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弓削保
2016年2月12日 14:48
数日前から降りはじめた冷たい雨が視界を煙らせる中、好んで外に出る人間は殆どいない。 彼は足早に路地を通り過ぎていく足音はいくつか聞いた。音を立てて水溜りを過ぎていく車の音も何台も聞いた。しかしここには誰も立ち寄らない。 どれ程の時間ここにこうしているのか、どこから来たのか、彼は覚えていない。昨日からだったような気もするが、今朝からだったような気もする。もっと前かも知れない。ここにきてから何度
2016年2月5日 15:15
儚くも辛き浮世の光。 導きいざなうモノはヒトかカミか、それともオニか。 遊ぶ時の間に間に、儚く舞う蝶はいずれか。 かくして扉は開かれ、里は橋を通し異界へ通ず。 いずれのモノがいざなうか、かの扉へ。 戯れのように節をつけて言葉を風に流す西人(あきと)に視線を流し、南貴(なつき)は杯を傾けた。つぃと彼女の唇に口付ける酒は白湯のように彼女の喉を潤し、体を温める。卓に乗せられた酒は質素と