美食の街は大学の街
美食のイタリアの粋は、一つはトスカーナ。フィレンツェが中心である。カトリーヌ・ド・メディシスがフィレンツェのメディチ家からフランス王家に嫁ぎ、彼女がフランスに持ち込んだイタリア料理がフランス料理の基礎を作ったという説がある。
もう一つがエミリア・ロマーニャ州。パルマやボローニャを抱え、パルメザンチーズもここの名産で、生ハムやソーセージも有名だ。
特にボローニャはボローニャソーセージにスパゲティ・ボロネーゼ、ラザニアなんかもおいしいらしい。
ヴェネツィアからサンマリノに行く途中にボローニャがあった。
ここは一発、降りてラザニアとボロネーゼを食べなければおさまらない。
ヴェネツィアがあれだけおいしかったので、美食の都と呼ばれるボローニャならばどれだけ天井知らずなのか。想像するだけで頭の中がミートソースでいっぱいになる。ミートソースは素人臭いな! ボロネーゼソースだ。
ラザニアはそれにベシャメルソースが組み合わさる。本場イタリアのラザニア、しかも美食の都のラザニアだ。
そうしてボローニャの街に降り立つと、これまた美しい街だった。駅のすぐそばからアーケードが始まる。このアーケード、日本の駅前商店街にあるような昭和っぽいアレじゃない。アーチも優美で神殿のように列柱が並ぶ。RPGでもお目にかからないくらい異国情緒にあふれた物だ。
アーケードはどこまでも続き、その下に店が並んでいた。
道を歩いてるのは若い人が多かった。そうか、ボローニャと言えばボローニャ大学が有名だった。中世からある大学だ。今もこんなに学生がいる街なのか。
学生の多くは黒髪に染めているのが意外だった。
大体これまで、欧米を旅すると、女性は金髪に染めている人が多かった。
ところがこの街では、金髪の人が黒髪に染めている。逆プリンになっている人も居る。
もしかしたら、日本でもそうだけど、金髪=バカっぽい、黒髪=頭良さそう、というのは世界の共通認識?
知の街だから頭良さそうな方が尊ばれてるとか?
それはそうと、そろそろレストランを見付けなくては。
これだけ大きな街だから、カフェなりレストランなりバールなりはすぐに見つかるに違いないと思っていたのだが、駅前にはなかった。大分歩いたが、アーケードの下にも一軒もなかったと思う。
そうして一時間ほど探したが、満員御礼客であふれかえりとても入れそうにないようなレストランを一軒裏道で見付けただけだった。
ここは美食の街ではないのか?
Nが推理した。
「美食の街って食事がおいしいって意味で、レストランが多いって意味じゃないんじゃね?」
それはあり得るのかも知れない。ただ、それにしても外食産業が少な過ぎではないだろうか。少なくともヴェネツィアはもっと多かったし、何ならこれまで旅した外国の街はどこもここより多かった。ここは少なすぎる。
「あのさ、ここ学生の街だよね」
うん。
「学生って貧乏だよね」
うん。
「自炊してんじゃね?」
……。