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『夕暮れに夜明けの歌を──文学を探しにロシアに行く』ブックレビュー
ことばで表しきれないことを、画家は絵で、音楽家は歌で、ダンサーは踊りで表現するのでしょうが、たぶんこの本の著者、奈倉有里さんは、言葉で表し得ない瞬間をそれでもことばで伝えようとして、このエッセイを書いたのではないでしょうか。
この本は、平たく言えば20代の頃のロシア留学記です。
留学と聞くと、「勉強」や「学び」や「交流」といった言葉がまず思い浮かびそうですが、それらの耳慣れたワードではとうてい括りきれない何かがこの作品の中には満ちみちています。
著者がロシア文学を〝お勉強〟する段階から、呼吸するように文学を体に取り込むようになるまでの過程とか、文学を媒介にして友や師と深いところで心を通わせてゆく様子など心ゆさぶられる場面がいくつも出てきて······何て言えばいいんだろう、この感覚は。うまく言い表せる簡潔な言葉が見当たりません。
この本には、そんな簡潔なまとめを拒む何かがあります。そういう言葉はたぶん、この本のあとがきにも書かれているように、「思考を誘うための標識や看板の役割は果たせても、思考そのものにとってかわりはしない」のでしょう。
読み終えたばかりの私に言えることはこれだけ。
ほんとうの場所を探しあてた人は、ひとりでも(もちろんひとりじゃなくても)きっと大丈夫。
報道からは見えてこないロシアやその周辺の国々の人たちの思いに少し近づけた気もして、忘れられない一冊になりそう。秋の読書に是非おすすめです。
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