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性別違和と私の距離感
人生には優先順位がある。もちろんそれは人それぞれ違っている。家族との時間を大切にしたい人もいれば、仕事を頑張りたい人もいる。
フリーランスのメリットを話していると、その人が何を大切にするためにどこがよくてフリーランスになったのかがあまりに多様でおもしろい。たくさん働きたくてフリーランスになった人、たくさんは働けないからフリーランスになった人、フリーランスならではのコミットが合っていた人。いろいろいる。
ところで、私はセクシュアルマイノリティでもある。恋愛感情や性的惹かれがないアロマンティック/アセクシュアルで、パートナーを望まない。性自認は自分を無性と認識しているノンバイナリー。
今は離れてしまったけれど、かつてはLGBTQに関する発信を積極的にしているメディアで記事を書いていた。離れた理由は私が事業の方向性を変えていったからなのだが、自身のジェンダーやセクシュアリティについてあまり考えなくなっていった時期なのも無関係ではない。
ジェンダーやセクシュアリティに関する悩みや迷いが綺麗さっぱり消えるなんてそれはさすがに夢物語だ。でも、ジェンダーやセクシュアリティは私のなかの優先順位がそんなに高くないとも理解した。
性別適合手術なるものがある。性別違和を抱える人(ノンバイナリーやトランスジェンダーなど)の人が自分の身体を自分の持つ身体イメージに合わせるべく受ける手術だ。
この手術は日本ではかなり狭い条件での保険適用になっている。自費で受けるならば、タイをはじめとした海外に渡航した方が安価で症例数も多いため海外で手術を受けるやり方が一般的だ。国内でも自費の手術は行われているが、セクマイの常識としては手術(オペ)と言ったら渡航、みたいな雰囲気はまだまだある。
国内に比べて安いったって自費だ。今話題の高額療養費制度も医療費控除もありはしない。お金、時間、手間、痛みを伴う選択肢なのだ。
性別適合手術の高いハードルは緩和されるべきなのは言うまでもない。オプションではなくベーシックな医療として提供される必要がある。
でも、私はどうなのだろう。胸が膨らんでいることを嫌だなと思う。フラットな胸部、生理のない身体、性別を想起させない無性の身体を望んでいる事実はある。これは性別違和の感覚と言っていいものだ。
とはいえ、性別違和の解消は私にとって最優先ではない、もしくは性別違和の解消方法が手術ではないのもまた事実。
誤解を恐れずに言うと、こうなる。性別違和はある。でもTwitterやレインボープライドで出会う当事者達のような切実さは私にはない。ジェンダーやセクシュアリティは私のなかの優先順位がそこまで高くない。
前々からセクシュアルマイノリティでありながら、それが自分を占める割合はそんなに高くないと感じていた。決定的なのは「数百万円が降ってわいたら何をするか」と話していて、「学費、書籍」と即答した瞬間だ。
あ、私、費用の心配がいらなくなって最初にやるの、性別適合手術じゃないんだ。やっぱりな。すとんと腑に落ちた。
よくよく考えてみれば、そんなの当たり前だ。異性愛者が皆恋愛を一番大切にしているわけじゃない。仕事や趣味が第一の人もいるだろう。セクシュアルマイノリティだって同じことだ。それなのに、なぜ、性別違和や恋愛、マイノリティ性に切実な思いを抱き、それがその人の多くを占めているイメージがあるのだろう?
未だに婚姻の平等も達成されていない日本で、セクシュアルマイノリティとして生きるのがアイデンティティや生存を左右する苦痛となる人ばかりが声を上げる構造もある。自身のジェンダーやセクシュアリティの優先順位が高くないのなら、そこに声を上げるのはリスクでしかない。本当にその通り。
異性愛者が恋愛を最優先にしていなくても恋愛を話題にするように、ジェンダーやセクシュアリティの優先順位が低い私もいて、たまに考えたことを書いていけるのがいい。切実じゃなくても、生存を今すぐ左右しなくても、私のマイノリティ性はそこにある。
高額療養費制度があっても現状の闘病は金銭的に厳しいにもかかわらず、さらに厳しくしようとする高額療養費引き上げに反対する署名に賛同しました。難病だろうとがんだろうと、経済的負担を理由に治療を諦めたくはないです。
1月20日に明石書店より初の単著が出版されました。タイトルは『マイノリティの「つながらない権利」――ひとりでも生存できる社会のために』です。
マイノリティだからこそ強いられることやモデルマイノリティ神話に否を唱える内容です。ぜひお手にとってみてください。
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