。
クローズド・プライマリーの場合、例えば、民主党に登録している有権者は共和党の予備選挙に投票することができない。
また、どちらの党にも登録していない、いわゆるインディペンデント(無所属の有権者)は、クローズドではどちらの予備選挙にも参加できないが、オープン・プライマリーでは投票することが可能である。
現在、アメリカの50州とワシントンD.C.のうち、31州とD.C.がクローズドまたはセミ・クローズドの仕組みを採用しており、その中にはいわゆる激戦州もいくつか含まれている。
イデオロギーの戦いが続く選挙制度
予備選挙制度には、より極端な政策を掲げる候補者が勝ち残りやすいという問題がある。
特にクローズドやセミ・クローズド予備選の仕組みでは、党のイデオロギー色が強い候補者が有利になる傾向が顕著である。
その理由として、予備選挙の投票率が低いことが挙げられる。このため、少数の熱心でイデオロギー的に偏った有権者層が結果に大きな影響を与える。
さらに、極端な政策を掲げる候補者は、献金や熱心な支持を集めやすく、メディアの注目を浴びることで知名度が向上し、当選の可能性を高めることができる。
このような仕組みが、選挙戦をよりイデオロギー的な対立に傾ける要因となっている。
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オープンプライマリー(Open Primary)とランクド・チョイス・ボーディング(Ranked-Choice Voting)
極端な選択を生み出す予備選挙制度の問題に取り組むため、積極的に選挙制度の改革を提案している人物がいる。2020年の民主党予備選に出馬した台湾系アメリカ人のアンドリュー・ヤンである。
ヤンは現在、新しい政党「フォワード・パーティー」を設立し、選挙制度の改善に向けた具体的な提案を行っている。
その提案は、オープン・プライマリー(Open Primary)とランクド・チョイス・ボーティング(Ranked-Choice Voting)を組み合わせる方法である。これにより、より多様な有権者の意見を反映させると同時に、極端な候補者が有利になる傾向を抑制できると提言している。
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オープン・プライマリー(Open Primary)とは、民主党候補でも共和党候補でも自由に選べる仕組みである。
ランクド・チョイス・ボーティング(Ranked-Choice Voting)は、有権者が支持する候補を1位から3位まで順位付けして選べる方式である。
例えば、1位に選んだ候補が落選した場合、その票は2位の候補に移り、2位の候補も落選した場合は3位の候補に移る仕組みだ。
これら2つの方式を組み合わせて導入すると、どのような結果になるだろうか。
まず、オープンプライマリーによって、候補者は極端な層を狙う必要が減り、有権者の約40%を占めるインディペンデント層や自党の穏健な層の票を多く獲得する戦略をとるようになるだろう。
極端でイデオロギー的な政策を提案しても、有権者の多くを占めるインディペンデントやそれぞれの党の穏健層から指示を得ることができないからだ。
場合によっては、相手党の穏健層からも一定の支持を得られる可能性が生まれる。
こうなると、政策の違いも「含み益に課税するか、所得税をゼロにするか」のような極端な対立ではなく、「キャピタルゲイン税を12%にするか、20%にするか」といった範囲に収まるはずだ。
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レッテル政治からの政策主義へ
そして、ランクド・チョイス・ボーディングによって、他の候補者への攻撃も控えるようになる。なぜなら、その候補者の支持者に対して「2番目に自分を選んでほしい」という意識が働くからである。
ディベートでは「あなたの意見も素晴らしいと思いますが、私の提案のほうが、もう少し良いかもしれません」といった具合に、お互いを称賛し合う場面が増えるだろう。
その結果、今回の大統領選のような、お互いを「ファシスト」や「嘘つきカマラ」といったレッテルを貼り合う選挙は不要となるはずだ。
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「Lying Kamala」(嘘つきカマラ)
つまり、その段階になれば、イデオロギーよりも国民の生活に直接関わる具体的な政策が議論の中心となる。
その結果、候補者は必ずしも自党のすべてのイデオロギーに従う必要がなくなり、有権者のニーズに合わせた政策を掲げて選挙に臨むことができるようになる。
保守的であれリベラルであれ、自身が信じる政策を前面に出して立候補できる環境が整うのだ。
これにより、レッテルに縛られることなく、さまざまな政策の中からベストなものを選んで有権者に提示することが可能になる。
そして、いつかそのときが来れば、支持者も選挙のために、色々なレッテルを工夫してミュージックビデオまで制作する必要もなくなるだろう。
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