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402: ふんわり口どけ、ほわほわ食感の洋ナシのムース色
森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。
覆い被さる緑のトンネル。
青い匂いが体を包む。
あちこちに実る洋梨のコロンとしたフォルム。
顔を近づけると微かに甘い香りが立ち上がる。
「八塩さん,この辺の実なら
収穫して店で数日熟成を待ってくれたら
丁度いいんじゃないかな」
「おやそうかい。 …そうだね。
実もしっかり張っていて美味しくなるだろうね」
そっと触れてみて八塩は笑う。
八塩の営むスイーツ店の,期間限定で出す
洋梨のムースのための視察…と銘打って
遠出のピクニックに洒落込んでいる一行だった。
もちろん,色屋も,色を集める青年もいる。
彼らは…荷物持ちとして連れてこられた。
八塩手製のピクニックサンドが今日のご褒美だ。
「よし,実の収穫が終わるとお昼だよ。
皆キリキリと働いておくれ。
ああ色屋とお前さん,この辺の色は
好きに取ってもいいはずだよ。ちゃっちゃと
あんた達の仕事をしてから私を手伝っておくれ」
苦笑しながら色屋と青年は,それぞれ思う色を
瓶に収めて回る。
そこから,慎重に実を傷つけないように
せっせと洋梨を収穫する2人。
なにせこの実が,後に美味しいムースとなり,
一番最初に味合わせてもらえるのだから。
八塩の作り出す甘味は,
着飾った姿形ではないけれど,頬張ると
甘さが優しく口の中に広がり,
最後の一口を食べ終わると同時に,
もう一度あの一口を食べたいと思わせるのだ。
魔女の魔力でも入っているのかしら…?と,
密かに青年は思っているのだが,もちろん,
八塩が怖いので黙っている。
色屋も実は同じことを思っているのだが,
コレも胸の中にしまって,八塩の作り出す
スイーツを楽しんでいる。
「さぁ,そろそろいいだろう。
お昼にしようか。 おーい!おやっさん!
おやっさんも一緒にお昼にしよう‼︎」
そう声をかけると八塩は,
大きなバスケットから魔法のように様々な食材を
ピクニックシートに広げ出す。
「ほら,木陰とはいえ暑い季節だ。
まず水分補給をしな。」
八塩はサバサバした態度だが,実に細やかな
サポートをしてくれるのだ。
魔女のおばあさんのような見た目なのに…
なんてことをふと思った青年が,
「あんたの思ってることは筒抜けだよ。
今回はムースがいらないようだね」と
ニヤリと意地悪そうに笑う八塩。
ブッっとお茶を吐き出しそうになった青年が,
慌てて手を振り,八潮に違う違うと
ゼスチャーを送る。
明るい緑のトンネルの下,
柔らかな笑い声が響きわたり,誰の胸中にも
美味しいムースが出来上がる予感が宿る。
きっとこのムースの色も
ふんわりと優しい色なのだろう。
貴方も森の入り口のケーキ屋にムースが並ぶ頃,
訪れてみませんか?
八塩がニヤリと笑い,優しい手つきで
ムースを箱に詰めてくれるはずです。
私も行きたくなってきました。
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