新庄流育成術のスゴさ
ユーシロです。
監督3年目の新庄剛志監督は、チームを2年連続最下位から2位に押し上げたと同時に、多くのスター選手を育てた。その背景には、選手の個性に合わせたマネジメントが見られたと言っても過言ではない。
選手たちに平等に機会を与え、成長を促し、時に厳しさも見せた新庄監督。健全な競争、公平な評価とともに新庄采配で目立ったのが、選手の個性に合わせた接し方だ。
代表的なのが清宮幸太郎だ。新庄監督は就任当初から清宮に対して厳しい態度で接し、2021年の秋季キャンプでは減量を提案。さらにホームランを打っても「痩せろと言わなかったら間違いなく凡打。ボスのおかげ」と愛のある“イジり”をしている。
その甲斐もあってか、清宮は新庄監督初年度の2022年に自身初の2ケタホームランを放つと、以降も今季まで3シーズン連続の2ケタを記録。今季は規定打席こそ到達しなかったが、300打席以上に立って打率は3割ちょうど、長打率も大きく伸びるなど成長を見せている。
多様性の時代に、画一的な対応とは真反対の新庄監督は時代の雰囲気に合致したマネジメントとそれを求めている選手達との歯車が嚙み合ったのではないだろうか。
野球だけでなく、これはどこの現場でも通じるものだ。部下の個性に応じた対応については普段から部下の言動を細かく分析して、向き合う姿勢が求められるものだ。
そして、分析だけでなく、人事の時でもフォローをしているのも特徴的だ。例えば、清宮とともに打線を牽引した新外国人のレイエス。メジャーで2度の30本塁打を記録した長打力を誇るレイエスだったが、序盤は日本野球になかなか適応できず、不振から5月に2軍落ちとなった。
この処遇には、レイエスも「帰る」とまで言っていたが、2軍にいるレイエスとメールやインスタなどで連絡を取り、激励してきた。ここで思い浮かぶのは、中日ドラゴンズの立浪和義監督だ。
新庄監督と同じく、監督3年生だった今季、序盤こそ好調だったものの長続きせず、最終的には3年連続の最下位となった。立浪監督について調べても、新庄監督のように選手に合わせた接し方をしていたという記事は見当たらない。
もちろん監督やコーチ、そしてフロントなどそれぞれに役割分担があるため、監督が細かくデータ分析をすべき、というわけではない。また、プロ野球ではドラフト戦略やFA、怪我人など様々な要因が複雑に絡まるため、監督の指導力だけで決してすべてが決まるわけではないのも事実だ。
ただ、選手と向き合い、能力を引き出すうえでは間違いなく重要であり、監督3年目の時点では、新庄監督のほうが上回っていたというのは、客観的に見て間違いないだろう。
そんな立浪監督の采配では一部、贔屓のような場面があった。特に今季から加入した中田翔、中島宏之といったベテラン勢に対する優遇はファンからも不満の声が目立った。中田は開幕当初こそ絶好調だったが、シーズンを終わってみれば、最後に打ったホームランは7月の4号。故障による離脱があったとはいえ、チーム再建のために同じ我慢をするのであれば若手を起用する手もあったのではないか。
中島も代打の切り札として期待されたが、安打はゼロ。好調の選手にかわって代打で出てくる場面もあり、ファンからは疑問の声があがっていた。 もちろん、低迷するチームの起爆剤として、これまでの実績があったり、他のチームで優勝経験があったりするベテランに頼るのは悪いことではない。
しかし、中田や中島を起用する一方で、同じベテランのビシエドは出場機会に恵まれなかったことを疑問視するファンも多い。かつての首位打者が、2軍のままの状態、しかも打率3割を記録しているのは看過できない。
企業でもここ数年、ベテランの扱いに悩むケースは多い。ベテランに対する先入観や遠慮が、適切なマネジメントをする上での壁となることは非常に多い。特に年上の部下を抱えるマネジャーでは顕著だ。
例えば「一度部長にまで上り詰めたあの人に、こんな仕事は任せられない」と悩むケースが挙げられる。しかし、当の本人からすれば気にしていないことがほとんどで、組織に貢献できるなら、どんなことでもやる覚悟のあるベテランは多い。
立浪監督が、ビシエドに対して「代打は、ホームランバッターとしてのプライドが許さないかもなぁ」と思っていたのかは不明だが、重要なのは接する相手の年齢や過去の実績によっても、求められるマネジメントは変わってくるということだ。
両チームの話題といえば、昨シーズンの2対2トレードも記憶に新しい。それぞれの選手が新天地で活躍を見せているが、中でも頭角を現した選手がドラゴンズからファイターズに移籍した郡司裕也だ。
ドラゴンズ時代は出場機会に恵まれなかったが、昨シーズンはプロ初ホームランを放つなど躍動し、今季はオールスターゲームのファン投票で2位にほぼダブルスコアをつける票を獲得し、自身初の出場も果たした。
環境が変わることで能力が大きく変化するケースは多々ある。私自身、かつての職場で『できない社員』が転職や異動によって過去をリセットしたことで、自信を取り戻すとともに成果を出せるようになった。もちろん環境を変えることが常に良いことではないが、ポジティブな効果をもたらすケースは非常に多い。
トレードで移籍した経緯から考えると、もともとポテンシャルがあったのは間違いない。しかし、それをそのまま発揮し、選手が活躍するようになる背景には監督の手腕あってこそだ。郡司選手が飛躍できた裏には、ここまで触れたような新庄流のマネジメントがあることは間違いない。
監督3年目、2年連続最下位と共通点のある両チームだが、今シーズンはドラゴンズは3年連続で最下位の一方でファイターズは6年ぶりのAクラスと明暗が分かれた。その背景の一つには、こうしたマネジメントの違いがあったのではないだろうか。
「個」に向き合い、「集団」をもひとつにするマネジメントスキルを持っている人は、プロ野球はもちろん、現実の企業にもそこまで多くない。新庄監督率いるファイターズの躍進は、多くの教訓を与えてくれている。