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『ドライヴォルテの後継者』デザイナーズノート ~前編:着想~原型

 2019年春のゲームマーケットにて頒布した弊サークル『遊験工房』(ゆうげんこうぼう、と読みます)のデビュー作、『ドライヴォルテの後継者』の製作にあたってのあれこれを書いてみたいと思います。

『ドライヴォルテの後継者』とは

 「三語の呪文を組み替えて戦う、詠唱バトルロイヤルカードゲーム」を謳う、3~5人制のバトルロイヤル型対戦カードゲームです。

ドライヴォルテの後継者1

 内容の簡単な紹介としてはボドゲーマに掲載したものが短く分かりやすいかと思うので、そちらを引用します。

 三語の呪文で成立する魔術を発明した稀代の魔術師ドライヴォルテ。
 その後継者の座を巡るドライヴォルテの弟子達の戦いがテーマのカードゲームです。

 基本のルールは至ってシンプルで、時計回りの手番順で手札の呪文カードを使って他のプレイヤーにダメージを与えて脱落させ、最後に残った一人が勝利です。
 最大の特徴は発動するスペル(魔術)を構成する三語の呪文がそれぞれ「属性」「対象」「ダメージ」を表しており、それらを組み替えてスペルを発動できることです。
 一枚の呪文カードにはスペルを発動する最低限の呪文が書かれていますが、ダメージの大きい呪文は対象を選択できない、全体を対象にできる呪文はダメージが小さく属性がないので防御されやすいなど、一長一短の性能になっています。
 そこで複数の呪文カードを同時に使用し、呪文の「良いとこどり」をすることで一つの強力なスペルとして発動できます。

 一方で呪文カードは他のプレイヤーからの攻撃に対する防御にも使用するので、一度に呪文カードを使い過ぎるとダメージを受けやすくなり、シンプルさ故のシビアなハンドマネジメントが要求されます。
 他にも各プレイヤーの切り札である特殊効果を持った「秘術」や、場に出ている同属性のカードによってダメージが増す「増幅」といった要素により、好機を窺って必殺のスペルを放つ魔術師同士の戦いを楽しむことができます。

 より詳しい内容を知りたい方は、ゲームマーケットの記事をご参照ください。

 また、先日ボードゲームの実況動画を投稿されている『素の人』さんに本作のプレイ動画を投稿していただけたので、こちらをご覧いただけると実際に遊んだ様子が分かりやすいかと思います。
※動画中にも注釈がありますが、一部のルールが正式なものとは異なっています。ご承知おきください。


製作までの経緯と着想

 2011年にI was game さんの『Vorpals』に惚れ込んで以来、同人ゲームというジャンルの熱量が好きでゲームマーケットの度に20~30作を買っては遊んできて、次第に自分でもゲームの製作をしてみたいと思うようになりました。普段よく遊ぶ仲間内でアイディア出しをしてみたこともありますし、2018年6月のfreeeさんのゲーム製作ハンズオンイベントに参加したりもしました。
 そんな折りに2018年の10月~12月に関内のゲームカフェぶんぶんさんにてカワサキファクトリーの川崎晋さん、カナイセイジさん、草場純さんを講師とする「ボードゲーム制作者養成講座」が開催されることを知り、良い機会だと思って参加しました。
 講座の内容自体には実際にゲームを製作する、というものはなかったのですが、この機会に自分でもやってみるしかない、と思いアイディア出しを始めました。

 当初まとまったのは本作とはほとんど関係なく、テーマ先行でとあるテーマを打ち立てて、それに沿ったシステムとして「確定した結果に対してその経過が不定で、その経過にあたるカードを出し合って結果に最も貢献した人が勝ち」というようなゲームでした。
 このアイディアについては他の講座参加者や友人達と話したところ結局「確定した結果に向かう」という点にカタルシスがなく、ゲームとして盛り上がりに欠けるという結論に至ったのですが、友人達と議論している中で経過にバリエーションを持たせるアイディアとして「カードにはスキルの効果と値があるが1枚だけでは使えず、カードを並べると隣のカードと組み合わせて初めてスキルが発動する」というものが出ました。

 元のゲーム案は前述の理由で没となりましたが、このアイディアなら別のゲームを作れると思い、その日のうちに夜に友人と焼肉を食べながら「属性・対象・ダメージの3要素を組み合わせる」ということを考えました。

 また、ちょうどその日ソクラテスラを遊んでいて、「複数の異なる要素のカードを組み合わせて一つの戦闘単位にする」というシステムのゲームは手札の引きの偏りで詰まってしまったり、手札が減ると何も出来なかったりという課題がありそうだと感じていました。
 そこで「1枚でも必要な要素は揃っているけれど、複数枚から組み替えることでより強力な効果を発揮できる」というシステムならどうだろうか、という考えも浮かんでいました。

 これらのアイディアが『ドライヴォルテの後継者』の原点になります。


バックボーン

 そこから魔法というテーマを取り入れて「三語の呪文を組み替えて戦う」になるまではほとんど距離がなく、翌日の夕方にはテストプレイ用モックを作り始めていたくらいで、どのような流れで変遷していったのかはあまり記憶にありません。
 ただ、その発想の元になったものは心当たりがあります。

 それは、十代の頃から抱いていた、「魔法はプログラミングのようなもの」というイメージです。
 魔力というリソースに対して、別の形に変換したり動きを与えたりといった制御を呪文や魔法陣によって行う。魔力に与える形質を指定して、その軌跡や範囲を指定して、行使する魔力量を指定して……といった基本構文があって、そこに入る語句を選ぶことで魔法が発動する、そんなシステマティックな魔術というものを良く妄想していました。
 「属性・対象・ダメージの3要素を自在に組み替える」という発想自体、この魔法のイメージと表裏一体のものであったと言えるでしょう。

 また上記に関連して、具体的に映像として脳裏に浮かんでいたのが、アニメ『ソードアート・オンライン』に出てきた魔法の演出です。
 アニメ1期後半でアルヴヘイム・オンラインというゲームの世界に舞台が移るのですが、そのゲーム内における魔法の発動プロセスが「術者の周囲に呪文の言葉が無数に浮かび、その中から単語を幾つか選択して詠唱すると対応した魔法が発動する」という形式になっています。
 本作の属性・対象・ダメージの3要素に対応する呪文が単語なのは、こちらの影響も大きいかもしれません。

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(ちょうど良いカットがヴァイスシュヴァルツのカードになっていました)


ゲームの原型

 「属性・対象・ダメージの3要素の呪文を自在に組み替える」というコアの部分が決まり、ではそれでどんなゲームを制作するか、ということになりますが、ここはあまり悩まず呪文カードを使ったバトルロイヤルになりました。
(というか、このタイミングで呪文でボスを倒す協力ゲーとか考えられたな、と記事を書いている今になって思い至りました)
 呪文の組み替えというゲームのコアそのものを楽しむため、それ以外の要素を入れることは考えられなかったということかと思います。また初めてのゲーム制作ということで、モンスターなどのイラストを極力必要としないシンプルかつコンパクトなゲームにしたいという考えもありました。

 バトルロイヤルが決まったので、次は実際に各要素の詳細を定義します。カードの枚数は5~60枚程度を想定していて、組合わせパターンが爆発しないように各要素には3段階の強さに絞る、ということをまず考えました。
 「ダメージ」はシンプルに1と3と5を割り当てました。1~3でなかったのは多少振れ幅を持たせたかった、という感覚です。
 次に「対象」はまず全体と1人選択の2種類を置いて、その中間に作るか1人選択の下位に作るかのどちらかという2択になりました。中間は2人選択などの複数選択ということになりますが、バトルロイヤルなので最終的に2人になることを考えると使い分けの意味がなくなってしまうので、1人選択の下位としてランダム選択を作ることにしました。ただ自分以外をランダム選択とするのはあまり下位らしい弱さが感じられないので、自分も対象範囲として自爆になり得るリスクを取り入れました。
 最後の「属性」は、まずそもそも何のために参照するのか?の定義から必要です。真っ先に思いつくのはポケモンのタイプ相性のように有利・不利によってダメージの増減がある、というものですが、今考えているバトルロイヤルでは攻撃には属性がありますが攻撃を受けるプレイヤーには固有の属性はありません。
 そこで考えたのが、属性を持っている呪文カードを防御に使用するという方式です。そうすると、属性の強さは攻撃側は防御される属性の少なさ、防御側は防御できる属性の多さになります。
 下位の属性は他の全属性に防御され、防御にも使えない。中位の属性は攻撃としては上位の属性と同じ中位の特定の1属性に防御され、防御時は下位の属性と中位の特定の1属性を防御できる。上位の属性の攻撃は特定の1つの上位の属性以外では防御できず、防御時は同属性以外は防御できる。このように定義しました。

 次はこれらの各3段階の3つの要素を1枚のカード上にどのように組み合わせるかです。自分がとったのは「1枚で強いカードを作らず、どのカードも同程度の強さしかない」という方針になります。
 何故かと問われると、自律的なバランス調整が働く形にしたかったから、というのが理由でしょうか。平坦な分布のものをプレイヤーの意思で偏らせて強弱を生み出し、偏らせることにコストが支払われる形にすることで、カード単体の強弱の引きに寄らないゲームを目指したいと考えていかと思います。
 というわけで、各要素の3段階の強さを弱い方から強い方へ1、2、3のランクを割り振って、呪文カード1枚は「ランク2が2つとランク1が1つ」と「ランク3が1つとランク1が」の組合わせで、必ずランクの合計が5になるように組み合わせることとしました。

 カードのパターンが決まったら次は枚数です。テストプレイ用モックの作成用に買った名刺印刷のシートが5行×2列だったこと、最大5人プレイを想定していたので比率として1人1枚になることなどから、1種類の呪文カードは5枚を目安に考えていました。
 まず1ダメージと全体攻撃の無属性・ランダム選択のカードが5枚ずつ2種類で10枚ということになりました。そこに上位属性として最低限の光属性と闇属性(どちらもランダム選択1ダメージ)の2種類を5枚ずつ加えるのはちょうど良さそう、という感触でした。
 問題は中位属性で、そもそもいくつ属性を定義するかという所からになります。一つの属性には一人選択1ダメージとランダム選択3ダメージの2パターンがあるので、一属性あたり10枚のカードがあることになります。当初から1セットは5~60枚程度と想定しており、ランク3を含むカードが20枚なので3属性か4属性ということになります。3ダメージと一人選択がボリュームゾーンとしてゲーム中の主力になると予想されたので、出来るだけ多くしたいと考え火・水・雷・風の4属性にしました。
 ここまでで1セット60枚と当初想定のボリュームになりましたが、回復手段が欲しいと思い「属性:生命、対象:自分、ダメージ:1」で呪文の組み替えはダメージのみという特殊な呪文カードを考えて追加し、13種類65枚になりました。

 これで必要なカードセットが一揃いしたので、テスト用モックの作成に入る訳ですが、呪文を組み替えて戦う楽しさを確認するためには、この時点で「それっぽい」呪文があった方が良いな、と思いました。
 そこで仮置きの呪文を考えようとなったわけですが、「格好良い響きの言葉と言えばドイツ語だろう」ということで幻想ネーミング辞典やら翻訳・辞書サイトやらと1、2時間ほど格闘して適当に呪文を付けました。
 適当、といっても雑にという意味ではなく程良いの方です。きちんと日本語の意味にもそれなりのルールを持たせて、1語目は属性に応じた色の名前を、2語目は攻撃範囲を想起できる性質(秩序なき<執着する<寛大な)を、3語目はダメージ量が増えるに従って規模が大きくなる水の流れ(波紋<流動<奔流)を付与して、その意味を持つ響きの格好良いドイツ語を選んでいます。
 この時点で、このゲームにおける魔法は魔力というリソースを水のような流れとして扱っていて、そこに色と性質と流量を呪文で制御する、というフレーバーのイメージも出来ています。

 こうして3要素とそれに対応する呪文が書かれた呪文カードのセットが完成しました。これらの呪文カード65枚の構成については、ここから製品版になるまで(途中予算の関係で1種4枚にする検討はありましたが)一切変更がありません。
 ドイツ語の呪文も当初は仮置きのつもりでしたが、響きが思いのほか良かったのでオリジナルの呪文を考える必要もないかな、という考えに傾きました。

 またこのタイミングでタイトルも考え始めており、英語の"three word"をドイツ語に翻訳した"drei worte"が格好良い響きで、片仮名表記の検索性も良いので「ドライヴォルテ」という言葉を取り入れることにしました。
 そしてドライヴォルテは人名ということにして、魔法使い同士のバトルロイヤルということから連想して「ドライヴォルテという魔術師がこの3語の呪文の魔術体系を作り上げ、その後継者争いが起こった」という世界観が生まれました。

まとめ

 時系列的にはアイディアの着想から2日間の話しかしていないのですが、長くなったので一旦区切ります。まとめると、

・着想は「いくつかの要素を組み合わせて初めてカード効果を発揮する」かつ「1枚でも使えるが複数を組み合わせることでより強力になる」
・バックボーンには自身の魔法に対するプログラミングのようなイメージ
・ゲームの原型は1日で完成し、カード構成・呪文・世界観は当初決めたものがそのまま踏襲された

 といった所になるでしょうか。
 後編では、テストプレイ用モックのデザインの変遷を軸に、システムの調整がどのようになされていったのかをお話したいと思います。

 ただ、12/10に「Board Game Design Advent Calendar 2019」の参加表明をしているので、先にそちらの記事を上げることになると思います。


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