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弓削保
2020年5月10日 22:26
1 遥かに続く鮮やかなコバルトブルーの海原を眼下に眺め、北里泰之は夕刻の気配を肌の上に触れさせる。弧を描く水平線に見える薄い影は漁船だろうか、穏やかな波間に静かに浮いている。 彼が今いるのは、サイパン島北部に位置するマッピ岬に作られた平和記念公園だ。断崖ぎりぎりに設けられた柵へと体を預け、途切れなく耳に届く潮騒を聞くともなしに聞く。 彼の背後には、第二次大戦中に自決した旧日本軍兵