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「内臓脂肪減少薬」使った20代男性に起きた"惨事"!? 「おならで便が漏れる」を甘く見ていたら……

「汚い」という理由で掲載拒否された原稿供養です。

(取材・文/千駄木雄大)

食事がチャラになるか? それとも大惨事か?

 3月4日、大正製薬は内臓脂肪減少薬「アライ」を4月8日に発売することを発表。これは内臓脂肪と腹囲を減らす効果が期待できる薬で、医師の処方箋なしで、薬剤師のいる薬局のみで購入することができる。
 
 通常、食事中に含まれる脂肪は、脂肪分解酵素「リパーゼ」によって分解されて吸収される。しかし、「アライ」を服用することによって、有効成分である「オルリスタット」がリパーゼに結合し不活性化することで、脂肪の分解を阻害して脂肪の吸収を抑え、便と一緒に排出されるのだ。

アライやオルリスタットの詳細についてはこちらの記事を読んでほしい

(日本でも承認「肥満治療薬」にあるこれだけの課題/東洋経済オンライン)

 ただし、誰でも購入・使用できるわけではなく、服用できるのは18歳以上、腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上の者に限られる。購入希望者は、事前に1カ月間、腹囲や体重のほか、食事や運動の改善状況を記録する必要がある。生活習慣の改善に取り組むことが条件(「2型糖尿病」や「高血圧」など、肥満に関する病気になっていないことも条件)で、対面で薬剤師のチェックを受ける「要指導医薬品」に位置づけられる。
 
 しかし、副作用として、「放屁で便が漏れる」「放屁しただけでも油が飛び出る」といった症状が想定されている。そのため、日常的におむつや尿取りパットを着用することが推奨されている。
 
 長年の夢がついに叶ったように思えるが、その一方で文字面だけでも副作用が気になる……。そして、この薬が解禁されると、薬剤師から処方された薬を横流しする者が現れる事態も容易に考えられる。
 
 そこで、本稿ではアライと同じオルリスタット成分を含む薬を飲み続けた筆者の体験談を紹介したい。警報記事ではあるが、ずっと汚い話が続くので、注意してほしい。

なぜ魔法の薬が日本では未承認なのか?

 リベルサス、デエビゴ、マイスリー、ウルソ……。筆者の身体の中では、常によくわからない名前の薬が身体中を巡っている。それぞれ、持続性GLP-1受容体作動薬という肥満治療薬、不眠治療薬、睡眠導入剤、肝・胆・消化機能改善剤である。要は肥満とアルコール依存症の治療のための薬たちである。
 
 コンビニの雑誌コーナーの週刊誌の表紙を見ると、「薬からの卒業」や「飲んではいけない薬」といった見出しが並んでいる。確かに薬を飲まないに越したことはないが、筆者のように飲まないと生活できない人間もいるのも事実だ。
 
 そんな筆者でも「薬からの卒業」や「飲んではいけない薬」と実感したのが、「ゼニカル」という肥満症を改善するためのウエイトコントロール薬だ。
 
 これはアライと同様にオルリスタット成分が含まれ、脂肪分解酵素の働きを抑え、食事中の油分約30%を吸収せずに体外へ排出する効果がある(ゼニカルはひとつの錠剤に120mgのオルリスタットを含むところ、アライは60mg程度)。
 
 この薬は肥満治療薬としてアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)から正式に認可されているというが、日本では医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」のため、ドラッグストアや薬局などで購入することはできない。
 
 まるで、魔法の薬のようなのに、なぜ日本ではまだ承認されていないのか? それは、アライと同様、もしくはそれ以上の強烈な副作用のためだろう。

「アライ」の類似薬「ゼニカル」のジェネリック医薬品

 2020年頃、20代後半の筆者のBMIは30を超え、腹囲も100cmを越えていた。しかし、常に仕事に追われており、ダイエットや食事制限にまで頭が回らなかった。
 
 腹囲が100cmを越えると完全に肥満体である。友人の結婚式に出席するためにレンタルスーツ屋に入ったところ、筆者を見た店長から「あんたに入るスーツはない」と即退店させられる始末だ(もちろん、スーツ屋は悪くない)。
 
 太っていても良いことはないので、「なんとか楽に痩せられないか?」と考えていたところ、「トイレに油が浮いてたけど何事!?」というキャッチフレーズと、謎の透明の物体を便器の前で手にした女性の「レコメンド・ウィジェット(配信システムでランダムに表示される広告)」を目にした。
 
「今ついている脂肪が全部トイレに排出されたら爽快だろうな」
 
 そう思っていたところ、インターネットでアフターピルなどを購入している友人から「ゼニカル」の存在を教えてもらった。
 
「これ飲んだら食べたものが全部、油としてお尻から排出されるよ」
 
 その日の夜、筆者はインド製の「オルリガル」というゼニカルのジェネリック薬品を注文するに至った。
 
 どうやって、入手したのか気になる読者も多いと思うが、ここまでの記事を読んできて誰もが最初に思いつく方法ということだけは述べておきたい。あくまでも、警報を促したいのであって、手法までは明らかにしたくないのだ。決して非合法なやり方ではないのだけは前置きしておきたい。強いて言うのであれば、クレジットカードはJCBしか対応していなかった。
 
 そして、数週間後。筆者の元にお腹を出したインド人女性が、爽快な顔で踊っているパッケージの薬品が届いた。84錠入っており、通常は食後に1錠飲むため、1日に合計3錠飲むわけなのだが、当時の筆者は日中は忙しくて食事をする時間もなく、朝は深酒の影響で食欲もなかったため、夜中にしか食事を取らない1日1食という状態。そのため、薬の服用も夕食の後に「真っ青なカプセル」を1錠飲むだけであった。
 
 それでも、効果は絶大だった。薬を飲んだ翌朝、トイレに入ったところ、とてつもない悪臭を放つ油まみれの赤い便が排出された。それを見た瞬間「これは効果がありそうだぞ」と思うようになった。
 
 それから、毎晩食後に薬を飲んで、翌朝に排便していたのだが、前日にあまり食事を取っていなくても、想像以上の油が排出された。

「食べ放題でも中華料理でもなんでもかかってこい! すべて排出できるのだから」

※ここから便や放屁の話が続きます(閲覧注意) 

暴発の危険性大! 恐怖の「油爆弾」

 しかし、1週間くらい経過した頃に徐々に生活が不便になってきた。まず、排便する機会が増える。もともと、筆者は便秘気味で2日に1回くらいしか排便できないのだが、薬を飲み始めてから、お腹がゆるくなったのかトイレに行く回数が増えた。それも、朝の排便の理由はわかるのだが、2〜3回目は油しか出てこないのだ。

 冷静に考えると、人間が肛門から油を垂れ流すことはないので、異常事態である。 おまけに強烈な悪臭である。いくら最近の公衆便所や会社のトイレの脱臭機能が優れていたとしても、油を含む便、もしくは油だけでも独特の匂いが充満してしまう。

 さらに、便器は油を弾くようには設計されていないため、何度水を流しても油が落ちないのである。そのため、可能な限り朝の排便で出し切れるように、毎朝自分の腹を殴り続けた。
 
 しかも、トイレットペーパーで油を拭き取るのである。「水と油」とは言ったもので、いくらウォシュレットを肛門に当てたとしても、強くお尻を拭かないと油が残る。
 
 しかも、強く拭くと今度は悪臭が手に移る。ある時、会社で油を排出して、3回手を洗い、自分のデスクに戻ったのだが、洗った手にまだ匂いが残っていた。慌ててトイレに戻って再度手を洗おうとしたのだが、タイミング悪く急に会議が始まってしまう。
 
 脂汗をかきながら、ミーティングルームに入ると、社員のひとりが「なんか乾燥大麻の匂いしない? 誰かここでジョイントでも吸ったのかな」とニコニコと冗談を言い放っていた。残念ながらあなたが嗅いだのは乾燥大麻ではなく、筆者の便の残り香である。
 
 そして、最悪の事態が突如として訪れる。仕事が終わって家に帰り着き、一息ついたところ、下半身も力んでしまい、放屁してしまった。
 
「しまった!」
 
 ゼニカルもアライ同様、日常的におむつや尿取りパットを着用することが推奨されているのだが、筆者は恥ずかしくて付けていなかったのだ。
 
 放屁して数秒後、硬直していた筆者の下半身から「じわっ」となにかが漏れている感触と、いつもトイレで嗅いでいる悪臭が漂ってきた。急いで下半身に身に着けていたものをすべて脱ぎ捨て、風呂場でシャワーを浴びたところ、放屁で出たのは油だけであったが、パンツは完全に変色。さらに、油はジーンズにも被弾してしまい、分厚い生地のジーンズにも油が染み込んでしまった。
 
 何度も水洗いと洗濯液や漂白剤に漬け込んでいたのだが、まったく色と匂いが取れる気配がない。また、油なので食器用洗剤でも洗ってみたが、繊維を洗う用途ではできていないため、結局そのとき履いていたものはすべて廃棄した。
 
 その日から、放屁しそう、もしくは少しでもお腹がゆるくなると、すぐにトイレに駆け込むようになった。ただ、不幸中の幸いというか、その後。コロナ禍に突入してしまい、外出する機会が大幅に減ったので、大惨事が発生する機会は大幅に減った。コロナ禍の唯一の救いである。

洗っても洗ってもキレイにならない便器

 それでも、8カ月は薬を服用していたのだが、最後の1錠を飲んでからは、新たに購入することはなくなった。理由は「全然痩せなかった」からだ。
 
 日常生活で下手すれば大惨事を引き起こすリスクを背負ってながらも、一向に痩せる気配はなく、家の便器は食器用洗剤で洗う日々。有毒ガスとか大丈夫だったのだろうか?

 おまけに公共のトイレに入るときは本当に申し訳ない気持ちで、油を排出し続けても自分の腹が引っ込む気配はない。毎朝、腹を殴ってもプニプニである。
 
 ゼニカルのジェネリックはそこまでの値段はしなかったため、「金が惜しい」という気持ちにはならなかった。また、「肌の油分まで排出されてしまうため、手がカサカサになる」という書き込みなどもネットの書き込みなどで見たが、正直そこまでの影響はなかった。
 
 また、放屁で「油爆弾」が爆発したのは1回だけで、その後は上手にコントロールできるようにもなった。
 
 ただ、毎日強烈な悪臭を放ち、油まみれの健康的ではない便を眺めていると、精神的に不安になる。
 
「自分の身体の中は大丈夫なのだろうか?」
 
 こうして、筆者はゼニカルの服用をやめた。しかし、身体の中にまだオルリスタットの成分が残っていたのか、薬をやめて1週間はまだ肛門から油が出てきた……。

海外ではこれが当たり前なのか……!?

 筆者が服用したゼニカルはアライの倍の成分が含まれているため、強烈な悪臭や放屁の恐怖が常に付きまとっていた。きっと、アライの副作用はこれよりも落ち着いているだろう。
 
 また、テレワークが可能であったり、家から出る機会があまりない人にとっては、まだ放屁のリスク回避はしやすい。しかし、ここまで読んできて、果たしてこの薬を飲みたいと思う者はいるのだろうか? そもそも、ジェネリックが原因なのか、筆者が大食漢だったからか、理由はわからないが、結局筆者はオルリスタットでは痩せなかった。
 
 その一方で、欧米諸国ではこれらの薬はすでに販売が許可されており、しかも推奨されているという。つまり、海外では筆者のような「油爆弾」を抱えた者たちが、その辺を普通に歩いているということなのだろうか……?
 
 当たり前のことだが、「楽して痩せられる薬」というものはない。冒頭でも述べたが、現在筆者はリベルサス(持続性GLP-1受容体作動薬)という肥満治療薬も毎日飲んでいるが、一向に痩せる気配はない。
 
 やはり、適度な運動と食生活……。絵に描いたような健康的な生活に勝るダイエットはないのだ。

(取材・文/千駄木雄大)

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