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【書評】A STEAM Mindset: Teaching the Next Generation to Problem Solve(STEAMマインドセット: 次世代の問題解決力を育てる)

本書A STEAM Mindset: Teaching the Next Generation to Problem Solve(STEAMマインドセット: 次世代の問題解決力を育てる)は、STEAM教育の第一人者であるDr. Diana K. Lockwood-Bordañaによる、次世代の問題解決者を育成するための教育指南書です。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を取った教育アプローチです。著者は、これらの分野を統合的に学ぶことで、創造性と批判的思考力を養い、複雑な問題に立ち向かう力を育むことができると主張しています。

STEAM教育の必要性

著者は、現代社会が直面する課題の複雑さと、それに対応できる人材の不足を指摘しています。特に、科学技術分野における女性や有色人種の参画が不十分であることを問題視し、STEAMアプローチがこの課題解決に有効であると述べています。

従来の教育システムでは、各科目を個別に教えることが一般的でしたが、STEAMは各分野を統合的に学ぶことで、より実践的な問題解決能力を養うことができます。著者は、この方法が21世紀の職場で求められるスキルの育成に直結すると主張しています。

STEAMマインドセットの重要性

本書の核心は「STEAMマインドセット」の概念です。これは以下の4つの要素から構成されています:

  1. 好奇心を持つ

  2. 質問する

  3. 実験する

  4. 前向きに失敗する

著者は、このマインドセットを身につけることで、学習者は困難な課題に対しても粘り強く取り組み、創造的な解決策を見出す力を養えると説明しています。特に「前向きに失敗する」という考え方は、失敗を恐れず、そこから学びを得る姿勢を育てる上で重要だと強調しています。

チャレンジベースの学習(CBL)

本書では、STEAMマインドセットを育成する方法として、チャレンジベースの学習(CBL)を提唱しています。CBLは、学習者に現実世界の問題や課題を提示し、それを解決するプロセスを通じて学びを深める方法です。

著者は、CBLの実施方法や評価方法について詳細に解説しています。特に、学習者の自己評価や相互評価の重要性を強調し、評価ツールとしてルーブリックの活用を推奨しています。これにより、学習者は自身の成長を実感し、さらなる学びへのモチベーションを高めることができます。

多様性、公平性、包括性の重視

本書の特筆すべき点は、STEAM教育における多様性、公平性、包括性の重要性を強く訴えていることです。著者は、従来のSTEM分野における女性や有色人種の参画が不十分であることを指摘し、STEAMアプローチがこの問題の解決に寄与すると主張しています。

具体的には、ロールモデルの提示や、匿名性を活用した意見交換の方法など、あらゆる学習者が平等に参加できる環境づくりの重要性を説いています。これは、単なる教育手法の提案にとどまらず、社会の構造的な問題に対する解決策としてのSTEAM教育の可能性を示唆しています。

実践的なリソースと事例

本書の大きな特徴は、理論的な解説だけでなく、実践的なリソースや具体的な事例が豊富に盛り込まれていることです。授業計画のテンプレート、評価用ルーブリック、思考ルーチンのワークシートなど、教育者がすぐに活用できるツールが多数提供されています。

また、STEAM教育を実践している学校や教育者の事例も紹介されており、読者は理論と実践の両面から学ぶことができます。これらのリソースは、STEAM教育を始めたばかりの教育者にとっても、既に実践している教育者にとっても有用なものとなっています。

教育システムの変革への提言

著者は、STEAM教育の導入が単なる教育手法の変更にとどまらず、教育システム全体の変革につながる可能性を示唆しています。従来の教科別・知識詰め込み型の教育から、統合的・問題解決型の教育への移行を提唱しています。

特に、メイカースペースの設置や、地域社会との連携など、学校を超えた学びの場の創出を推奨しています。これは、学校教育の枠を超えた、生涯学習社会の実現につながる視点として評価できます。

まとめ

本書は、STEAM教育の理論と実践を包括的に扱った貴重な一冊です。特に、STEAMマインドセットという概念を中心に、問題解決能力の育成方法を具体的に提示している点が優れています。また、多様性や公平性の視点を強く打ち出している点も、現代の教育課題に対応した内容として評価できます。

実践的なリソースが豊富に盛り込まれていることも、本書の大きな強みです。これにより、読者は理論を学ぶだけでなく、すぐに実践に移すことができます。

総じて、本書はSTEAM教育に関心のある教育者、政策立案者、保護者にとって、有益な指針となる一冊だと言えるでしょう。急速に変化する社会に対応できる次世代の育成に向けて、本書の提案するアプローチは重要な示唆を与えてくれます。

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