「生の芸術」に「触れる」
2024/10/27
自宅近くの喫茶店にて
最近、体調がすこぶる良くない。
体調が良くないと言っても、熱が出るとかそういう話ではない。なんとなく心のどこかに何かが引っかかって取れない。
喉の奥に魚の骨が刺さって取れない感覚に似ている。
勉強していても「心ここに在らず」というような感じで、無意識で別のことを考えてしまう。父親には、小さい頃から「地に足つけろ」と耳にタコができるくらいに言われてきた。
それなのに、23歳になった今も地に足はついていない。こっちの大学に進学していなければ、今頃タコの重みで耳はなかったはずだ。
まだ耳は付いている。京都に出てきて良かった。
先日、公開終了間際の『ラストマイル』に滑り込んだ。
なんとなく、「洋画の方が面白いだろ」という先入観があって、アニメ以外の邦画を観るために映画館に足を運ぶのは数年ぶりだ。
いや、10年を超えているかもしれない。
そんな僕が、『ラストマイル』を見に行こうと思った理由は2つ。
インターネットの人たちの意見は対極的だったので、自分の目で確かめてみたいと思ったこと。そんな映画に源ちゃんこと星野源さんが出ることだ。(敬意を持って源ちゃんと呼ばせてもらう)
地に足はついていなかったけれど日中は勉強していたので、レイトショーを選んだ。映画自体は20:00からだったのだけれど、19:00ごろに着いた。
時間もあったので、近くのちゃんぽん亭で夕食を取ることにした。心が落ち着かないので、とりあえず体を満たそう。
せっかくだし、今日は贅沢してやろう。
先払いの機械が置いてある。食券を先に買うシステムだ。
仕事帰りのサラリーマンや部活帰りの学生、仲の良さそうな家族で賑わう店内で、柚子ちゃんぽんの野菜大盛りのボタンを押す。
仲の良さそうな家族連れが座っている4人席の隣、2人席に通された。
しばらくすると、大盛りを頼んだはずなのに普通サイズの柚子ちゃんぽんが運ばれてきた。忙しそうな店内を見ると、申し訳なくて言い出せなかった。
既にお金も払っているし、絶対に言うべき。
でも、この人たちは仕事を頑張ってるんだろうし、ここで言ってしまえば持ってきた柚子ちゃんぽんが捨てられてしまうかもしれない。
「内緒にしてて」
普通サイズの柚子ちゃんぽんがこちらを見つめている。
まったくもう、我ながら人生損するヤツの性格だと敬服する。
あっという間に食事を終える隣の家族を横目に、柚子ちゃんぽんを食らう。ゆずの香りと野菜の味が口を満たす。実家にいる時、母親がよくちゃんぽんを作ってくれた。少し母を思い出した。
腹を満たし、映画館に通じるエレベーターに乗り込む。ドアが開いた先は言わずもがなTOHOシネマズだ。京都のTOHOシネマズは"京都っぽい"内装で、地元のように赤い装飾灯はない。少しだけリッチな館内を進む。
少し迷いながらも、映写室に入った。
2時間後、少し複雑な心境で映写室を出た。
現代に蔓延る社会のさまざまな部分に対して、「これってどうなの?」と聞きかけてくるような、そんな作品だった。
インターネットの批判的な意見はなんだったのだろう。
ネタバレ防止のために、これ以上は言うのを控えるけれど、個人的にはとても面白かったと言える。(面白かったなんて表現は稚拙でキライだけど。)
ほんと、行ってよかった。
久しぶりに、映画館に行って映画を見た。ミュージカルを見た時も思ったし、バレエを見た時も思ったけど、家のテレビで見るよりも大きな音で大画面で観る方が感動も喜びも全然違う。映画は当然、映画館で見るために作られているので、映画館で見ることは生の芸術に触れていることになる。
生の芸術がどれほど素晴らしいものかは、生の芸術に触れた人間しかわからない喜びだ。芸術なんて、正直嗜好品に似たところがあるから、必要のない人には全く必要ない。時間の無駄遣いにさえ見えるかもしれない。
サブスクサービスの台頭により、映画館で映画を観る人がどんどん減っているという。生の芸術に触れる機会は減少していく一方だ。
自分もそのうちの一人だったけれど、『ラストマイルのおかげで』映画館で見る映画がどれだけ素晴らしいものか再認識できた。
せめて月に一度は映画館に足を運ぼうと思う。生の芸術に触れた人たちだけが理解できる、「生の感覚」を研ぎ澄ますためにも。
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