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22: 赤ワインにオレンジを入れた人に感謝して乾杯!色


森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

乾杯。

カチンと合わされたグラスに注がれている,
フルーツの香りが立ち上がる赤いワインの
表面が揺れた。

もう何度乾杯を重ねているだろう。
その度にふわふわと体が浮き上がり
夢見心地になる。

目の前には小さなキャンドルの火が揺れて
小さな花瓶には可愛らしい花が生けられている。

ワインにそっと唇をつけると
オレンジの香りが鼻腔をくすぐり,
爽やかな後味を残す赤い味がするりと
喉の奥を通って行き,さらに別の果物たちの
香りが鼻の奥に立ち上がってくる。
そんな夢の中の時間。

甘い雰囲気のあの色と味わい,
暑い日差しを避け
冷やされたそれをごくごくと飲んだひと時の,
寒い時期,毛布にくるまりながらふうふうと
冷ましつつ飲んだあの時間。
私は,そんなどれも忘れられないし,
また忘れたくない。
しかし,時間というものは,
傷を癒すが,同時に忘却も持ってくる。

僕はそんな自分が嫌いだし,
どうしようもない気分に陥る時があるのです。

そう寂しそうに語る男性の横顔を見て
色屋は静かに瓶を手渡し言う。

「この色に想いを重ねましょう。
大切な時を思い出すと,また
涙が流れる時もあるとは思いますが,
同時に心に平穏ももたらせてくれると思います。
私も寂しく思う隙間に陥った時は
そっと瓶の中の色たちに慰めてもらっています。

全てを忘れてしまうわけではないと思います。
少しずつ,あなたの中の引き出しに整理されて
収まり、何かのきっかけで思い出してもらう時を
まっているんだと思います。

今日はこの色をお求めになりましたが,
きっと,違う色でも思い出すはずです。
あなたが毎日身につけられる物に色を乗せて
触れて頂くということも可能です。
そんなとき,ここを思い出してください。」

「ああ,この色をもう一度手のひらに
乗せられる日が来るとは思っていなかった。
今夜は,自分で作ったオレンジ入りの
サングリアで乾杯をしようと思います。
そっと瞼を閉じて,あの味を堪能しながら
あの人を思い出します。
ありがとう色屋さん。 また来ます。」

「こちらこそ。いつでもお待ちしております。」
皆さんの大切な面影の方々に乾杯…




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