【書評】SMART CUTS〜時間をかけずに成功する人・コツコツやっても伸びない人〜
1. なぜ「SMARTCUTS」が必要なのか
従来型の「努力至上主義」への疑問
多くのビジネス書や成功哲学では「継続した努力」や「コツコツ積み重ねる姿勢」の重要性が繰り返し説かれます。著者シェーン・スノウも、努力をまったく否定はしていません。しかし、現代の激しい変化の中では、ただ時間をかけて突き進むやり方だけでは限界があるというのが本書の出発点です。
• トレンドや技術の変化が早い
→ 昔ながらの方法に固執していると、チャンスを取り逃がす。
• 格段に広がった選択肢
→ インターネットの普及で、学び方や人脈づくりの方法が多様化し、いかに“早く”動くかがより重要に。
そこで提唱されるのが「SMARTCUTS」という新しいアプローチ。これは、“ただのショートカット(手抜き)”ではなく、“目的を達成するためにより優れた仕組みを構築する”近道のことを指します。
2. SMARTCUTSの特徴と事例
2-1. 横展開(レイタル・シンキング)
本書では、違う分野で成果を上げた技術やアイデアを“横取り”して自身のフィールドに活かす事例が多く紹介されています。たとえば、スタートアップ企業が先行企業のノウハウを観察し、自社に“最適化”して取り入れるといったイノベーションが挙げられます。
学びのポイント
• 他業界の成功パターンを学ぶ
「自分の業界に閉じこもる」のではなく、似た構造や問題をクリアした他業界の事例を参考にする。
• 効果検証をこまめに行う
いきなり大きく真似るのではなく、小さく導入し検証することで失敗リスクを抑える。
2-2. 階段を“飛ばす”考え方
起業家の多くは、“昇進の階段”をひとつずつ踏む代わりに、自分の実力や人脈、技術を武器に一足飛びでトップレベルへ到達してしまうケースがあります。「それはたまたま運が良かっただけじゃないの?」と思いきや、そこには“リスクを取る戦略”や“最短距離を見極める目”があると著者は説明します。
学びのポイント
• 現在の常識を疑ってみる
何年もかけて昇進しなければいけない、という前提を当たり前と思わない。
• メンターや協力者の活用
早い段階で“格上”の人のサポートを得ることで、経験をショートカットする。
2-3. 成長を加速させる仕組み
SMARTCUTSを使いこなす人たちは、自分なりの“学習環境”づくりにも長けているといいます。本書では、ハッカーが“技術共有コミュニティ”を作ったり、起業家が“目標達成を公言する場”を設けたりしている例が紹介されます。
学びのポイント
• 継続的なフィードバックループ
自分の行動をチェックしてくれる他者の存在が加速度を生む。
• モチベーション維持に役立つシステム
たとえば、定期的に進捗を共有する場や習慣化できる仕組みを整える。
3. SMARTCUTSの実践と注意点
3-1. “ズル”との違いを理解する
著者は繰り返し「SMARTCUTSはただの近道や手抜きではない」と強調します。結果だけを得ようとして不正に近い手段を使ったり、他者を踏み台にするようなやり方を指しているわけではありません。
• イノベーティブな合理化か、不正なショートカットか
社会的ルールや信頼を損なう方法では、長期的な成功は難しい。
• “一見ズルい”発想を正しい方向で用いる
広く公開されている情報や技術を自分の領域に転用するのは立派な“戦略”だが、誤解されないよう倫理や透明性にも配慮する必要がある。
3-2. 大きな“WHY”を設定する
また本書は、「短時間で成果を出すには自分の行動を突き動かす強い意義・目的が欠かせない」と説きます。ただ単に「楽して成功したい」というモチベーションだけでは長続きしないし、壁にぶつかったときに挫折しがちです。
• 価値観や使命感を明確にする
「このビジネスで社会のどんな問題を解決したいのか」「自分の強みや情熱はどこにあるのか」を言語化する。
• 周囲の巻き込み
大きな目的に共感してくれる仲間やユーザーの存在が、挑戦を後押ししてくれる。
3-3. 小さく試し、大きく育てる
本書の成功事例を見ても、最初から大きなリスクを背負って一気に勝負する人ばかりではありません。むしろ「小さく試す→結果を見て修正→拡大する」というステップを踏むことが多いのです。これはリーンスタートアップの発想にも近いと言えます。
• 試作品やテストマーケティング
素早く市場の反応を確かめながらブラッシュアップする。
• 失敗を“早期発見”できる体制
失敗に気づければ、転んでもダメージを最小化でき、方向転換が容易になる。
4. 本書から得られる具体的な学び
1. 常識を鵜呑みにせず、“本質”を問い直す習慣
“当たり前”だと思っているプロセスや手順が本当に最善なのか? 他の分野で短縮できている事例はないか? という疑問から、新たな近道が見えてくる。
2. 目的意識を高めて行動に一貫性を持たせる
どんなSMARTCUTSも、その背景に「これは自分の大きな目標に直結している」という明確な意義があると長く続けやすい。
3. 既にあるリソースを活かし、スピードアップを図る
ゼロから自力で作り上げるのではなく、他者の知見や実績を積極的に吸収しながら自己流にアレンジするのが鍵。
4. 失敗も学びと割り切る“試行錯誤”のマインド
SMARTCUTSを試した結果、期待通りにいかなかった場合も、次の挑戦への教訓として捉える。そこには必ず学びがある。
5. 書評・まとめ
5-1. 本書の魅力
• 具体的な企業や個人の成功事例が豊富で、単なる理論書ではなくストーリーテリングも楽しめる。
• 「コツコツがすべて」という従来のイメージを打ち破り、“賢い戦略”を肯定的に捉える新鮮さ。
• 自己啓発色が強いわけではなく、複数の産業・領域で成果を出した実例を元に論じているため、再現性の考え方も取り入れやすい。
5-2. 注意点・限界
• 日本のように多くの慣習や規制のある社会で、どこまで本書の事例をそのまま当てはめられるかはケースバイケース。
• 先駆者の成功談には「運」や「タイミング」も無視できない。しかし著者も「あらゆる成功が再現できる」とは言っていない点は好印象。
5-3. こんな人におすすめ
• 「コツコツ続けているのに成果が出ない」と感じている人
→ 他のアプローチや発想転換で、努力をブーストできるかもしれない。
• 新しいビジネスやプロジェクトをできるだけ短期で軌道に乗せたい人
→ リーンスタートアップや横展開の考え方が具体的に示されているため、すぐに応用しやすい。
• 既存の成功本や自己啓発の常識に疑問を持ち始めた人
→ シェーン・スノウの視点を取り入れることで、凝り固まった思考パターンから抜け出すきっかけになる。
最後に
『時間をかけずに成功する人 コツコツやっても伸びない人 SMARTCUTS』は、「成功への近道は存在するのか?」という問いに対し、「正しい仕組みづくりや思考の転換ができれば、誰にでもある程度の近道は可能だ」という実例を示してくれる一冊です。著者のメッセージは、努力を否定するわけではなく、**「ただがむしゃらに努力しているだけでは到達できない世界がある」**ということ。そこに気づけるかどうかが、成功への加速を生むかどうかの分岐点とも言えます。
読んだあとは、自分が今取り組んでいるプロジェクトやスキル習得に対して「SMARTCUTS的な近道はないか?」を常に探してみると、新たな突破口が見えてくるでしょう。自分のやり方を省みる、良いきっかけになるはずです。
おすすめ記事