80歳の圭子さん♡母も娘も思いは同じ。普通に母親って何でもお見通しなんですよ。不思議と♡子供の事は♡〈カフェ63圭子5〉
カランカラーン。
静かに店のドアが開いた。
その優しいドアの開く感じで、私は誰が来たのか想像がついた。
圭子さん。80歳の。俳句や趣味がたくさんある優しいおばあちゃん。
先日は、ちょっと遠くに住む娘さんが、圭子さんから聞いていたと言ってこの店に立ち寄ってくれた。
〈母から聞いてます。どんなお店か覗いてみたくて〉
そう言って来てくれて
〈母の事を宜しくお願いします〉
と言っていた。
恥ずかしいのか〈私が来た事は母には内緒にして下さい〉と言っていた。
本当に話しては居ないのだろうか。
「いらっしゃい、圭子さん」
私の声に
「あら、ママさんわかりしたか」
そう圭子さんが言った。
圭子さんは、いつものテーブル席に向かいゆっくり座った。
「いらっしゃい、圭子さん。今日はカップ何色にしますか?」
私は、おしぼりと水の入ったグラスを持って行って聞いた。
「そうですね。桃色にしましょうかね」
「わかりました。ちょっと待っていて下さいね」
そう私が言うと
「桃色って娘が好きな色なんですよ」
「えっ」
「うふふ。娘、来たんでしょ」
圭子さんは、そう言った。
「あっ。えっ」
ちょっと言葉に詰まっていると
「娘、来た事は内緒にとか言ったんでしょう。大丈夫ですよ。私にはわかりますから、うふふ」
確かに、娘さんは圭子さんには言っては居ないんだ。だけど、圭子さんにはわかっていたんだ。
「今、コーヒー入れて来ます。ちょっとお待ち下さいね」
何だか、言葉が出なかった。
軽く〈そうなんですよ、来ました〉なんて言えなかった。
私は、コーヒーを入れながら嬉しそうな圭子さんを見ている。
そして、桃色のカップに入れたコーヒーとコースターを持って、圭子さんに持って行って置いた。
すると、店内を見て
「ありがとうね。お客さんも居ませんから座って一緒にコーヒー飲みましょう。ママさんのコーヒーも持って来て下さいね」
優しく言う圭子さんに甘えて、私も桃色のカップに入れたコーヒーを持って来て座った。
「ありがとうございます。いただきます」
圭子さんも私もコーヒーを一口。
「圭子さん、どうしてわかるんですか?。娘さんは言ってないですよね。ここに来た事」
「はぃ、言ってませんよ。だけどわかりますよ。親ですから、さり気ない態度や話から。それに嬉しそうだったから」
そう圭子さんが言った。
「嬉しそうだったから?」
「えぇ。私が嬉しいのは、ここに来て美味しいコーヒーを飲む事。うーん、飲める事かな。その私に娘が嬉しそうにするのは、私を娘が理解してくれたから。更には、それを確証したから。っていう事はここに来てお店やママさんを見たからかなと。私はよく話してましたからここのお店とママさんの事を。娘に」
圭子さんはにこっと笑った。
---この親子だからわかる事なんだろうなぁ。
そして、ゆっくり圭子さんが言った。
「嬉しいですよね。心配してくれる娘が居るっていう事は。改めてお互い感謝する言葉はいつもは言いませんが、嬉しいです」
私は、娘さんもだけど、圭子さんも優しい思いのある人なんだなぁって、わかっては居たけど改めて思った。
「今は娘は遠くに居ますが、離れていれば離れて居るほど心配ってつのるものですよね。いつも一緒に居るのに気づかなかったり、離れて居てもわかったり。本当に人の思いは不思議です。娘には感謝してるし幸せになって欲しいだけです。それでも、親っていつまでも心配してしまうんですよね」
「優しいんですね。圭子さん」
私は、ふふっと笑ってみせた。
「優しくはないですよ。心配するのも時々は無駄な時の方が多いのですが、それでも心配出来る人が居るっていう事も幸せなんでしょうね」
嬉しそうに話す圭子さん。
「そうかもしれないですね。心配出来る人。心配して貰える人が居るって」
私も改めて、そう思った。
「ママさん、もしまた娘が来たら私が知ってる事は内緒にして下さいね」
そう言う圭子さんに、私は思わず吹き出しそうになった。
娘さんと同じ事を言うから。
「嫌ですよ。同じ事を言って。本当に親子ですね、うふふ」
すると圭子さんも
「確かに、そうですね。うふふ」
面白いなって思った。
ふと、一緒に来ればいいのにと思いながら。
でも、〈今度はご一緒に来て下さい〉とは何故か言わなかった。
ホストの冬矢君が、ここは俺の癒しの場所だからと言っていたように、もしかしたら、自分だけの場所ってあるから。
仲がいいとか悪いとかじゃなくて、それでも一人で居たい場所もある。
一緒に来る時は来るだろう。
だからか、私は言わなかった。
いつものように、世間話をしながら時間は過ぎた。
圭子さんは、ゆっくり立ち上がって、私はいいと言ったけど、やっぱり私のコーヒーも支払ってくれた。
圭子さんは
「また来ますね、ママさん」
そう言って帰って行った。親子だけは切れない縁。
例え、嫌いでも戸籍上離れても、けして切れない関係。
親子の間で事件が起きたりするけれど、何がそうさせてしまうのだろうか
誰かが悪い訳じゃないのだろう。
離れて居ても、思いはあると思いたい。
それでも、いろいろあるんだろうね。
何となくいつか親子二人で来てくれそうな、そんな気がした。
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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈