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眠れないので真夜中に妹と雑談したら余計に眠れなくなった。

「寝れねぇ……」

 スマホで時刻を確認しようとしてやめた。ブルーライトは目の刺激が強すぎて逆に眠れなくなると聞いたことがある。外はまだ暗いのでおそらく夜中の一時か二時くらいだろう。
 喉が渇いたのでリビングに向かうと足音がした。俺ではない。

「……お兄ちゃん」

 妹の声だった。床がぎしぎしと鳴っている。

「どこいるの?」
「ちょっと待っとけ、スマホのライト付けるから」
「ダメだよ。光で覚醒しちゃう。まだ外は漆黒の闇なんだから光を付けてはいけない」
「中二病みたいな言い方だな」
 
 妹は現在中学二年生、現役である。
 
「冗談はこれくらいにして何してんの?」
「喉乾いたからジュース飲みにきた」
「もしかして冷蔵庫開ける?」 
「そうだけど……開けたらダメなのか」
「ダメ、光で覚醒しちゃう。唾飲んどけばなんとかなるって」

 どうやら光るものはダメらしい。

「暇だから適当に会話しようよ。そのうち飽きて眠くなるかも」
「……もうちょっとマシな言い方なかったのか」

 少し癪ではあるが妹の言うことも一理ある。だが何を話せばいいのだろうか。そんなことを考えていると妹から話しかけてきた。

「じゃあ、今、夜中だし、夜中に関する話しようよ」
「夜中ねぇ」
「あ、ひとつ訊いていい?」
「なんだ」
「『夜中』と『真夜中』ってどう違うの?」
「ええ……」

 確かに似ているがあまり考えたことがない。ググりたいところだがスマホを使うと妹が怒る。

「あれだ。夜中は時間帯が広いんだよ。で、真夜中はピンポイントというか時間帯が狭い。たとえば深夜〇時から深夜三時は夜中で、真夜中は深夜〇時くらい……あくまでも俺の意見な」
「なるほど。じゃあ、今は夜中なのかな」
「時間がわかんねぇからなんとも言えないけど、多分夜中だと思う」
「真夜中じゃないんだ」
「残念そうだな」
「ずっと真夜中でいいのに」
「お前、それが言いたかっただけだろ」
「違う。……そうだ、今からYOASOBIでもする? もしくはヨルシカできないこととか」
「……お前絶対わざと言ってるだろ」

 今が昼なら思いっきりツッコんでたと思う。それができないのは少しもどかしい。

「あ~、なんか喋ってたらお腹減ってきた。カツ丼でも食べる?」
「カロリー高いな」
「お兄ちゃん、注文してよ」
「なんで俺?」
「だって電話苦手だし、時間遅いし」
「その台詞、そっくりそのまま返すわ」
「むぅ、カツ丼は却下か……」
「つーか、こんな時間に食ったら太るぞ」
「それもそーだね。じゃあやめとく」

 あっさり引いたな。まあこいつはそういう性格だからな。それはそうとまだ眠くならない。明日、じゃくて今日は休みだから遅刻を考えなくもいいが少しは寝ておきたい。

「ねぇねぇ。船ってなんで浮くの?」
「話変わりすぎだろ」

 しかも夜中と関係ないし。マイペース過ぎてついてくるのもしんどいわ。

「でね。わたし調べたの」
「調べたんなら訊くなよ」
「そしたらね。アルキメデスって人が浮かしてるんだって」
「海中アルキメデスだらけじゃねぇか。怖すぎるわ」

 それを言うならアルキメデスの原理だろ。

「今更だけどさ。まともに顔見えてないのに、普通に会話できてるのってすごくない?」
「言われてみればそうだな」

 目が慣れてきたので多少は見えるが、さすがにハッキリとは見えない。と、妹がふいにため息をついた。

「まだ眠くならないんだけど……どうしたらいいんだろ」
「無理に寝ようと思うから逆に寝れないのかもな」
「ああなるほど。嫌なことを忘れようとするほど逆に忘れられない、みたいな」
「……まあ、そういうことだ」

 それから俺は小一時間ほど妹と話した。気が付いた頃には俺も妹もリビングで熟睡していた。

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