多趣味80歳《圭子さん》の憩いの場所の一つに 【前編】〈カフェ19 圭子2前〉
私は、慌ててお店のドアに向かった。
本当は、今日はお店も開けず何故かゆっくりお客さんの気分になって、テーブル席からコーヒーを飲みながら窓の外を見ていたかったのだ。
特に定休日も無く本当に私の気分気ままにやるお店だったから、ちょっとたまには休んでみようかな?なんて思ったりもして、ゆっくりコーヒーを飲んでいたのに窓の外を見ていたら目が合ってしまった。〈圭子さん〉。私は、思わずお店のドアに向かっていた。
そして私は、急いでドアを開けて叫んだ。
「圭子さん、圭子さん」
--- あっ。
圭子さんと窓から目が合って、慌ててドアに向かい思わず呼び止めようと叫んだのに、圭子さんはニコニコしてそこに居た。
「あらあら、ママさん。今、丁度お店に来たんですよ」
--- あらま。
私は、圭子さんがお店に来るなんて思わず呼び止めていた事に、私自身ちょっと笑ってしまった。
「あっ。いらっしゃい、圭子さん」
「ママさんが出迎えてくれるなんて嬉しいですねぇ」
「あ、いえ、あの」
すると、圭子さんはニコニコしながら店に入って行った。
私は、慌てて表のドアに掛けてあるプレートをさり気なく返した。
--- 圭子さんは、プレート見ていなかったんだ。
何かちょっと笑ってしまう。
圭子さんは、やはり指定席かのように前回座ったテーブル席に向かって行って座った。
私は、いつも通りおしぼりとお水が入ったグラスを持って行った。
「いらっしゃい、圭子さん」
相変わらず圭子さんはニコニコしている。
「圭子さん。今日はコーヒーカップの色どうしますか?」
確か前回は藍色を選んでいた。何故か圭子さんには今日飲むコーヒーカップの色を聞きたくなる。
「そうですね。今日は橙色にしてみようかな」
またニコニコしながら
「いろいろな色のコーヒーカップでコーヒーを飲めるのもいいですね。楽しくなりますよ」
そう言ってお店の中を見渡していた。ゆっくり優しく。そんな圭子さんの姿を見て何故か癒やされている私が居た。
そして私は、橙色のコーヒーカップにコーヒーを入れて橙色のコースターと一緒に圭子さんのテーブルに持って行って、コーヒーを置いて私も向かいの椅子にちょこんと座った。
「ありがとうございます。このコーヒー本当に美味しいですね。私はファンになりましたよ。あ、それから、あの綺麗な石、ローズクォーツって言いましたかね。大切に持ち歩いていますょ」
圭子さんはそう言うと、持って来た小さめのブラウン系の布のバックから小さい藍色の布の入れ物を出して、そこからローズクォーツを取り出して見せてくれた。
「ゎぁ、ローズクォーツのお家を作ってくれたんですね。可愛いですね。ローズクォーツも喜んでますよ」
そう言うと圭子さんはまた微笑んで
「いえいえ、こちらこそ、こんなに可愛い石をありがとうございます。何となくたまに出して見ていると気持ちが落ち着くんですよ。それでママさんを思い出して来てしまったんですよ」
--- あら。
私は思わず微笑んだ。
「何か最近暖かくなって来ましたよね。もうすぐ春が来ますかね」
そう言ってまた微笑む圭子さん。
「そうですね。気がつけば確かに暖かくなっていますね。今年は暖冬ですね。あまり雪も降らなかったし、いつもの年よりは暖かかったかもしれませんね」
私がそう言うと圭子さんは、ローズクォーツをテーブルに置いてあった藍色の布の入れ物の上に置いて、更にバックからラベンダー色の手帳を出した。
「ママさん。私ねぇ、趣味で俳句や短歌も書くんですよ」
その手帳は小さめで本当に綺麗なラベンダー色だった。
「俳句や短歌ですか。素敵ですね。拝見してみたいですね」
私がそう言うと圭子さんは
「ちょっと恥ずかしいですが」
と言いながら、その ラベンダー色の手帳を私に渡してくれた。
まだ新しい手帳。
「拝見してもいいですか?」
私が聞くと
「どうぞ。どうぞ。恥ずかしいですが」
そう言って圭子さんは優しく微笑んだ。
私が、そのラベンダー色の手帳を開くと新しい手帳には2つの作品が書いてあった。
《福寿草 人恋しさに 咲きほこり》
《枝育つ もれなくこぼる 春日差し》
私には、専門的な良し悪しはよくわからないけれど優しさは感じる。春の優しさの様に。
「優しい春を思わせる感じの作品ですね」
「ありがとうね。いろいろやっているんですよ。趣味の範囲ですが」
嬉しそうに笑う圭子さん。
「そうなんですか?。他にも何かやってるんですか?」
何故か不思議と圭子さんとの話しがワクワクして来る。
私は、そう聞きながら何度も圭子さんの作品を読み返していた。
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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈