シェア
瑜伽(ゆが)
2023年6月30日 17:30
「街クジラ、に行きますよ。」引っ越し業者らしい三人のアンドロイドが、ドアを開けるとそう言った。そう言えば…。100歳を超えた一人暮らしの人たちが、街クジラに住むことになると聞いた事がある。「何の通知もありませんでしたが…。」「ネットの広報で知らせていましたよ。僕らは依頼を受けただけなんで。」そう言えば、何かお知らせが点滅していたような…。戸惑う家主をよそに、あっという間に荷物
2023年6月30日 12:00
街クジラは、ブワーと大きく潮を吹くように蒸気を吐いた。上空の冷たい空気に触れた蒸気は、霧雨みたいに地上に降っていく。太陽の光がそこに当たると、大きな大きな虹を作り出した。街クジラの窓にへばり付き、「虹を越える!」と、知らずに声はマックスになっていた。でもそれは、わたしだけじゃない。あちらでも、こちらでも、「わー、虹!」とか、「虹の橋を通り過ぎる!」とか、みんな、感動で声
2023年6月23日 22:19
「海砂糖」と、泰大に返事をした。「海砂糖? どこそれ?」「知らないけど、母さんが言ってた。今、連れて行きたい所なんだって。」「海で泳いだら、ベトベトしそうだぞ。」「うーん…。海岸が金平糖で出来てるんじゃないかな。」「海で泳いだら砂糖のシロップ漬けになるんじゃないか?」クリスマスケーキのショートニングで出来たサンタクロースが浮かんで来た。折角の夏休みなのに、全然楽しくな
2023年6月9日 18:06
「ガラスの手」に触ろうとした手を、マオはそっと引いて、「キレイね。」と言った。ガラスの手はライトを煌々と受けて、キラキラ光っていた。「うん。」「私の手もこんなに綺麗だったらいいのに。」マオは、キラキラ光るその手ではなく、その形状を言っていたらしい。節がない細く伸びた指。確かに綺麗だ。でもそれは、人間としての手ではなくて、オブジェとしての美しさだ。「こんなに
2023年6月4日 10:35
「恋は猫」生垣の傍を通った時だった。子猫の鳴き声がして、生垣を覗き込むと、生まれたばかりのような子猫と目が合った。私がかがむと、私によじ登り爪を立て離れなかった。「ミャア ミャア」子猫特有の声で鳴いている。お腹が空いたの?そう思ってもバックの中に食べ物は何もない。アパートに戻って牛乳を持ってきてやろうと、思い、子猫を離そうとしても、子猫はしっかりしがみついている。