闇夢さん♪ギターを弾くことを奥さんにバレて喜ばれたこと♡《何故、好きな趣味を隠していたのだろう》ありがとうママさん♤冬矢君♤〈カフェ83闇夢3〉
カラン、カラーン。
ちょっと久しぶりに、
「あら、闇夢さん」
闇夢さんが入って来た。もう夕方も過ぎて暗くなりそうな、冬だから余計暗くなるのが早い。
スーツ姿の闇夢さん。
「ママさん、なかなか来れなくて、すみません。今日は仕事帰りなんですよ」
「いらっしゃい。寒いですね」
私は、カウンターから声を掛けた。
闇夢さんは、カウンターの左端に座った。男性はあまり厚着はしないのかマフラーだけで、さり気なくマフラーを畳んだ。
「あ、マフラーとカバンはこちらに」
私は、マフラーとカバンをカウンターの下の棚に置いた。そして、、闇夢さんの淡い緑色のマイカップにコーヒーを入れた。
「どうぞ」
すると、
「冬矢君は、元気ですか?」
突然、ホストの冬矢君の事を聞いて来た。
「元気ですよ。あ、それで、冬矢君、お店を任されたというか新しいお店を出すんですよ」
私が言うと
「そうなんですか?。凄いですね。やっぱりあの子は凄いと思ったよ。私は、本当にママさんと冬矢君には感謝しか無いんですよ」
そんな事を言った。
「どうしてですか?」
闇夢さんは、ゆっくりコーヒーを飲んで
「実は、妻にギターを弾いているところをバレまして」
「あら」
「自分では静かに弾いていたつもりだったんですが、聞こえたみたいです。そしたら妻が、驚いて、妻はギターが好きだったみたいなんです。もの凄く喜んで、1時間以上私のギターを聴いて居ました。だから、バンドをやっていた事も、いろいろ話しました。妻は、本当に嬉しそうに〈どうして黙っていたの?〉って。私は、ママさんと冬矢君のお陰で、私の好きな趣味というかものに、もう一度出逢えました。本当に感謝しかありません」
真面目に話す闇夢さん。
「そんな事ないですよ。良かったですね。これからは隠す事なく弾けますね。息子さんもきっと喜びますね」
「はい、息子は、正月に帰って来て、認めなかった私にちょっとまだわだかまりがありますが、でも、私の弾くギター聴いて〈スゲーな〉って言ってました」
「本当に良かったですね。息子さんも本当は嬉しかったんだと思いますよ。闇夢さんのギター素敵ですもんね。じゃ、この置いているギターは、持って帰りますか?」
私が言うと
「いえいえ、迷惑でなければ置いておいて下さい」
そう闇夢さんは言った。
「じゃあ、今ギター弾いて貰えたら嬉しいなぁ」
私は、ちょっと甘えた声でそう言った。たまたま、お客さんも闇夢さんだけだったから。
「いいんですか?」
「もちろん、私も聴きたいですから。出来れば、闇夢さんがやっていたバンド《Dark♣dream》の頃の曲が聴きたいなぁ」
私は、ニコッと笑って言った。
「いいんですか?、ちょっと忘れてるところもあるけど聴いて貰えますか」
「お願いします、聴きたいです」
私は、そう言いながらギターを闇夢さんに渡して、闇夢さんとテーブル席に行って、ゆっくり闇夢さんのギター聴いていた。
本当に、激しさと優しさの音色が心に染みる。
更に、生の音色は素晴らしい。
時間を忘れて、闇夢さんのギター聴いていると、
カラン、カラーン。
ドアが開いた。
一瞬、ギターを弾くのを辞めた闇夢さん。
「あの、すいません。ここはギターの生演奏が聞けるんですか?」
知らない、年の頃はやはり50歳前後の男性が入って来た。
「えっ、あ、ギター?」
なるほど、闇夢さんの弾くギターの音を聞いて入って来たのだ。
「あ、いらっしゃいませ。生演奏はやっていませんがお客さんがギターを弾いていたんですよ」
私が言うと、
「素晴らしい音色ですね。あの、聞かせて貰っていいですか?」
その男性は、嬉しそうに言う。
「はい、もちろん。聴いて行って下さい」
すると、
「ママさん、そんな」
闇夢さんは、意外と恥ずかしそうに言った。
「闇夢さんのファンが出来ましたね」
私は、そう言ってコーヒーの準備を始めた。
その男性は、テーブル席に行って、何だかやたらと闇夢さんと話したり、ギターの音色を聴いている。
聴いている私も心地良い。
ちょっとしたジャズ喫茶ならぬ、何だろう。
私は、淡い青色のコーヒーカップにコーヒーを入れて持って行った。
「素敵なカフェですね。生演奏が聞けるなんて。私も実はギター弾いてましたが、どうしても上手くならなくて諦めました。本当に趣味の範囲でたまに弾きますが」
すると、闇夢さんがギター渡して、
「どうぞ、弾いてみて下さい」
「そんな、そんな、私なんて」
「大丈夫ですよ。私も、何十年かぶりに弾いたんですから。遠慮しないで」
闇夢さんが言うと、それでも嬉しそうに弾き始めた。
確かに、闇夢さんとはちょっと違うのはわかった。でも、本当に嬉しそう。
「素敵ですよ。ギター弾いて下さい。私も時々弾いてます。ギターは、ここに置いてますから自由に使って下さい」
「えっ、いいんですか」
「もちろん、ママさんに置いて貰ってますから」
そう言いながら、何だか連絡先を交換していた。
その男性は、しばらくして本当に嬉しそうに帰って行った。
そして、闇夢さんが言った。
「本当に、ギターを通していろいろな出逢いがあった事。驚きです。何故、隠していたんだろうと思いますよ」
闇夢さんはカウンターに座り直した。
「それも、良かったんですよ。きっと。今だから、気づく事もあるから。それが、タイミングだとか縁だとかなんだと思いますよ」
私が言うと、
「そうですね。過去をとやかく言っても、もう戻らないですからね。これからは、私の好きなギターを弾いていきます。それで、縁があれば、バンドをまた出来たらとも思います。本当にママさんや冬矢君には感謝しかありません」
「またまた、それはもう言わないで。私も素敵なギターを聞けて嬉しいですから、感謝ですよ」
私は、丁寧にギターをまたカウンターの後ろに置いた。
闇夢さんも、それからしばらく居て、マフラーとカバンを持って帰って行った。
闇夢さんは、奥さんや息子さんにギターを聴かせられた事を伝えたくて来たのだろうか。
ここで、ギターを弾きたくて来たのだろうか。
ただ、純粋にコーヒーを飲みに来たのだろうか。
私は、置いてあるギターケースを見ながら、優しい気持ちになった。
--- あ、冬矢君のお店。闇夢さんも行けたらいいなぁ。今度、聞いてみようかな。
きっと、冬矢君も、喜んでくれるんじゃないかなぁ。
ふと、そんな事を思った。
まだまだ、外は寒い。
真っ白い雪が似合う、真っ白い冬だから。
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