ビットコインのマイニング技術の特許俯瞰
はじめに
本noteでは、ビットコインのマイニング技術に関する特許情報分析を行う。
暗号資産(仮想通貨)の代表であるビットコイン(BTC)は、近年高騰し、大きな話題となった。
そのBitcoinの分野の中で、重要なプロセスであるマイニングというものがある。
マイニングとは、トランザクション(取引)のデータを検証・承認したのち、データをブロックチェーンのブロックに保存し、その一連の作業に対する報酬として仮想通貨を獲得する行為のことを指す。
詳しい技術は、わかってないが、マイニングは3つのステップがあるようだ。
ナンス値探索
トランザクションのデータをハッシュ値に変換
ナンス値とハッシュ値をブロックに保存する
→そしてこの一連のアクションの報酬をもらう
といったものである。
このように、マイニングは、Bitcoin・ブロックチェーンの整合性をとるための重要なアクションである。
今回の俯瞰調査・分析の目的
今回の俯瞰調査・分析の目的は以下である。
特許情報を中心に分析し、技術の俯瞰していきたい。
特許情報の観点から有望企業をみつけたい。
ビットコインのマイニング技術について(市場情報)
検索式の作成
まず、特許の検索式を作り、特許調査を始める。
最近イーパテント株式会社の野崎さんが、特許検索式作成GPTを開発している。
こちらを使って検索式を作成してみる。
最初の画面はこちらである。
「ビットコインのマイニングについての検索式を作成してください」と入力。
以下出力結果
今回は特許データベースとして、「Lens」を使用するので、Lens用の検索式に変換した。
「Lens.org用の検索式を作成してください」と入力した。
エラーがでたので、エラー分をさらに追加したたところ、検索式が完成した。
技術動向調査レベルの検索としては、十分に使えるのではないか?
Lens.orgによる検索、簡易マップ作成
検索準備
さて、それでは検索を行う。先ほど出たように、Lensで検索していく。
先ほどの検索式を入力。
全部で16186件(生存と不明特許)、ファミリー数は8035件となった。
lensのダッシュボードは下記の通り。リストを閲覧することもできる。
出願数時系列推移
2018年くらいから出願数が上昇している。こちらはビットコインのチャート推移と似ている。
ビットコインは、2008年10月サトシ・ナカモトという人物がネット上である論文を公開したのが最初であるものの、関連特許が出始めたのは2016年からなのだろう。
特許の公開が1.5年であるならば、ちょうど以下の時期2年後くらいに出願が急激に増えると考えると思うが、その通りの結果である。(要はチャートの動きに近い。
)
2017年(1BTCの価格が200万円を超える)
2018年(ビットコインバブル崩壊)
出願人ランキング①
出願人ランキングを見ると、
一位はさすが、IBM。
IBMには仮想通貨部門があるようで、事業としてしっかりと活動している。
サービスも豊富なようである。
被引用数(特許における引用は、現在の特許出願に関連する過去の技術を 引用すること。その数が多いほど、類似技術がある、特許公報の被引用文献数が多い特許であるほど、より多くの特許出願に影響を与えている、技術注目度が高いと解釈できます)が多い特許の中身をみてみる。
発明名称:ブロックチェーンによる分散型自動ソフトウェアアップデート
検索式の見直し
ここまで、見てみるとマイニングに近い技術とは遠い気がした。おそらく、検索式、母集団の範囲が広いためである。
検索式の項を追加した。全て全文で認識されていたようだ。。。
そのため、GPTの検索式では、プロンプトを見直したほうがいいかもしれない。。。(項は検索式の編集項目、Filed Tipsに詳細が掲載されている。)
出願人ランキング②
Coinbaseなどの企業が出てきたので、当該技術領域企業に近づいたと感じた。
ダッシュボードを再共有する。(912ファミリー)
後ほど、Nchainやcoinbase、MicronTechなのに言及していく。また、出願状況から、今後伸びそうな企業をみつけていく。
技術分類(IPCR)ランキング
本母集団の技術分類をランキングをみていく。
上位4つのIPCRは以下の通りである。(和訳)
H04L 9/32: 電気システムの利用者の身元または権限を検証する手段を含むもの
→ビットコインの発明には多く付けられているであろう分類に感じる解説である。ブロックチェーンの最大目的である技術=「チェーンのように連結して保管する金融取引履歴を行う」の上位概念的な解説である。
H04L9/06: 電気公開鍵,すなわち暗号化アルゴリズムが逆変換することが計算上 不可能であり,利用者の暗号化鍵が秘匿性を必要としないもの
G06Q20/38:物理私的な支払回路,例えば共通の支払スキームの参加者の間でのみ使用される電子通貨を含むもの
→こちらもブロックチェーンを使う、仮想通貨を表現する解説である。
H04L9/08:電気グループにおいては、最終順位優先規則が適用される。
その他特許を調査したが、「マイニング」に関するjustな分類はなさそうである。
テキストマイングでデータの可視化を行う&技術分野を把握する。
テキストマイニングでも、母集団のリストをみて技術動向の俯瞰を行いたい。
ワードクラウド
発明名称によるワードクラウドを行なった。lens.orgでエクスポートしたデータから和訳して、ユーザーローカルさんのテキストマイニングサービス(無料範囲)で行なった。
https://auth.userlocal.jp/services
当たり前に出てくる(ブロックチェーンの意味に近いKW(マイニング、トークン、暗号通貨、分散、システム)以外にも、ピアツーピアなども見えている)
ピア・ツー・ピア(P2P)とは、コンピューターが対等な関係でデータを交信するシステムのことであるので近い意味ではあるかもしれない。
この結果から、マイニング技術周辺技術では、
通信技術
資産取引
管理技術(ビジネスモデル G06Q関連。(IPCRランキングからもわかる))
の発明が中心でわることがわかる。
次に課題を知るために、要約文章に対して、「〜性」のみをワードクラウドに変換した。本ワードクラウドは、pythonで作成したものである。
詳しくは、こちらを参考にしていただきたい。
健全性や耐性、適格性など、セキュリティに関するKWが多い。
発明の名称キーワードランキング
こちらからランキングを取得。
こちらもワードクラウドの結果とあまりかわりない。
文書ベクトルの次元削減による可視化
文書ベクトルの次元削減による可視化を行なった。
手法に関しては以下のnoteをみていただきたい。
発明名称KWを活用
要約KWを活用
こちらは仮説であるが、発明それぞれ、異なる技術詳細や課題解決手段であるはずではあるが、この技術分野では、ビットコインなどのシステム(通信、管理)が主であるため、要約が似たキーワードが多く使われている可能性がある。
また、発明の名称をみると、
event
currency
implemented
でクラスタリングができているように見えている。こちらも仮説ではあるが、
event →システム処理手順に関する特許
currency → 通貨に関する特許
implemented →ブロックチェーンの実装手法に関する特許
当該母集団は、大きく分類できるのかもしれない。
共起ネットワーク
「mining」のKWから派生させた、共起ネットワークを生成した。こちらはpythonで書いたプログラムである。
「pool」と「mutliplayer」というKWが気になる。
pool:「マイニングプール(Mining pool)は暗号通貨で、協力してマイナーがマイニングするそのあつまり。」
multiplayer:これも上記のマイニングプールと同義であることが特許を読み込んでわかった。
GPTを活用した技術概念の理解
2020年以降の出願特許の発明名称をGPTに入れ、技術テーマごとにクラスタリングし、上位概念、下位概念に分けてmermeid記法で表現することで技術概念の理解を行なった。
GPTに以下のような感じで入力する。
mermeid記法,GPTによる出力結果。
graph TDA
[Blockchain Mining Technologies]
subgraph Privacy and Security
B1[Privacy Protection]
B2[Covert Communication]
B3[Anonymous Transactions]
B1 --> I1[Threshold Supervision Method]
B1 --> I2[Bitcoin Compatible Chain Crowd Funding]
B2 --> J1[Bitcoin Transaction Amount-Based Method]
B3 --> K1[Anonymous Certificate Verification]
end
subgraph Authentication and Identification
C1[Zero Trust Authentication]
C2[Multi-Factor Authentication]
C3[Hierarchical Identification]
C1 --> L1[Zero Trust Authentication Method]
C2 --> M1[Web3 Services Authentication]
C3 --> N1[Hierarchical Cryptocurrency Mining Identification]
end
subgraph Cryptocurrency Transactions and Management
D1[Secure Asset Transfers]
D2[Pre-Verification of Transactions]
D3[Custodial Wallet Management]
D1 --> O1[Secure Transfer of Assets]
D1 --> O2[Universal Encryption Storage]
D2 --> P1[Pre-Verification of Transfers]
D2 --> P2[Test Transactions]
D3 --> Q1[Non-Custodial Wallet]
D3 --> Q2[Custodial Wallet Management]
end
subgraph Energy Optimization and Environmental Impact
E1[Energy-Efficient Mining]
E2[Renewable Energy Integration]
E3[Waste Energy Utilization]
E1 --> R1[Energy-Efficient Mining Accelerator]
E1 --> R2[Spatially Shared Message Scheduler]
E2 --> S1[AI Renewable Energy Planning]
E2 --> S2[Cryptomining Hybrid Solar and Wind Energy]
E3 --> T1[Waste Energy Utilization for Plant and Animal Production]
end
subgraph Hardware and Infrastructure
F1[Overclocking Mining Rigs]
F2[Cooling Systems]
F3[Power Supply Optimization]
F1 --> U1[Overclocking Mining Rigs Systems]
F2 --> V1[Cooling System for Mining Equipment]
F3 --> W1[Power Supply for Mining Machine]
end
subgraph Novel Applications and Integrations
G1[NFTs]
G2[DeFi]
G3[Gaming Systems]
G1 --> X1[NFT-Based Ownership Exchange]
G1 --> X2[Non-Fungible Token Services]
G2 --> Y1[Delegated Off-Chain Payments]
G3 --> Z1[Blockchain Jackpots in Gaming]
end
subgraph Detection and Monitoring
H1[Mining Behavior Detection]
H2[Flow Detection]
H3[Laundering Detection]
H1 --> AA1[Real-Time Detection]
H1 --> AA2[Traffic Analysis]
H2 --> BB1[Bitcoin Flow Detection]
H3 --> CC1[Second Layer Network Laundering Detection]
end
A --> B[Privacy and Security]
A --> C[Authentication and Identification]
A --> D[Cryptocurrency Transactions and Management]
A --> E[Energy Optimization and Environmental Impact]
A --> F[Hardware and Infrastructure]
A --> G[Novel Applications and Integrations]
A --> H[Detection and Monitoring]
この内容を、以下に入力。
以下が出力内容である。
この手法では、ブロックチェーンのマイニングの周辺技術は、
プライバシーとセキュリティ
認証
仮想貨幣変換・管理
エネルギー最適化・インパクト
ハードウェア・インフラ
アプリ
検出とモニタリング
に技術領域が分けられるようだ。
技術分野を把握 まとめ
これまでの結果から、マイニング周りの技術を整理すると、以下のようのものが考えられる。
通信技術
認証
マイニングプール
資産取引
仮想貨幣変換・管理
管理技術
プライバシーとセキュリティ
検出とモニタリング
その他
エネルギー最適化(マイニング時の消費)
ハードウェア・インフラ
アプリ
健全性や耐性、適格性など、セキュリティに関するKWが多い。
→セキュリティの課題に関してまだ解決する余地があると考えられる。
有望企業の選定〜ランキングによる分析&被引用数 vs 出願ファミリー数による分析
出願数ランキングによる分析と被引用数 vs 出願ファミリー数による分析で、簡易調査を行い、投資してみたい企業を抽出する。
NChain
nChain は、製品、ソリューション、IP ライセンス サービスを提供するブロックチェーン テクノロジーの世界的リーダー
https://nchain.com
直近の出願も多く、ブロックチェーン特許は世界6位。
また、PatentSightのLexisNexis は、nChain の特許ポートフォリオを高く評価している。
IPポートフォリオやブロックチェーンへの研究開発投資もしっかり行なっている。
しかし、上場はしていない様子である。
Micron Technology
2019年(優先権)に出願が集中しており、注目できる。
マイニング用のメモリを開発している様子である。
半導体株が上がっている中、さらに加速しそうな企業である。
Coinbase
Coinbaseはビットコインキャッシュ、イーサリアム、ライトコインなどの暗号資産の取引所サービスを提供しているプラットフォーマーである。
SWFL INC D/B/A FILAMENT
Filamentはアメリカのネバダ州に拠点を置く2012年創業のスタートアップで、他社に先駆けて企業がブロックチェーンベースのIoTワイヤレスセンサーネットワークを利用するためのハードウェア、ソフトウェアソリューション、コンサルティングサービスの提供を行っている。
ビットコインの価格上昇とともに、株価は上昇している。
Filamentは産業用IoTブロックチェーンのための一連の技術Blocklet ™の開発を進めているとのこと。
Blockletはソフトウェアだけでなく、ファームウェア、ハードウェアではチップやUSBで接続する形のデバイスなど、企業が既存の機器をブロックチェーンにつなげ、M2M(Machine to Machine)のコミュニケーションを可能にするさまざまな技術である。
自動車産業が急拡大している中、この内容は有望市場と予想する。
また、日本企業の兼松と協業を発表している。(兼松は商社。)
21 INC(Coinbaseが買収)
21 Inc. は、サンフランシスコを拠点とするブロックチェーンおよび暗号通貨テクノロジーのスタートアップ。
2015年には、「世界初のビットコイン コンピューター」を発表したのこと。
おそらく上記特許の内容です。
上記の記事からも察するに、この企業はまさに有望なマイニング関連企業であろう。
記事を読み進めると、「2017年、同社はトークンベースのソーシャルネットワークに特化を変更し、社名を Earn.com に変更しました。」とのこと。
さらに読み進めると、
「コインベースがEarn.comを買収、Earn.comのCEOをコインベースCTOに」との記事が、、、、
CoinBaseは買収による成長を行っており、CoinBaseの有望度が増す。
Datient Inc
Datient, Inc. はソフトウェア ソリューションを提供しています。同社は、パターン、有用な指標、明確な視覚化、実用的なインテリジェンスの価値ある分析のための分析ツールを提供。
こちらもスタートアップのようで、情報が少ない。
マイニングをする特許というより、台帳管理に関する特許を保有している様子。しかしならが、被引用数が大きいことから有望企業だと考える。
と思いきや、2018年にDMG Blockchain Solutions Incという会社が買収していた。
DMG Blockchain Solutions Inc. は、ブロックチェーン エコシステムを収益化するためのエンドツーエンドのソリューションを管理、運用、開発する、フル サービスの多角的ブロックチェーンおよび暗号通貨企業。
企業買収を行う中、株価は低調であり、安目で取引されているかもしれない。
Chain ID
Chain ID は、ユーザーが卒業証書、証明書、ライセンス、会員資格などの文書をブロックチェーンに保存できるプラットフォームです。
被引用数の高い特許を保有しているが、2014年以降出願していない。
こちらもスタートアップなため、情報が少ない。
まとめ
今回の俯瞰調査・分析を行い、技術動向の把握を行うことができた。
特に大きいデータ量に対して、GPTやテキストマイニングの有用さを示すことができたとも思っている。
また、被引用数とファミリー数から有望企業を抽出、選定した。
抽出した企業を調査した結果、買収や次世代技術の開発、知財投資など積極的に行なっている企業が多かった。
特許からの企業把握は投資とマクロ分析の観点からも有用だと感じた。
以上
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