ビニール傘と花束とコーヒー✩あの恋を落として失くした《咲希》ちゃんの大人になった笑顔 【後編】〈カフェ23咲希2後〉
咲希ちゃんは〈ママ---〉と言って、そうっと窓の外を見ている。私はそんな咲希ちゃんを見ていた。
「ママ。暖かくなったよね。初めてママと知り合ってから。あんなに寒かったのに。雪が降ってたんだよ。それなのに、ちゃんと暖かくなるんだね」
咲希ちゃんはそう言ってそうっと笑った。
「そうだね。暖かくなったよね」
---そうだね。咲希ちゃんも大人になったね。
そう思いながら私もそっと笑っていた。
「あんなに辛くて悲しかったのに。---不思議なんだよね。もう何だかいい思い出になってる。時間がそうしたのかなぁ。それともママに出逢えたからかなぁ」
そう言って咲希ちゃんは窓の外から視線を外して私を見た。その顔はやっぱり大人になった咲希ちゃん。何だか更に綺麗に見えた。
「咲希ちゃんが大人になったんじゃない。大人って言うか成長したって言うか、すべては咲希ちゃんが自分自身で解決したんだよ」
私がそう言うと。
「そうなんだ。そうなの?。私が自分で?」
そう答える素直な咲希ちゃんが居た。
「人は辛く悲しみを知った分、優しくなれるって良く言うでしょ。知らなくても優しい人も居るわ。だけど、誰でも何でも、同じ思いをしなきゃわからない事ってあるからね。例え同じ思いでも状況が違ってもわからない事もあるけど、きっといろいろこれから経験すると思うわ。これからね。だけど結局みんな自分自身で解決して行くのよ。その手助けはいろいろあるけどね」
私がそう言うと咲希ちゃんはニッコリ笑った。私もそんな咲希ちゃんにつられて笑っていた。
すると咲希ちゃんはまたコーヒーをゆっくり口にした。
「ママ。良くコーヒーは大人の味なんて言うけど、わかるような気がするなぁ。ちょっと苦くてほんのり甘くて口にした瞬間が癒やされる。凄いなぁ」
咲希ちゃんは嬉しそうに話す。
「咲希ちゃん。---」
あの時とは本当に違う咲希ちゃんが居た。
---時間や経験はこんなにも人を変えられるものだろうか。
凄いのはコーヒーじゃなくて咲希ちゃんなんだよって心の中で言っている私がまた微笑んでいた。
「ママ、私そろそろ行くね」
まだ窓の外はちょっと明るい。いつの間にか随分日も長くなっていた。
「ママ、バイトが近くだからまたちょこちょこ来るね」
咲希ちゃんはそう言って立ち上がると、テーブルの下の籠からクリーム色のスプリングコートを取って軽く羽織った。そして、咲希ちゃんは、760円ピッタリを私の手に渡した。
「ごちそうさまでした。ママ。ありがとう。美味しかったです」
咲希ちゃんは思い切り微笑んでくれた。
「また来るね」
咲希ちゃんは何だかぼーっとしていた私にそう言って、ドアに向かって歩いて行ってドアを開けた。
---あっ。待って。
私は慌てて咲希ちゃんを追いかけてドアに向かった。
「咲希ちゃん」
「ママ、本当にありがとう」
何だかあの時から一瞬時間がワープした様な気がした。
「咲希ちゃん。咲希ちゃん、ありがとう。また来てね」
咲希ちゃんは私に手を降って駅に向かって行った。
私の手に握らせた760円ピッタリ。私に余計な気を使わせないようにピッタリ払ってくれた。始めから私にコーヒーを飲ませてくれるつもりで来てくれた咲希ちゃん。
人の成長は面白い。人に限らず植物も動物も。
素晴らしい。
本当に嬉しい。
私はコーヒーカップを片付けると、ふと大切にしまっておいたあの時の咲希ちゃんが書いてくれたメモをまた見ていた。
---〈ママ、ありがとう〉って、私がありがとうだからね。
フッとまた窓を見た。
あっという間に暗くなっている。
今日は店を開けて良かったなぁなんて思っていた。
カランカラーン。
---あら。誰か来たかしら。
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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈