ビニール傘と花束とコーヒー✩あの恋を落として失くした《咲希》ちゃんの大人になった笑顔 【前編】〈カフェ21咲希2前〉
カランカラーン。
圭子さんが帰って、しばらく店は開けていた。本当は今日は店を開けるつもりではなかったのに、窓から外を見ていて圭子さんを見つけて店を開けた私。本当に気まぐれ。自分でも笑ってしまう。
---なんだかんだ言っても、お店が好きなのかなぁ。
そんな事を思いながら、またちょっとぼーっとしていたら店のドアが開いた。
「ママ」
店に入って来たのは、私がこの店を開店して初めてのお客さんだったあの女の子〈咲希ちゃん〉だった。
可愛いピンク色に花柄のワンピースに白いジャケット。そして軽めのクリーム色のスプリングコートを羽織っている。
あの時から時は流れだいぶ暖かくはなったが、若い子は季節を敏感に感じ取っているのだろうか。桜も咲く頃になってもまだまだ肌寒いこの季節。私はまだまだ冬のコート。そして相変わらず可愛い女の子。
「ぁ〜!。咲希ちゃん。咲希ちゃんなの。いらっしゃい」
本当にちょっと久しぶりの再会に私は子供みたいに嬉しかった。直ぐにドアまで行った。
あの時恋を落として失くして涙をこぼしていた咲希ちゃん。本当に壊れてしまいそうな女の子だった。
でも、ドアを開けて入って来た咲希ちゃんは、何だかあの時とは違ってちょっと大人になった様に見えた。
「ママ。あの時は本当にありがとうございました。これ」
店に入って来た咲希ちゃんは、そう言ってあの時貸したビニール傘と可愛い花束を私に渡した。
「え。傘は良かったのに。それにこの花束は私に?」
私は、嬉しいのと何か申し訳ないような感覚だった。
「あの時、ママに話を聞いて貰えたから本当に嬉しかったんです。それでも、何か恥ずかしくて。本当に優しくして貰ってママに逢いにまた来たかったから傘は返したかったんです。本当に、ありがとうございました」
咲希ちゃんは、ニコッと笑ってそう言った。
「ありがとう咲希ちゃん。花束までいいの?」
ピンク系のチューリップやスイートピーが入った可愛いやや小さめの花束。ちゃんとピンク色の大きめのリボンまで。
「ママに。感謝を込めて。私が好きな花で作ったから花言葉とかは気にしないで下さいね。エヘヘ」
「へぇ。可愛い。咲希ちゃんセンスあるし器用なのね」
私はジロジロ可愛い花束をあちこちから見てしまう。そんな私をまた優しく笑って見ている咲希ちゃん。
「ママ。私ね、そこの駅の駅ビルに入ってる花屋さんでバイト始めたんだよ」
「えっ」
「私の家は駅から2個目なんだけど、ママに逢えたこの街が気に入って駅ビルの花屋さんでバイト始めたんです。それに一応思い出の場所だから」
咲希ちゃんはそう言ってまた笑った。
思い出の場所とはあの時涙を溢した彼との思い出の場所なのだろう。
「咲希ちゃん」
私がそう言うと、ちょっと心配したのがわかったのだろうか。咲希ちゃんは微笑んで言った。
「ママ。私もう大丈夫だから。本当に吹っ切れたから。ママと話してあれからいろいろ考えたんだよ。何かママの優しさと、そうそうあの日帰る時にママに借りたこの傘と帰りに見たあの駅ビルの花屋さんの花が凄く優しく感じたんだぁ。いつもはただ通り過ぎるお店の花に癒やされたり。いろいろ今まで気付かなかった温もりってあるんだなぁって」
「咲希ちゃん」
私は、本当になんだか大人になったなぁって嬉しくなった。咲希ちゃんはキョロキョロ店を見て。
「ママ、お客さん居ないならママと話がしたいなぁ」
「ええ、もちろん。咲希ちゃん好きな所に座って」
私は、カウンターに入って準備をした。
咲希ちゃんは、またあの時と同じ窓から外が見えるテーブル席に座った。クリーム色のスプリングコートはテーブルの下の籠に入れて。
「あ、ママ。コーヒーカップは桃色でね。コースターも。それからママのコーヒーも」
「エッ?」
咲希ちゃんはそう言った。
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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈