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自分の気持ちに気づく時


福栄珈琲のカフェの席には、絵の出展メンバーが揃っていた。
先生が一人ギャラリーで接客をしていたのを横目で眺め、絵のメンバーがいるだろうカフェにやって来た。
絵を見に来てくれた友達を送って、再びデパートに戻って来た私は遅れて絵のメンバーに久々の再会をする。
席が埋まっていたので、他の席から椅子を借りようとすると、
「あ、この席空いてるからどうぞ。」
と促され、
「大原さん、2時間きっかりに呼び出されて、もう帰って行ったの。」
と、西川さんが言った。
大原さんは、自宅で母親を介護しており、外出しても母親に呼び出されてゆっくり話しもしていられない。
「それじゃ、息抜きも出来ないね。」
と、私は呆れながら言った。母娘共に依存傾向がある気がして、介護サービスの受け方を説明しても、一向に利用する気配がない。母親の介護が終わったら大原さんは一体どうなるんだろうかと思うけれど、人それぞれ考えも違うし、社会資源を説明して、その先はその人次第なのだから、いらぬ心配なのだろう。
この会は遊A会と言う、絵の会のメンバーだ。
私が絵の先生に言われて会を立ち上げ、遊A会と言う名は、先生の頭文字を入れて私が独断で決めた。
年長者は90歳を超え引退し、20代の子達が入ったが数名辞め、それでも、20代から80代までの幅広い年齢層のメンバーがいる。今やどこの絵の会も高齢化し、若い人が減っているから、遊A会は珍しい方だ。
この日も、20代から80代が集まったのだが、
「家のおばあちゃんが死んで…。」
から始まって、
「家の義母が死んで…。」
と、そんな話しばかりで、話題が変わったかと思えば、
「お爺ちゃんが84歳で、仕事を辞めて実家の不動産屋をやる事になった。」
「宅建の資格は?」
「まぁ、なくても、財産譲り受けるだけだから〜。」
と、結局は資産家のお爺さんの資産が入る…それだけみたいだ。
メンバーは結局、自分で稼いで仕事をしている人は少ない。働いていても、アルバイト程度で、自分で生計を立てながら絵を描いているのは私くらい。
それなのに何故か、
「◯◯さんの絵が売れた。」
「絵が◯円で売れた。」
と言う事に敏感で、私はお金の話になるとゲンナリする。
確かに、
絵が売れてこその画家。
売れてなんぼ。
売れる絵を描けることこそステイタス…なのだから、当然かも知れない。
でも皆さん?
生計立てる必要ないじゃないですか?
何故に、そこにこだわるかって、自分の絵の価値はお金で計るものになってるからじゃないかな?
…と、ゲンナリしながら考えた。
なんで、こんなにゲンナリしちゃうんだろう?
私の絵は売れてないから「あなたの絵ってダメでしょ。」と言われてる気持ちにもなる。
でも、さっきまで友達と一つ一つ絵をみていた時は楽しかった。
一つ一つの絵に発見があって、「わー。」って、感動してた。
それは私が見つけることも、友達が見つけることもあって、一人では見つけられない感動で、他の目が入るって感動が増すのに気付いた。
自分の絵が特別褒められたりしたわけじゃ無いけど、ジッと見つめるその様が嬉しかった。ジーッと覗き込んだ途端「これ可愛い!!」って、大声で言った人が恥ずかしそうにするのを見て、そっと微笑んだ。
そうなのだ。絵をみてもられるって嬉しいんだ。
誰かが私の絵から何かを見つける…まるで秘密の暗号を見つけるようじゃないか。
まつろーさんのnoteで、奥さんが純粋に絵を見てもらう行為だけをしている様を書いていて、私には分からなかったのだが、少し分かった気がする。ほんの少しだけだけど。
そうなんだ。
絵はどんな絵も秘密の暗号を隠し持ってるのに、お金や、技法や、流行や、そんな尺度で見ちゃったらゲンナリするに決まってる。だってそんな尺度で見たら秘密の暗号に気付けないもの。
だから、絵だけを純粋に見てほしい…。

天泣



本物を見ないと分からないと思うが…。
「この絵、雨音が見える。」
と、友達が言った。
え?っと思って覗き込む。
「ホントだ。旋律が見える。線は見えてたけど気付かなかった。」
「えー、分かんない。どこが?」
「ここ。」と、二人で声がそろった。
「ホントだー。スゴイ。」
スゴイね…と、三人でしばらく感動していた。
雨雲と雨と傘とその旋律…。

私が旋律まで描けるようになるかは不明だけれど、
いつか描ける時が来ると思いたい。
今回の絵は、本意じゃない。
しかもどこが本意じゃないのかが分からなかった。
そんな時もある。
誰かが本意じゃ無さを見つけたら、それは正解に近いと思う。

…そんな事を考えながら、この会で過ごしていても、きっと私は変わらないと感じた。どんなに時間をやりくりしても時間は限られ趣味から抜け出せない。時間があればイイわけではないけれど、同じ事をしていれば何も変わらないだろう。
絵の旋律に気付いた友達は仕事でイラストを描いている。
ふと、その友達に、
「二人で絵のサイトを立ち上げない?」と、言ってみた。
返事は貰ってないんだけど、きっと二人なら何か楽しい事が起こるんじゃないかと思えた。
一歩踏み出したのか、タダの思いつきかは分からない。でも、一歩踏み出してみたくなったのだ。
太陽が毎日暑すぎて、ちょっと頭が麻痺してるだけかもしれないが。

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