あらま。ホストの《雪❅冬矢》君ったら♡ナイスタイミング(笑)〈カフェ24冬矢4〉
カランカラーン。
---えっ。
ちょっと一息ついたと思ったら店のドアが開いた。今日はまたお客さんが上手く入れ替わって入って来てくれる。正直、私はお客さんと出来れば話したいから一度にたくさん来て貰うよりポツポツが嬉しい。
ドアが開いて入って来たのは、ホストの〈冬矢〉君だった。
「ちわーっす。ママ」
「あら。冬矢君。ちょっと久しぶりね」
相変わらず頭の先から靴の先まで真っ白---かと思ったら。
---ん?。
「あれ?」
「アハハ。真っ白じゃ無いってビックリしたんでしょ」
図星で見抜かれた。
「う、うん。真っ白は辞めたの?」
私は、冬矢君の頭の先から靴の先までジロジロ見た。
「頭はまだ真っ白だけどね。着替えは店に置くようにしたんだ。ママの店にも気楽に来たいし」
今日は何だかカジュアルで更に若く見える。薄地のブルーのトレーナーに細めのジーンズ。何でも似合う。
--- やっぱり、冬矢君は外見を気にしていたんだ。それでもあの頃は、それがどうしたみたいな感じもあったけど何だかちょっと大人になったみたい。そういえば咲希ちゃんも大人になった感じがした。若いっていいね。本当に素直に成長して行く。
「どう。いいだろう」
何だか嬉しそうに言う冬矢君。
「素敵。冬矢君は何でも似合うわね」
私が言うと
「エヘヘ。ありがとう。って、実は今出て行った彼女が気になって。誰?」
「えっ」
--- あぁ、咲希ちゃんだ。
「何かさぁ、どっかで見た様な?なんだよね」
--- ん。何か同じような光景。あぁ!。初めて冬矢君が来た時も前の日に店に居た咲希ちゃんを見かけて来たんだった。
「やだぁ。うふふ」
私は思わず笑ってしまった。
「何だよ。何か可笑しい?」
ちょっとムスッとした冬矢君。
「ごめん、ごめん。だって冬矢君あの時、初めて冬矢君が来た時も、まったく同じ様なタイミングで前の日にここに来てた女の子が気になって入って来たんだよね。それも同じ女の子に」
「えっ。そうだっけ。同じ女の子?」
「そうよ。冬矢君が初めて入って来た時も前の日に見かけて気になって入って来たのよ。忘れてた?」
「あぁ、確かそうだった。もう忘れてたけど」
ちょっと不思議そうに首をかしげる冬矢君。
「うふふ。彼女あの時と同じ女の子よ。咲希ちゃんって言うのよ。綺麗で可愛い子でしょ」
私が言うと
「あ、いや。そうじゃなくて。何か見た事ある様な気がしたから」
冬矢君は珍しくちょっと照れて言った。何だか、わかった様なわからない様な不思議そうにしながら。でも何だか嬉しそうだった。
「へぇ、そうなんだ」
「とりあえず座れば」
私が言うと
「ママ、ごめんごめん。もう仕事行かなきゃならないんだよ。実は、さっきの彼女が何か見覚えがあって気になって、それだけ聞きたくて入って来たんだよ。また来るからさ」
冬矢君は慌てて言った。
何だか、冬矢君が大人になった様な気がするのは本当なのかもしれない。きっとホストの仕事も順調なのだろう。お客さんもたくさん出来たのだろう。だけど、私からは聞くのはやめようと思った。またきっと冬矢君が話してくれるから。
「いいのよ。来てくれて嬉しかったわ。また来てね、冬矢君」
私は、ニッコリ笑って言った。
「当たり前だろ。直ぐまた来るよ。ただ、ちょっと最近忙しくてさ。何か今が楽しいんだよ」
そう言って冬矢君は嬉しそうにドアを開けた。
「待ってるからね」
私がそう言うと、冬矢君は振り返って微笑みながらピースサインをして小走りに駅の方に向かった。
冬矢君にしても咲希ちゃんにしても、本当に若さっていいなって思った。私からしたら若さだけで何か輝いて見える。だけど、若くても皆必死で悩み迷いながら、そして喜び楽しみながら生きている。私もあの頃はあんな風だったのかな。
--- 冬矢君と咲希ちゃんかぁ。
ふと、二人を思っていた。
そういえば、本当に暖かくなって来たよね。春だね。春ってただでさえほっこりするのは何でなんだろう。不思議よね。
今日もいい日だったわ。
お店開けて良かった。
うふふ。
最高に嬉しい気分。
今日はもうお店を閉めよう。
私はドアに掛かってるプレートを返した。
[今日は終わり]
うふふ。
このプレート見て〈今日は終わり〉と表の〈オープン〉はバランス悪くねぇ?って言ってた冬矢君が初めて来た時の事を思い出していた。
--- 確かに。うふふ。あの頃は新人だった冬矢君。私も新人だったのよね。冬矢君頑張ってるのかな。〈楽しいんだよね〉って言ってた。何だか私まで嬉しいし楽しくなる。
今はただ、私がここに居られる事に改めて感謝したい。
--- 本当に、ありがとう。また明日ね。
私は、静かにドアを閉めた。
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