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自炊は自分の帰る場所を作ること

新刊『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』の3刷が決まりました!読んでくださった方、ありがとうございます。

本書の中から一部文書を公開します。良かったら読んでみてくださいね。


自炊は自分の帰る場所を作ること

私は東京生まれ東京育ちですが、自分の育った街や東京生まれであることへ愛着がさほどありません。大阪出身の友達が「週に一回はお好み焼きを食べないと気がすまない」とか、福岡出身の友達が「博多は全国的にラーメンが有名だけど、地元民が愛しているのはコシのないふにゃふにゃのうどんの方。これが最高に懐かしい味」と言っていたりすると、地元に愛着があるっていいなぁ、うらやましいなぁと思います。私にはほっとする懐かしい地元の味もないし、中学から他県で寮生活をしていたので、ずっと根無し草のように生きてきました。

そんな私が「自分の帰る場所」と思えるのは、私の料理です。物理的な場所ではないのですが、自分で作ったものを食べていると心底ほっとして、帰ってきたなと安心するのです。これは旅行中でも同じで、知らない土地で非日常を体験するのは刺激的ですが、どうしても疲れが伴います。そんな時に自分で料理をすると、いつもの味にほっとして心が落ち着きます。

自宅に帰らずとも、自分で料理を作れればまるで我が家の食卓のように安心できる。これから先、どこに引っ越しても、誰かと暮らしても、一人で生きても、私の料理があればそこがホームです。社会問題が山積みで先行きが見えない不安定な時代ですが、自分の帰ってくる場所を自分で作れることで、大変なことがあっても踏ん張れるんじゃないかな、と感じます。

また、今の時代「何者かになる」ことを絶えず問われている感覚になることがあります。子どもの頃から「将来の夢は?」と聞かれ、就職した後も、会社から仕事の目標ややりたいことを聞かれますよね。SNSを開けば何かを発信したほうがいい感じがしてくる。自ら進んで行動して、結果を出して、活躍することが求められている気がしてきます。何か「する」ことに価値があり、ただ「いる」だけでは足りない。ぼーっとしている時間に耐えられず、何かしていないと損した気持ちになる。そんな社会の雰囲気に疲れを感じている人は少なくないのではないでしょうか。私も例外ではなく、その一人です。

「生きるために必要な家事」は、自分が何者であるかを求められません。向き不向き、好き嫌いは人によってありますが、老若男女誰しもができる開かれた行為です。そして、作業に取りかかってたんたんとやれば必ず終わります。家事を「する」ことで、何者でもない自分で「いる」ことができる行為なのです。自分を大きく見せる必要もなく、かといって謙遜する必要もない。ただそこにいるだけでいいのが家事の時間です。「いるだけでいい時間」を過ごすことで、実は明日を生きるエネルギーがゆっくりと回復していっているのではないか、と私は感じます。料理は「いる時間」を過ごすことができ、自分が用意した食事でお腹も満たされる一石二鳥の行為なのです。


本書を読んだ感想などは #自分のために料理を作る で投稿してくださった、見に行きます&めちゃくちゃうれしいです。

来年1月からの対面の料理レッスン「自炊レッスン」も参加者募集中です🍳


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山口祐加@自炊料理家
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