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自然栽培と、彼女。 : short story




あの日、
「今日はあの店に行かなくちゃ。」
と、思ったんです。
だけど、なぜ行かなくちゃいけないのかは、自分でも分からなくて、うだうだとしていたら出発は午後を回ってからになってしまいました。
行ってみると、人がごった返し駐車場は満車で、車でお昼ご飯やスイーツを食べる家族がいっぱいです。仕方ないので停めていいのか分からない場所に車を停めました。

混雑していたのは、イベントで自然栽培のマルシェが開かれており、野菜はもちろん、お米や、自然栽培の野菜で作ったスイーツ、焼き芋、コーヒー、ランチセットなどが売られていました。
自然栽培の野菜が並ぶ場所は、何と表現すればいいのか難しいのですが、良い波動を感じます。出店者によっても波動は変わるのですが…。
自然栽培のマルシェに行くと、私まで元気にしてくれるのです。

沢山の野菜を見ながら、出店の農家さんと話をしました。それぞれの野菜の特徴や栽培の仕方…聞きたい事は山のようにありました。
お給料をもらいながらの農業体験や、畝たてのボランティアがいる事なども教えてもらいました。
どの方も、とても親切なのです。

一番奥にあったブースが、着いた時から気になっていました。一体そこに何があるのかさえ分からないのに…。
そのブースは3つの農家さんの共同出店で、三人並んだ真ん中にいたのが彼女でした。
彼女の波動はとても強くて、他の二人も良い波動だけれど比べものになりません。
驚いて私は凝視してしまったくらいです。

行かなくちゃと思ったのは、この事かしら?…と、思ったくらいです。

すると彼女が言うのです。
「種を一緒に作りましょう。うちに見に自然栽培を見に来てもいいですよ。」
と。


差し出された手を、私は素直に受け取るタイプです。
どちらかと言うと、こじ開けて進むタイプではない気がします。



そして、彼女の圃場見学したいことを伝えると、快くお受けして頂き、早速、伺えることになりました。
彼女の家は南斜面にあり、その周りに段々に畑や農業ハウスがありました。
朝、霧雨が降ってその後晴れたので大きな虹がかかり、彼女の家に着いた時は快晴で、暖かな光が南斜面を照らしていたのです。

自然栽培も、野菜の日向か日陰か、畝は必要か、種の蒔き時、育て方から、出来たものをどう梱包するか、どこで売れるのか、経理はどうすればいいのか、税金はどうなるのか?
全てが謎で、知りたい事だらけで、気が遠くなりそうな程なのです。

でも、それら全てを一遍に知る事は出来ないだろうなぁとは、思います。
ずっと昔から、新しい事を始める時は、ネバーエンディングストーリーを思い出します。
『始まりは暗いんだよ。小さな光が見えて、その光がだんだん広がって…。』
初めは真っ暗で何も見えないけれど、光が世界を少しずつ映し出す、そんな風に世界とは現れるものなんだと思います。
また、新しい物語が始まるのです。
だから、彼女の圃場に伺っても特に質問は決めていませんでした。自然に色んな事を受け入れる…それでいい気がしたのです。

彼女の家に行くと、ウィリアム含め4羽の鶏が出迎えてくれました。
独り言で、
「これが君たちのお家なの?」
と鶏小屋の様なものを見つけつぶやくと、ウィリアムが足元をかすめてきました。
「そうか、ここで寝るんだね。」
そう言うとウィリアムは、他の鶏の所に戻って行きました。
庭に培養土ではない、自然の土を使った種が蒔かれ芽を出していました。
これは今橋さんの自然栽培の仕方です。
芽を出した植物たちはどれも元気そうでした。
「私も早くやりたいなぁ。」
そう思うと、わくわくしました。
培養土よりしっかりとした苗に思えます。今まで培養土を使わないと育たないと思っていたのは、思い込みだったのでしょうか?  まず、それを確かめたい。



自由に庭を歩いています
ウィリアム




庭にある全ての苗たちに声をかけてみていると彼女が現れました。
農作業服の彼女は、マルシェの時と雰囲気が違います。
マルシェの時はもう少し少女っぽい感じ。
お互い、フルネームを交換し、話す事が溢れて、どこから話したらいいのか分かりませんでした。
まるで、赤毛のアンの腹心の友ダイアナとの出会いみたいです。

そして、ウィリアムに鶏小屋をきいた事を話すと、
「ん?」
と言うと顔をしました。
「ウィリアムは、知らない人を見ると噛むんです。噛まれませんでしたか?」
「噛まれませんでしたよ。」
と、言うと、
「いつも噛むのに。」
と、不思議そうに私を凝視しました。


「畑を見ましょう。」
そう促され、畑を見てまわりました。
初冬というのに、沢山の野菜たちがいました。
「いいなぁ〜。」
心の中でつぶやきます。

一ヶ所目の畑に行った時、元気な土に現れる、オオイヌノフグリやハコベたちが沢山いました。
「いい雑草たちが沢山いますね。」
そう言うと彼女はまたびっくりした顔をしました。
「ここの畑に沢山の人が来たのですが、誰もいい雑草が生えているって言う人はいませんでした!!
だれか、そう言ってくれないかなぁって、思っていたんです。」
と、彼女は言いました。
「それを言ってくれて嬉しいです。」
と、嬉しそうに微笑みました。
私からすればそう言ったのは自然な事でした。だって、昔から見て来た雑草だったし、オオイヌノフグリは大好きな草だから。雑草とまとめて呼ぶけれど、本当はもっと良い別の名前があればいいのにと思っています。
「今橋さんもそう言ってましたよね。」
と、私が言うと、
「今橋さん! 
そうです。
知ってるんですね!
私、ラーニング講座にも行きました。」
と、二人で進みたい方向が同じなのを確認しました。
全く別の場所で、別の暮らしをしていたのに、同じ感覚を共有する不思議さ…。

畑を次々歩きました。
「ここはね。まだ、土が汚れてるんです。」
と、虫食いのある野菜を見たり、
「ここはね、間引きしなかったから、植物を植え過ぎて虫が来たんです。忙しくて手が回らなくて…。」
と、びっしり植った葉物野菜を見て、
「山納さんが言ってましたよね。植え過ぎると土の力が弱くなって虫が来るって。」
と、彼女が言い、
「あ、銀ちゃんですね。イタリアのトマトを植えて、イタリアにいる虫が湧いて出たって。」
と、私が言うと、
「え?
知ってるんですね!」
と、また共通項を見つけてお互いびっくりしあったりしました。
彼女も私も、自然のパワーは当たり前だと思っている様です。信じるなんて言葉ははなから入りません。
「だって、そうなんだもん。」
そんな感じなのです。
信じる、信じない…ではなく、そうなのです。

畑を回りながら、沢山の野菜や種を頂きました。
嬉しい。
こうして自家採取の種が増えれば、土に合った強い種たちが育っていく。
種についても沢山話しました。


「汚れているのは土なんです。」
風の谷のナウシカのセリフです。
彼女がナウシカを知っているかは分かりません。
種と土。
その二つ。
本当はそこに水も加わるのかもしれませんが、土が汚れていれば水も汚れてしまうのです。
でも、土が元気になれば水もきれいになるでしょう。
植物と土が浄化しあい、それを虫たちが手助けする…世界はそんな風に共存し合っているのです。
風の谷のナウシカには、森の人が登場します。出来るなら私は森の人になりたかったのですが、もう人が帰れる森はありません。

彼女と話しながら、そんな映像が頭の中を流れて行きました。

突然彼女が、
「今橋さんのやっていた実験をしたいのです。」
と言いました。
私は一瞬、何のことか分からなかったのですが、
「自然栽培の野菜と、慣行農法の野菜を使ったテストです。」
と言ったので、キネスオロジーテストだと思い出しました。
なんて面白い事を言い出すのかと、私は更にワクワクしてしまいました。

足を揃えて立ち、両手を組み下におろして、手のひらで相手が押すのを受け止めるのだけれども、その際、慣行農法の野菜と自然栽培の野菜どちらかを持つのです。
体に良い物は筋肉が強く働き、体に悪い物は筋肉は弱く働くと言うキネスオロジーテスト。
先ず私が慣行農法のネギを持ち、手のひらを彼女が力一杯押しました。少しだけふらついただけでした。
「あ、私、ヨガやってるから、体幹しっかりしてるんです。」
そう言うと、彼女は納得した顔をしました。
次に自然栽培のとうもろこしを持ちました。
私の手のひらに全体重をかけ彼女が押したので、なんと彼女は20センチくらい足が浮いていました。
私はと言えば、手のひらで彼女を空に飛ばせるんじゃないかと思えるほど、軽々と彼女の体重を受け止められたし、自分の体幹に強い芯が通った様で、今まで感じたことのないパワーを味わいました。ふらつくどころか、未知なるパワーを味わったのです。
彼女はムキになり私の手のひらを押し、その度に、足が20センチくらい浮いていました。
面白過ぎたのと驚きで、二人で笑い転げてしまいました。
彼女が野菜を持ち、私が押した時も同じでした。
とうもろこしを持った彼女はびくともせず、鉄か何かを押しているようでした。彼女の様に全体重をかけなかったので、浮く事はありませんでしたが…。

彼女といると、普段は分からない自分の事を知る事が出来ました。
普段沢山の人と関わっていますが、決してコミュニケーションしている訳ではない事が分かります。ただ喉から音を出しあい、通り過ぎているだけなのだと感じました。何も共鳴していないのです。不協和音を聞くだけなのです。そんな生活の中では、一体自分がどんな姿をしているのかさえ分からなくなっていた気がします。
誰かと共鳴し合えると言うのは、自分を保つのに必要な事なのかもしれません。
その中で、一番印象に残ったのは、私は人以外とは沢山話しをしていると言う事です。
土や虫、植物や動物、空や雲…。
畑の青虫を見つけると話しかけ、
「まるまる太っているね。」
と言うと、虫は、
「忙しいからほっといて。」
と、葉っぱを食べるのに夢中でした。
彼女に、
「冬なのに虫がまるまるしてますね。」
と言うと、
「虫たちは調整をしてくれているんです。」
と少し困り顔で返事しました。それはそうです。虫がみんな食べちゃうと、野菜が出来ませんから…。
彼女の飼い猫が私を見つけてやって来ると、何やら沢山訴えて来ます。
「そんなに沢山訴えて、君は甘えん坊だね。」
と、猫を撫でまわすと彼女が、
「その子は甘えん坊なんです。」
と笑っていました。
そんな風に、人以外とはコミュニケーション出来るのに、人とコミュニケーション出来ないのは何故なのか、今だに分からないのです。

彼女は、土の力は素晴らしいと何度も言っていました。
私はそんな土のパワーが不思議で仕方ありません。そう彼女に伝えると、
「土の中には、スプーン一杯で何億の微生物がいます。何億もの微生物が波動を出し合い、菌根菌、根粒菌も波動を出して繋がり合って、遠くに離れた菌とも繋がり合っていますよね。だから不思議ではないんですよ。」
と言いました。
本当にそう思います。知らない、見えないことの方が多いのです。動物たちでさえそのネットワークを理解しているのかもしれません。人間だけが、そのネットワークに参加出来ずにいる気がします。

自然栽培が連れて来た彼女。
世界は本当に、キラキラした光で繋がっていて、必要なものを与えて続けている様に思えました。
ただ、それを見る事は出来なくて、感じるしかないのだろうと思うのです。





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