【星の水面とナイトメア】
「そろそろ起きたらどう?」
気が付くと君がいた。まるで白昼夢のように。
見上げるとここは水面の上。
空は星が広がっていて終わりが見えない。
これはなんの夢だろう?
水面に映った無数の星の上に、君がいた。
遠くて儚い後ろ姿。懐かしさに息がつまる。
「私が君を呼んだんだよ?」
そう言うと、君は振り返って微笑む。
しかしその顔は、切なくて、か細い。
「まるで10年前から待っていた感覚だよ。
もう待ちくたびれちゃった!」
君は歩く。ここが君のすべてだと言うように。
水は体の一部のように踊り、空は透けた心を。
ずっと、ずっと願っていた空想が目の前にある。息ができない。疑ってしまいそうだ。
僕は1000年前から待ち望んでいたんだよ。
今、君に逢う事を。
「なんで、どうして、どうして僕を呼んだの?」
泣きそうだ。喚きそうだ。
だって君はすぐにゼロになってしまう。
運命なんて溶けてしまう。何も無かったように。
君は何も言わずに僕に近づく。
その目は僕の全てを映していて、
全てを見通している。
星空が埋め込まれたようなその目は。
ーあぁ、もうぜんぶ分かってるんだ。
ぎゅっとしてしまいそうだ。
掴んでしまいそうだ。時間を止めていたい。
掴めないのに、止められないのに。
君は、もうすぐいってしまうのに。
朝の6時まであと数秒。それが僕らのタイムリミットだ。
君の手が僕の体を包む。
あまりにも優しいそれは僕をなだめるようで。
「泣かないで」と囁く。微笑みながら。
だんだんと、溶けていく。君が溶けていく。
君は全てを受け入れるようにうつむいて笑う。
必死に手を伸ばして君の手を掴んだ。だけど
その手は星になってしまう。
その手からさらさらと音が降るように。
一向に追いつかない。もうどうしようもない。
「さいごに、君に逢えてよかった」
君の涙すら星になって空へ流れる。
いくら抱きしめても消えてなくなる。
そして、僕はただ観ていた。
君がきみに還る時を。
目が覚めると、眠っている君がそばにいた。
「はやく起きて、昨日の話をしようよ」
そう言いながら、どこからか水が流れてきた。
僕の頬を伝って流れる水は、
君を囲む花に落ちる。真っ白なその花々を
照らすように水が輝く。
「僕も、最期に君に逢えて、嬉しかったよ」
ー参考
はるまきごはん「メルティランドナイトメア」