ビニール傘と花束とコーヒー✩あの恋を落として失くした《咲希》ちゃんの大人になった笑顔 【中編】〈カフェ22咲希2中〉
咲希ちゃんからのオーダーが入った事に私はちょっと耳を疑った。あの時の咲希ちゃんはコーヒーが飲めなかった。だから咲希ちゃんは私にコーヒーを飲ませてくれた。確かに、店に来たから一応コーヒーは出すのだけれど、咲希ちゃんは〈ママのコーヒーも〉と言った。聞き間違いなのだろうか?。
私は、ちょっと気にしながらもコーヒーの準備をしていた。
「ねぇ、ママ。ママは何色が好きなの?」
「えっ」
「ママは何色が好きなの?」
私が不思議そうな反応をしたから咲希ちゃんは2回も聞いてきた。突然聞かれると改めて私は何色が好きなのだろうと思ってしまう。〈えっえっ〉と思いながらも早く答えなきゃと思いながら、ついつい咲希ちゃんのピンク色のワンピースが目に入った。
「私も桃色かな」
私は、自分でもわからないタイミングでそう答えていた。
「え〜。ママも桃色なの?。私と一緒だね。ママのコーヒー桃色のコーヒーカップに入れて来てね」
また咲希ちゃんは〈ママのコーヒー〉と言った。私のコーヒー?。
「ママ、一緒にコーヒー飲もう。ママのコーヒーは私が出すからね」
そう言った咲希ちゃんの言葉でやっとハッキリわかった。〈咲希ちゃんは私にもコーヒーを〉
私は、おしぼりとお水の入ったグラス、それから2つの桃色のコースターとコーヒーをテーブルに運んだ。
「ありがとうママ、座って」
本当に優しく笑う咲希ちゃん。私は向かいの椅子に座った。それでもまだ不思議な私。また飲まないで、私に飲んで貰うのが申し訳なくて気を使ってくれているのか?。何か聞くのもちょっと気が引ける。
「ママ、心配してるんでしょ。私コーヒー飲めないから」
悟られてしまった。それでも心配そうに咲希ちゃんを見ると。
「うふふ。ママ、私コーヒー飲めるんだよ」
「えっ」
「コーヒー飲める様になったんだよ。ママと飲みたくて頑張っちゃった。エヘヘ」
---咲希ちゃん
健気に笑う咲希ちゃん。
「本当に?」
「うん」
不思議そうに聞く私に咲希ちゃんは思い切り微笑んだ。
「凄い。凄いじゃない」
私もなんだか嬉しくなった。
「凄いでしょ。始めは苦くてミルクとお砂糖いっぱい入れたんだよ。コーヒー牛乳みたいになったんだよ。だけど、段々何か美味しくなって来てコーヒーが好きになっちゃったんだぁ」
「咲希ちゃん。凄い、凄いじゃない」
「ママと飲みたかったんだぁ。だから頑張っちゃったし嬉しくて」
「咲希ちゃん」
私は、あの時からは別人の様に明るい姿や何か大人になった咲希ちゃんを見て嬉しくて涙が出てしまった。私とコーヒーが飲みたくてコーヒーを飲める様になったなんて。
「やだ、ママ。泣かないで。私はもう元気だし嬉しいんだからママも笑って」
「ごめんなさい。何だか嬉しくて」
私は慌てて涙を手で拭った。
「ママ。本当にありがとう。私ね、あの時本当に嬉しかったんだぁ。見ず知らずのコーヒーも飲めない私に優しくしてくれた事。きっとママは皆に優しいんだと思うけど、私みたいにママに癒やされてる人はたくさんいると思うよ。本当にありがとう」
「咲希ちゃん」
「ママ、コーヒー飲んで。一緒に飲もう」
また咲希ちゃんは思い切り笑ってくれた。その笑顔に私も思い切りの笑顔で返した。咲希ちゃんはそう言うとゆっくりコーヒーを口にした。
「美味しい。美味しいねママ。このコーヒー」
咲希ちゃんはそう言ってまたコーヒーを飲んだ。
「ありがとう」
何か、そんな咲希ちゃんをただただ見ている私が居た。何故か言葉が出て来ない。嬉しいんだけど、いろいろ聞きたいんだけど目の前の咲希ちゃんとの距離が何だか優しい。前にも感じたけど、私がお客さんに癒やされているこの感覚に酔いしれている。今の私にはただただこの空間がすべてを語っていた。
---人は、時間の流れの中でこんなに変われるものなのだろうか。いや、時間だけではない。気持ち。心。
私は、自分成りに咲希ちゃんがどう過ごして来たのか考えていた。だけど、たぶん違うんだろうな。でも、今、目の前に居る咲希ちゃんはそのままなんだ。
すると咲希ちゃんが窓の外に目をやって
「ママ---」
静かに言った。
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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈