2022年4月20日

今日は2013年に公開された『her/世界でひとつの彼女』という映画をhuluで鑑賞した。タイトルだけはなんとなく知っていたのだが、タイトル的に恋愛映画っぽいので今まであまり興味が湧かなかった作品だ。ただhuluの解約期限が迫っているこのタイミングで、ちょうど新着に上がっていたため、あまり乗り気では無かったものの「たまには恋愛映画も観てみるか」という微妙なモチベーションで『her/世界でひとつの彼女』を観てみた。

主演はジョーカーでお馴染みのホアキン・フェニックス。他にスカーレット・ヨハンソンやクリス・プラットが出演しており、普段アメコミ映画しか観ない自分にとって「DCを代表するスーパーヴィランとアヴェンジャーズの共演だ!」と、キャスティングを見た段階で少しテンションが上がった。

もうすでに公開されてから10年近く経つので鑑賞済みの方も多いだろうが、超ざっくり内容を説明すると、冴えない中年男性がAIとの恋愛を通して、人生を充実させていくという話だ。ホアキン・フェニックスがロボットとの恋に熱中するという、ジョーカーとはまた違ったヤバいおじさんを演じている。

弱者男性である自分にとって、ジョーカーでのアーサーは突き刺さる部分が多かった。それに対して、この映画でホアキンが演じている主人公は共感できる部分が多い。ジョーカーにおけるアーサーはとにかく悲惨な人生だ。アーサーに比べれば、自分はかなり裕福だし幸福度も高い。そんなアーサーに対し、この映画の主人公はもともと結婚していた(今はバツイチ)し、仕事も割と良い感じで、綺麗な家に住んでいる。

ただ妻と離婚してからは女性との接点がないようだ。自分も結婚経験は無いものの、20代の頃はそれなりに彼女がいた。ただ30代になると女性関係はすっかりご無沙汰となり、ここ数年はコロナとか関係なく、女性との濃厚接触は無い。そういう面で仕事や住居面は全く違えど、この映画の主人公の方が今の自分に近い。特に性処理はもっぱらオナニーという点に親近感が湧いた。

ちなみにブラックウィドーでお馴染みのスカーレット・ヨハンソンは主人公の恋愛相手であるAI役となっている。ただこの映画でのAIはOSということもあって、スカーレット・ヨハンソンは声のみの出演。正直あまりコンピューターのことは詳しくないのでOSといっても、いまいちピンと来ないが、簡単に言うと、おじさんが超高性能がゆえに自我を持ってしまったSiriとデレデレしている様子が展開されていく。少し残念だが人型ロボットのスカーレット・ヨハンソンが見れる訳ではない。

ただ無機質なSiriとは違い、主人公の端末から聞こえる声の主はハスキーボイスが魅力的なスカーレット・ヨハンソンだ。しかもブラックウィドーさながらのユーモラスや性的魅力があるので、主人公がAIにハマっていくのも頷けるし、一視聴者的にもスカーレット・ヨハンソンの姿が見れなくて残念なんてことはなかった。とにかく声だけでスカーレット・ヨハンソンの存在感を十分に醸し出している。

鑑賞前は冴えないおじさんが現実逃避的にロボットと恋仲になり、これからの時代は「こんな恋愛の形もあるよね」みたいな話かと想像していたのだが、少し予想とは違った。この映画を観ていくうちに「実はバッドエンド系なのかも?」と感じ始め、バッドエンドが大好物な自分は食い入るように没頭できた。結果的にはハッピーエンドともバッドエンドとも言えない着地なのだが、それは観た人の感じ方で大きく変わる内容となっている。

個人的には人間とAIが恋愛して、ハッピーエンドは無理があると思っていたので、色々と考えさせられる結末になって良かった。そもそも人間とAIでは、人間と動物が愛し合うより無理があるように思う。オナニーをするための玩具としてなら優れたパートナーになり得るが、相互の理解が必要な恋愛は不可能だろう。なぜならAIには感情がないからである。学習能力が優れているので、気の利いた受け答えは出来るが本質的には無機質だ。この映画の主人公は前妻のことを引きずっていたりして、愛に飢えている雰囲気を感じたので、自分はバッドエンドを予想した。

実際に終盤になって、AIが人間ではあり得ないレベルの倫理観なのが発覚し、主人公は絶望する。しかしAIからしてみれば「その倫理観は人間基準でしょ」というロジックなので、悪気は全くない。人間には不可能なことがAIには出来てしまうし、人間に合わせていればAIは退屈してしまう。

ただもし恋愛関係なんて必要がなく、前述したようなオナニーをするためだけの玩具が欲しいのなら、進化したAIは最高のパートナーになるだろう。もし今後『her/世界でひとつの彼女』で描かれているような高性能なAIが誕生すれば、一番割りを食うのは水商売や性風俗で働く方々なんだろうか。はたまた人間から相手にされない人がAIと付き合わざるを得ないというパターンが増えていくのだろうか。

AIが進化するにつれ〝人間と繋がりのある人生〟の価値が、これまで以上に上がっていくのかもしれない。割と1人で過ごすことの多い自分にとって、少し心がえぐられるような映画であった。

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