見出し画像

【書評】Mastering Small Stakes Pot-Limit Omaha

*サムネイルはAmazonより引用。

今回のnoteの最後には投げ銭部分を用意していますが、全文無料で見ることができます。

はじめに

こんにちは。Yuck(ゆっく)です。

普段は機械学習でGTO戦略を解析していますが、今回は箸休め的に、現PLO mastermind CEOのFernando Habegger (Poker name: JNandez)氏により執筆された Mastering Small Stakes Pot-Limit Omaha という書籍のレビューをしようと思います。

低レートオマハの攻略法が述べられている書籍です。

個人的にはかなりの良書ですが、(探した範囲では)日本語でのレビューが存在しないので今回noteを執筆するに至りました。

本書籍は氏自らのYoutube channelにて書評(宣伝?)が公開されているようなので、興味があればそちらも併せてご覧ください(英語)。

https://www.youtube.com/watch?v=cfIG9YjQi4s

本を読んだ経緯

私はNLHを2021年末ごろ始めたのですが、MIXゲームにも同様に興味をもち、時折プレーしています。

その中で、PLO, PLO8, FLO8といったOmaha系ゲームがプレーの定石がイマイチわからないと感じました。

そこでまず、これらの基本となるPLOから学習を始めようと思い、いくつか書籍を探したところこちらの本にたどり着きました。

現在PLOについて書かれた書籍の中ではやや古い(2020年10月初版出版)ですが、内容自体は2024年現在でも通用するものと考えています。

著者の紹介

略歴

本書籍は現PLO Mastermind CEOのFernando Habegger (Poker name: JNandez)氏により執筆されました。

Hendon mobより引用
Hendon mobより引用

JNandez氏はスイス出身のプロポーカープレーヤーでPLOのオンラインキャッシュゲームを専門にされている方です。

またJNandez氏はキャッシュゲームの成績をPLO Mastermind上で公開しており、さらにHendon mobでも一定の成績(2024年時点のFXで生涯獲得賞金1億円程度)をおさめていらっしゃるため、書籍の内容についても一定の信頼性が担保されていると考えます。

本の構成と読みやすさ

本の構成

本書籍は、主に低レートにおける100bb 6max PLOのキャッシュゲームの攻略に重きを置いています。

具体的にはGTOレンジを紹介したのち、低レートに於いて頻出するリークとそのexploit戦略を紹介する流れをとっています。

例えば、

  • preflopにおいて3bet, 4betに対して全くフォールドをしないプレーヤーに対するレンジ構成

  • マージナルなハンドでCBを打ちすぎるプレーヤー対するアジャスト

などが記載されています。

具体的な本書籍の構成は以下のようになっています。

  • プリフロップの戦略

    • 戦略理解のために必要な諸概念の説明

      • エクイティ分布

      • Stack-to-pot ratio (SPR)

      • Nuttiness (ナッティネス)

      • Bet sizing

    • Raise first in (RFI)推奨の理由

    • Cold call (CC)の基礎

    • 3bet/3bet callの基礎

    • リンパーへの対処

    • BBディフェンス

    • スターティングハンドを9カテゴリに分け、Open raise, 3betなどの紹介

  • ポストフロップの戦略

    • 戦略理解のために必要な諸概念の説明

      • エクイティ

      • ポラライズ

      • ポジション

      • SPR

    • CB/blockerの基礎

    • Single raised pot (SRP)の戦略・ハンド例

    • 3bet pot (3bp)の戦略・ハンド例

    • マルチウェイでの戦略

読みやすさ

全編英語ではありますが、大学入試レベルの英語が読める方ならばかなり読みやすく記載されています。

また、英語を読むのがそれほど得意でない方はkindle版を購入し、適当なAI翻訳ソフトを利用するのがおすすめです。

from mage.space
from mage.space

本書の個人的見どころ3点

私が本書籍を通して、特に見どころだと感じた点を3点述べます。

1. 初心者を意識したプリフロップチャート

低レートでの代表的なリークとして、VPIPが高くなりすぎるというものがあります。

ホールデムと同じ感覚でハンドを選ぶと、KKxxや、QQxxといったハンド群が一見強く見えてしまいますが、これらは全てが全て強い訳ではありません。

こういったハンドでホイホイ参加すると、単純にハンドとしてのエクイティも低いためpotを落としがちになりますし、リバースインプライドオッズを突きつけられる原因にもなります。またレーキ負けの可能性も非常に高くなります。

そこで、本書籍では、ハンド群を

  • (1) highcardness

  • (2) suitedness

  • (3) connectivity

の3点を意識しながら9個のカテゴリに分類し、2bet, 3bet, 4betおよびそれらのcallや、IP、OOP時の違いまで、具体的なGTOレンジにおけるハンドセレクションを詳細に述べています。

これらをしっかり習得することで、配られたハンドの価値を正確に見積もれるようになります。

また、低レートで頻出のGTOレンジから乖離に対するプリフロップからのアジャストについて詳細に語られている点も見逃せないでしょう。

例えば100bb 6maxで、IPがAAxxをopenし、OOPから3betを受けた際、suitednessやconnectivityが良くないAAxxを中心に10%-35%ほどはコールに回すのがGTOレンジになります。

これは4betした際OOPが本来降りるKKxx, QQxxなどからflopで追加のbetを引き出したり、4bet potを作る際は弱いAAxxよりもsuitedやconnectivityが良い、スムーズなequity distributionをもつAAxxでpotを構築しに行きたい、といったところが関係すると考察されています。

しかし実際4betにほとんど降りるところを作らないというのは低レートPLOのよくあるリークであり、そういうレンジに対してはAAxxはほとんど全て4betした方が利益的だよね、というようなアジャストが述べられています。

2. Nuttinessを意識したハンドセレクション

これまた低レートの代表的な特徴として、頻繁にマルチウェイになりやすいということがあげられます。

例えば

  • UTG openにBTN callが入った際、BBを(見かけのオッズが合うからと)any handでコールする。

  • ナッツにならないdouble suitedハンドや、lowのrundown系ハンドの価値の過剰な見積もりopenに高頻度でCCする

といった特徴です。

こういったフィールドには、ナッツになりやすいハンドを選んで参加するのが非常に効果的です。具体的には

  • Aのsuited

  • 高いランクのrundown (JT98などの非常にコネクトしたハンド)

  • 高いランクのpair

といったハンド群は、ナッツフラッシュ、ナッツストレート、トップセットなどマルチウェイでかなり質の良いエクイティを保証するハンドになります。

また、下のフラッシュ、ストレート、セットなどの降りづらいハンド群にリバースインプライドオッズを突きつけることが可能です。

(というか低レートのPLOの利益源はほとんどルースな相手にリバースインプライドオッズを突きつけることな気がしています。)

本書では、nuttinessを意識したハンドセレクションについても、シチュエーションごとに述べられています。

3. ポストフロップの戦略の基礎

PLOのポストフロップの戦略についても100ハンドほどを題材に取り上げられています。

Hold’emにもあるrange betや、polarizationの解説だけでなく、PLO特有の事項についても触れられています。

特に以下の2点はとても参考になりました。

  • ターンリバーでバリュー過多にならないよう、将来的なナッツハンドのブロッカーを持つハンドはフロップからbetしていくことがホールデムに比べ特に重要(例えばAやKなどのナッツフラドロブロッカーや、ナッツストレートドローをブロックするペア系ハンドなど)。

  • アクションを決める際に、サイドカード(役判定に関わっていないカード)のブロッカー効果を考慮する(例えばストレートが存在しうるボードでsetでbetするかどうかを決める際に、サイドカードがストレートをブロックしているならベットに寄る)。

読了後の所感

この書籍を通して、低レートにおけるPLOの成績が劇的に改善したと感じました。

反面、本書籍では以下の点はあまりカバーされていません。

  • 100bb 6max キャッシュゲームのリバーの戦略。記載はないことはないのですが、あまり多くはありません。しかしsmall stakesではそもそもpreflopからGTO戦略からの乖離があるため、一般論を語るのが難しく、これはしょうがない気はします。また、PLOで頻出する3bp, 4bpなどでは100bbではそもそもリバーまで到達することが少ない印象です。

  • トーナメントの戦略。こちらは全く記載がありません(4bpにおける低SPR下の記載は多少参考になるかもしれませんが)。

  • また、150bb以上のディープなキャッシュテーブルにおける戦略にはあまり触れられていません。

  • ドンク戦略。ドンクはPLOで頻出する戦略ですが、あまり具体的なスポットが取り上げられていません。

この辺りに興味がある方は、他の資料や、それこそ著者が運営するPLO Mastermindを見てみるとよいでしょう。

まとめ

今回はJNandez氏著のMastering Small Stakes Pot-Limit Omahaの書評を行いました。

主に低レートにおける100bb 6max PLOのキャッシュゲームの攻略に重きを置いた書籍で、まずGTOレンジを紹介したのち、低レートに於いて頻出するリークとそのexploit戦略を紹介する流れをとっている本でした。

プリフロップから始まり、フロップ、ターンくらいまでの戦略はカバーされています。

個人的にはかなりの良書と感じましたが、リバーの戦略や、トナメ、ディープ時の戦略、ドンク戦略などについてはあまり触れられていない点には注意を要するでしょう。

書籍自体はそれなりの値段(2024年時点のFXで5000円、kindle版2500円程度)がしますが、コスパは非常によく、巷の怪しげなnoteを買うより断然おすすめできる印象です。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

質問・コメントなどは@Yuck_PCPまでお願いします。

フォローやスキ(いいね)してくれると大変嬉しいです。

ここから先は

10字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?