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【ヴァサラ戦記二次創作】コジローと田舎少女

 「……うん、うめぇ!」
無造作な黒髪、立派に蓄えた顎髭の男、コジローは団子屋で舌鼓を打っていた。任務前の腹ごしらえと称しては、団子を数本平らげたところである。
 元はといえば、任務のついでに上官である寅に土産として買うつもりだったのだが、すっかりと自分だけが腹を満たす結果になっていた。

 「いっけねぇ、寅さんの分買っておかねぇと」
悠長に食べている場合ではない。任務前とはいえ、ずっとくつろぐわけにはいかないのだ。席を立とうとしたその時、一人の少女が現れた。
「席空いてねぇべ……」
盛況の団子屋は、ほとんど満席の状態で座るところがなく少女は困ったようにお腹をさする。
「嬢ちゃん、ここ座るか? 拙者はもうじき、ここを発つんでな」
サッと立ち上がって声をかける。
「いいべか? ありがとう、おじさん!」
パッと顔を輝かせて、礼を述べながら、少女は椅子に座る。
「おばさん! 団子50本よろしくだべ!」
「ご、50!?」
尋常でない量の注文に、コジローは思わずずっこけそうになった。
「正気か、嬢ちゃん!?」
「え? いつもこれくらい食うべ」
あっけらかんとして答える少女。普段からこの量を食べている様子らしい。

「へい、お待ち。餡子団子50本だよ!」
ドサッという音と共に、餡子のついた団子の皿が少女の前に現れた。コジローをはじめとした、周りの客は少し引いた目線でそれを眺めているが、少女はお構い無しに、目の前の団子に目を輝かせている。
「美味しそう……! いただきます!」
そうして、山積みになった団子を食べ始めていく。あれよあれよという間に団子が消えていく。中肉中背の少女の体のどこに大量の団子が消えていくというのか。
「すげぇな、嬢ちゃん」
「ん? だって、腹が減っては戦は出来ぬって諺があるべ。だから、食べられるうちに沢山食べとかねぇとダメなんだべ」
腹が減っては戦は出来ぬ――。確かにその通りだ。腹拵えをすれば、身体の底から力が湧いてくる。 いくら技を鍛えようと、空腹では力は出ないし、精神の安定も保てない。
戦ではいつ飯にありつけるかわからない。食べられるうちに食べる、腹拵えの大切さを理解した少女……。意外とやり手なのではないだろうか。
「んん〜、美味いべ……」
しかし、美味しそうに団子を頬張るその姿は、どこにでもいる普通の少女だ。それにこの農民のような出で立ちに、ところどころに農作業時についたであろう泥が付着しているのが見て取れた。恐らくは作業後の休憩に立ち寄ったのだろう。

 (拙者の考えすぎだな)
戦場が仕事場の彼は、つい相手の力量を測る癖がついてしまっていた。このように幸せそうに団子にかぶりつく姿から、剣を持って戦うようには到底見えない。
「そうか。拙者はこれで……。よく噛んで食べるようにな」
「席譲ってくれてありがと、おじさん!」
コジローは上官の土産として、餡子の団子を購入し、その場を去った。
(まだまだ世の中には、面白ぇ奴がいるなァ……)

しばらくして。 ツクシ村まで距離もある上に、ターゲットも現れない。コジローは腹が減ってきた。適当な草地に腰掛けて、団子の包みを開ける。
(1本くらいなら……バレねぇか)

結局、全部食べてしまうことになるとはこの時のコジローは思いもしなかったのであった。

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