切なくて、たくましい、混沌の、岩井俊二監督スワローテル。
バブル期の終わり頃、シンガポールに行った。
中国人街に行ったら、道路脇で、古びた空き缶に放り投げられたように日本の小銭が売られていた。他の国の硬貨も混じっていたけど、鈍く太陽に光る100円玉が目を引いた。
いったい、いくらで売られているのかは分からなかったけど、戦後の廃品回収の鉄クズみたいで、ヒドく安物に見えた。
その頃、日本円はまだ強くて、ベッドメーキングのチップにシンガポールドル1ドルを置くよりも、100円を置くほうが喜ばれた。
まァ、レートを考えれば、そうなんだろうが、硬貨じゃ両替出来ないし…。なんか、特殊な使い方があったのだろうか?
裏社会が日向の道端に並んだようなその場所で、ノンビリ質問する勇気はなかったな〜。
中国人街は、色んな物が雑多に並んで、なんか混沌としてて、ここにモノの値段の基準があるのか不思議だった。
そして数年後の1996年
「スワローテル」は
私が見た、裏社会が、日向に並んだような中国人街に、プラスいかがわしさが加わった世界だった。
実は、あの中国人街に扉があって、その扉を開いたその奥の世界のみたいだ。
私は、この世界に住んでみたい。
岩井俊二監督の創り出す、どこにもないけど、ありそうな世界が好きだ。
人々の心の揺れも、切なくて好きだし、どの人も、何故か魅力的。
舞台は、円を求めてやって来た密入国者が住む街、yen tawn。それは日本のどこか。そして、その街に住む人達もyen tawnと呼んだ。
事件はグリコ(チャラ)が暴力団の組員を殺すことから起きる。
その死体を埋めて処理しようとしたところ、死体から偽札偽造の磁気データが書き込まれたカセットテープ、my weyが現れた。
磁気を再生して偽札の作り方を解析したのが渡部哲郎演じるスナイパー、ラン。こんなのはタダのマジックだと、偽札作りを否定するが、三上博史演じるフェイフォンはたくさん偽札を作り出し、グリコのためにライブハウスを買い、バンドをつくって、yen taunを出ていく。yen tawnの仲間たちもバラバラになり、ランと子供たちだけがyen taunに残り、リサイクル業をしている。
yen tawnは、見知らぬ者たちが集まり本当の家族のようだった。
伊藤歩演じるアゲハは、yen tawn2世。娼婦の母が死に、グリコに拾われる。姉妹でも親子でもないけれど、家族としか言えない。グリコもフェイフォンもアゲハにとって愛情で繋がった家族だった。
岩井俊二監督の小説、「庭守る番犬」の中でも、そんなシーンが出てくる。岩井監督はきっと、家族は血の繋がりとは思っていない気がする。きっと、助け合って生きられたら、それが家族で良いんじゃないかな。血縁で、婚姻で、愛情のない家族よりずっといい。
物語はmy weyでグルグル回っていく。カセットテープから流れ、グリコがmy weyを歌い、フェイフォンが歌い、そして、終焉へ。
my weyが、こんなにかっこいい曲と感じた事がなかったけど、もちろん、ストーリー展開の上手さゆえ。3人が歌うmy weyはシーンによっての、それぞれの意味があり、フェイフォンの歌うmy weyは胸が締め付けられる。
アゲハの持ったバックには、千円札がギッシリ入っている。一万円ではなく千円札。
千円札が運命を変えていく。
私は、ここでも思う。
お金っていったいなに?
そんな疑問などなく、アゲハはお金を作り出す。痛々しいほどアゲハは必死だ。アゲハが欲しかったのはお金という道具。お金自体じゃない。フェイフォンやグリコとまた家族を買い戻したかっただけ。
よく見えないかもしれないが、千円札をくり抜いて、こちらをのぞくちびっこギャング。アゲハはちびっこギャングのボス。
本物のyen tawnのギャングも出てくる。ギャングのボス、リョウ リャンキ(江口洋介)。リョウ リャンキはグリコの生き別れた実の兄。リョウ リャンキこそ、このmy weyの持ち主。もうカッコ良すぎる。
my weyを取り戻すために、子分のギャングたちが襲撃して来るのだが、何と! ラン一人で、バズーカーを撃ちまくり、ギャングたちを一掃してしまう。
襲撃に巻き込まれた記者、桃井かおりが「なにこれ? 戦争?」
と言う。
日本でこんなのあり得ないけど、
それがかっこいい。
ラン最強!!
襲撃に巻き込まれても、桃井かおりはやっぱり桃井かおりだった。
名シーンを上げたいけど、
上げきれない。だって、どこを切っても逞しくて、カッコいい。
でも、上げるとしたら…。
ファイフォンが3度、空を空を見上げるシーンがある。
1度目は、
「人は死んだら空に登っていく。でも雲に触れたら地上に降ってくる。最後に魂が辿り着くところが天国なら、ここは天国か?」と、雨が降り出しそうな空を見上げる。
それは、yen tawnでの幸せな時間。私は、そのまま暮らしたら幸せだろうにと、思った。でも、人は夢を追うものなんでしょうね。…と言うか、物語は始まらない。もしかしたら、夢も追わずヒッソリ暮らすほうが、人は幸せなんだろうか?
2度目は、
密入国者として収監されるのだが、なぜか釈放される。人気のない歩行者天国で見上げると、yen tawn bandの大きな看板。見上げるシーンが、スローモーションでアップになる。
フェイフォンの夢がかなった瞬間。
なんか、幸せなシーン。
3度目は…。
是非、スワローテルを見てほしい。きっと、人が空をどんな時見上げてしまうか、気付くかもしれない。
3人の歌うmy wey。
チャラのあいのうた、タイムマシン。
今でも、タイムマシンはよく聞く。
必死で守っても、一握の砂さえ残らない自分と重なって、そんなもんだよと、自分を納得させるためかもしれない。
最後に。
スワローテルのその後を考えてしまう。と言っても、バブルが弾けて、30年くらい経っているから、想像しやすいとも言えるけど。
バブルが弾けて、yen tawnの住民はひっそりと消えていくだろう。きっと、日本に残った人は極わずか。祖国に帰り、「日本なんかクソだったよ。」
「yen lashがあったなんて、今や嘘みたいだよね。」
なんて言っている気がする。
これを書いている間、とても幸せだった。スワローテルの世界を彷徨っていて楽しかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?