障害福祉サービス事業における安全配慮義務違反による責任と虐待による責任の違い
今回は障害福祉サービス事業者が負う責任として「安全配慮義務違反による責任」と「虐待による責任」の違いについてご紹介します。
安全配慮義務違反による責任(障害福祉サービス事業者には2つの安全配慮義務がある)
安全配慮義務は労働契約を従業員と障害福祉サービス事業者が結んだ場合に障害福祉サービス事業者は労働を提供するだけでなく、従業員の安全を確保する配慮をする必要があります。
こちらは労働契約法の第5条に定められています。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
さらに障害福祉サービス事業者が遵守する運営基準の1つに利用者の安全の確保も含まれています。
障害者総合支援法第43条 第1〜3項
1 指定障害福祉サービス事業者は、当該指定に係るサービス事業所ごとに、都道府県の条例で定める基準に従い、当該指定障害福祉サービスに従事する従業者を有しなければならない。(人員基準)
2 指定障害福祉サービス事業者は、都道府県の条例で定める指定障害福祉サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従い、指定障害福祉サービスを提供しなければならない。(設備基準・運営基準)
3 都道府県が前二項の条例を定めるに当たっては、第一号から第三号までに掲げる事項については厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとし、第四号に掲げる事項については厚生労働省令で定める基準を標準として定めるものとし、その他の事項については厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。
一、二号 省略
三 指定障害福祉サービス事業の運営に関する事項であって、障害者又は障害児の保護者のサービスの適切な利用の確保、障害者等の適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持等に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの
つまり、障害福祉サービス事業者は従業員だけでなく、利用者に対しても安全配慮義務があることになります。
つまり、安全配慮義務違反による大怪我を負ってしまった場合には障害福祉サービス事業者は従業員に対しては労働契約、利用者に対しては障害福祉サービスの利用契約における債務不履行責任を負うことになります。
安全配慮義務違反は契約違反となりますので、障害福祉サービス事業者の負う責任は債務不履行責任です。
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虐待による責任
虐待については怪我をさせた職員(加害者)と怪我をした利用者(被害者)がいることが前提となります。
この加害者が被害者を「傷つけてやろう」という気持ちがあって怪我をさせた場合には不法行為となり、この場合は職員が利用者に損害賠償をすることになります。
しかし、労働契約を障害福祉サービス事業者と結んでいる場合であり、業務中の虐待であれば、障害福祉サービス事業者が使用者責任として職員の代わりに損害賠償をすることもあります。
障害者虐待防止法による措置については割愛しますが、本来虐待が発覚した場合にはこのように不法行為による責任を負うことになります。
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同じ怪我でも障害福祉サービス事業者が負う責任が違ってくる
安全配慮義務違反による怪我と虐待による怪我の責任の違いは安全配慮義務違反は怪我をさせた相手がいる必要はありませんが、虐待の場合は怪我をさせた職員が必ずいることが大きな違いです。
安全配慮義務違反は事業所の外に蜂の巣ができているのに駆除せずに利用者が蜂に刺されてしまった場合等に当てはまりますが、駆除しなかったことは「相手を傷つけよう」という意思がありますでしょうか?
利用者が蜂に刺された後に蜂の巣が見つかったという場合もあります。
虐待による責任よりも安全配慮義務違反による責任の方が対象が広くなります。
被害への備え
このように虐待による責任よりも安全配慮義務違反による責任の方が対象が広いため、被害に対する備えをしておく必要があります。
従業員が怪我をした場合であれば、労災保険の適用がされますが、利用者が怪我をした場合には就労継続支援A型を利用していない限り、労災保険の適用になることがありません。
では利用者が怪我をした場合にはどんな保険があるかいいますと、「損害保険」となります。
損害保険に関しては障害福祉サービス事業を立ち上げる際に加入する必要がありますので、保険の対象範囲についても確認をしておくことをお勧め致します。
立ち上げ時のままの保険範囲だと被害をカバーしきれない可能性もありますので、起こり得る可能性のある被害があるのであれば損害保険の対象の見直しを行っておくことも今後の運営の安心に繋がります。
検討してみて下さい。