マイナス×マイナス=プラス
傘屋を探している。
その日は土砂降りだった。まずは傘を仕入れなければならない。
普通海外に行くのなら、傘くらい持っていかないか? などとのたまう人は私とは気が合わない。もちろん友人Nともだ。
大体私は晴れ女なのだ。雨具が必要になったことはほとんどない。この雨はNのせいに違いない。
「もしかして雨女?」
「失礼な! 私は晴れ女だよ。君こそ雨女じゃないの?」
晴れ女が二人揃えば普通強烈に晴れるんじゃないの? それこそ干ばつが起きるほどに。
その割にイタリアに着いた日は霧に煙っていたし、サンマリノに着いた夜も雨だった。そして今も大雨。
それは十日も居れば雨に降られるだろうという向きもあるかもしれないが、ここで繰り返す。私は晴れ女なのだ。ここまで雨に祟られたことは正直一度もない。
「日本と違って傘屋なんてないのかな」
Nの言葉に頷く。
「日本は雨が多いからね」
ナポリの街は近代的で、これまで見たイタリアのどの都市よりも大きかった。駅前に傘を売る店くらいありそうに見えたのだ。ところがぐるりと回ってみたけどなかった。傘がないのであまり遠くにまでは行けない。
Nが駅員に傘を売っている店がどこか訊くと、その辺に現れるから探せと言われた。現れるとは一体……。
「雨が少ないから常設じゃないってこと?」
呟く私に、
「イタリアは太陽が似合いそうだしね」
Nが返した。
その割に天気が悪い日が多かった。
もしかしたら、と思いつく。
習ったことはないだろうか。数学のわりとはじめの頃だった。マイナスとマイナスをかけるとプラスになる。マイナス2×マイナス2=プラス4だ。これはマイナスの数が偶数の時にしか起きないらしい。奇数の時はマイナスになる。何故かはわからない。世界には謎が多い。
つまり、今回の場合もそれではないだろうか。
晴れ女かける晴れ女は雨女。
この状態を打開するには、もう一人晴れ女が必要なのだ。
今私たちが求めるべきは傘じゃない。晴れ女だ。
まあ、Nの自称晴れ女が正しければ、の話だが。
気のせいだった場合この仮説は崩れる。
そもそもよく考えてみると、雨の多い日本でさえ、雨の日よりも晴れの日の方が多い。東京だと一年のおよそ三分の二が晴れだ。どこかに出かけるのはさらに晴れの確率が高い行楽シーズンが多い。つまり、自称晴れ女の多くは勘違いの可能性がある。
ん? 待てよ。
そうだとすると、もしかして私も勘違いということはあるのか? 実際、今まで行事でどれだけ雨に降られたっけ?
文化祭が雨だった年が一度、遠足は三度くらい雨だったような。待て、旅行は大体晴れている。文化祭や遠足など、雨男雨女がいればそいつらが降らせるに決まってるじゃないか。奴らは恐ろしい。渇水の四国に旅行しても台風を呼びやがる。取水制限のダムでにわか雨を降らせた奴を知っている。
イタリアの傘売りは、雨が降るとどこからともなく現れて、傘をぶら下げて売り歩く。
私たちが傘売りに出会うまで、もう少し……。