西洋の軍事学書
皆さまこんばんは、弓削彼方です。
今回は現代の軍事学の基礎となっている、西洋の軍事学書をご紹介したいと思います。
軍事学書は文章量が多く読むのに苦労しますが、それを差し引いてでもこれだけは押さえておきたいと言うものを選びました。
■戦争論
全く軍事に興味がない人でも、名前だけは聞いたことがあると言っても過言ではない有名な軍事学書です。
著者はクラウゼヴィッツと言うドイツ(プロイセン)の軍人であり、あのナポレオンと同じ時代を生きた人物です。
「戦争とは他の手段をもって継続される政治に他ならない」とは有名な言葉ですが、それはこの戦争論に書かれている言葉なのです。
この戦争論の中身ですが、そもそも戦争とは何か?と言う話から始まって、攻撃や防御と言う具体的な話、戦争計画と言ったところまで幅広く述べられています。
この戦争論で語れている内容は現代にも通ずる軍事学の基礎的な概念であり、時代が変わり新しい理論が出てきたとしても、この戦争論で述べられている概念がベースにあっての新しい理論となっています。
特に「戦場の霧」と言われる不確定要素(実際に変化する天候、判断ミス、誤解など)に関しては、現代にも通ずる考え方です。
ですので、まずはこの戦争論を学ぶことが現代の軍事学を知るための近道になります。
このように有用な書物ではありますが、二つ欠点があります。
一つはクラウゼヴィッツが全てを書き上げる前にこの世を去ってしまった未完成のものであること。(ただし草案は一通り書かれていた)
もう一つは、あまりにも文章量が多く軍事の専門家でもなければ読む気になれないことです。(岩波文庫なる本では全三巻、千ページ超え)
読むのには非常に勇気が要りますが、この戦争論を読破すれば他者より一歩先んじることができるのは間違いありません。
このような理由で一番におすすめしたい軍事学書となります。
■戦争概論
戦争論と名前が似てますが、こちらはジョミニと言うクラウセヴィッツと同じ時代を生きた人物が書いたものです。
戦争には勝つための普遍的な法則があると言う考えを軸に書いているのがこの戦争概論です。
またジョミニの考え方の基本として、内線と外線と言う考え方が出てきます。
外線は攻める側で多方面から敵を包囲する側、内線は防御する側で包囲される側です。
ジョミニは内線側は兵力を集中でき、多方面から包囲しようとする各軍を各個撃破するチャンスが多いので有利あるとしています。
この詳しい説明は別の機会に譲るとして、このように勝つための法則がありナポレオンのような天才は直感でそれを使っている。
また凡庸な一般の将軍は天才とは同じようにはいかないが、この法則を突き詰めて身に付ければ大抵の場合は勝てるはずだと言う考えだったのです。
一方でジョミニは戦争に勝つ法則は存在するが、それは余りにも複雑であり理論と言うよりは卓越した技術と見た方が良いと言う趣旨のことも述べています。
またジョミニは実戦の経験もありますので、それに基づいた実践的な考えも戦争概論では述べられています。
これらを総合すると戦争論より優先順位は劣りますが、近代の軍事学を理解するために読んでおきたい軍事学書と言えます。
■君主論
君主論はマキャヴェッリと言う人物が書いたもので、近代よりは中世と言える1500年代の前半に成立した書籍です。
文字通り君主とはかくあるべきと言うことが書かれたものなので、厳密には軍事学書ではありません。
しかし当時は、君主としての権力には軍事力と言う担保が必要であり、君主論の中でも傭兵や自軍(常備軍)の取り扱いなどに触れられています。
またマキャヴェッリはこの君主論とは別に戦術論(こちらの方が軍事学書と言える)と言う書籍も残しており、君主論で触れられている部分も十分な軍事の知識を持った上での内容となっています。
こまごまとした戦術に関するものは戦術論で述べられていますが、政治と軍事、君主(国家)を守る軍隊と言う大局での軍の立ち位置と必要性は君主論で述べられているので、今回は軍事学書として紹介致しました。
■おわりに
以上三つの軍事学書をご紹介いたしましたが、時代的には第一次世界大戦より前に生み出されたものであり、二度の世界大戦とその後の科学技術の発展によって必ずしも全てが現代に通用する知識ではありません。
しかしながら私が兵法を語るときにも言っている通り、物事には時代が進んでも適用が可能な道理と言うものがあります。
今回の話で言えばクラウゼヴィッツが言う「戦場の霧」がそれに当たり、それらを学び取るのことが重要なのです。
また現代の軍事学で語られる理論は、戦争論や戦争概論で述べられた理論が基となって研究され発展したものですので、現代の軍事学を深く理解する上でもこれらを学ぶのは有意義であると言えます。
そうは言ってもあまりにも専門的で文書量の多い書物を読むのは一苦労どころか、そもそも読む気が起きないもの。
そこで、西洋の軍事学のさわりの部分を解説してくれる本を一つご紹介しておきます。
可愛いイラストや図解とともに話を進めてくれるこの本です。
すでに専門的な知識を持つ人にとっては不要でしょうが、初めて軍事学について学びたいと思って読むには適した本です。
また最近「現代編」も出ましたので、軍事学の基礎中の基礎を学ぶには良い一冊と言えると思います。
繰り返しになりますが軍事学の書籍は文章量が多く、どうしても読むのに時間がかかってしまいます。
そのせいで読むのを躊躇してしまうことも多いかもしれませんが、一度読めば非常に多くの知識を得ることができますので、ぜひ一生に一度は読んで頂ければと思います。
今回のお話はここまでと致しましょう。
それではまた次回、お会い致しましょう。