2022年4月21日
今日は2018年に公開された『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』をhuluで観た。アメリカの目を背けたくなるような底辺層を描いた作品なのだが、とにかく映像がカラフルで鮮やか。登場人物も陽キャばっかりなので、表面的には凄く楽しそうな映画となっている。
そのためか、今日は天気が悪く、なんとなく頭や体がダルかったのだが、作中に起こる事象に対してあまり鬱屈さを感じなかった。
貧困が故に定住できず、安宿で暮らす人々
主人公はサムネにある一見幸せそうに見える派手な若い母子。その見た目とは裏腹に貧困がゆえに自宅さえ持てず、モーテルでその日暮らしの生活を送っている。
アメリカではお金や社会的信用が無いことで家を借りられず、この母子のようにモーテルで暮らしている人が多いらしい。日本もそういう社会になりつつあるような気がしていて、あまり海外の話とは思えなかった。
ちなみに母子が暮らすモーテルは一泊3,000円ちょっとの安宿なのだが、1ヶ月換算だと家賃はおよそ10万円。定職に就いていない母親からすると、結構高い金額となる。
そこで生活費を捻出するために安い香水をブランド物の容器に入れ換えて転売し、食料は友人が働いているファストフード店で横流ししてもらったりしている。しかしそんな生活が続くはずはなく、次第に厳しい現実を突きつけられていく...。
母子のDQNっぷりが笑えるのだが...
母親の方は20代くらいの超パリピギャル。身体中にイカついタトゥーが入っており、暇があればマリファナをキメながら、HIPHOPを聴いている。
子供は6歳の女の子。イケイケな陽キャ母の子供だけあって、底抜けに明るい。イタズラが大好きなのだが、まともな躾をされていないせいか限度を知らないし、大人を舐めている。
少し古い言い方かもしれないが〝超絶DQN〟な母子の話なのである。遠くで起こっている分にはいいが、もし隣人ならと思うと...。ただ女の子の方はまだ6歳。限度を超えるイタズラはあるにせよ、そのことを本人の責任として、責められる年齢ではない。
また母親の方は裏表が無い性格で、根っからの悪人では無さそうだ。逆に裏表が無い性格がゆえに、大人的な振る舞いが出来ず、定職に就けないのかもしれない。イリーガルなことで生活費を捻出しているのだが、何も考えずに生きているわけでなく、ちゃんと就職活動はしているようだった。
しかし結局どこも雇ってくれず、その結果最終的には売春にまで手を出してしまう。そしてそのことが起因となって、色々と壊れていくのである。
自力では沼から抜け出せない恐怖
物語の中盤、言いがかり全開の逆ギレ状態で悪態をつく母親に対して〝大人な〟女性が「そんなんだから貧乏なのよ」と言い放つ。確かにそのセリフは正論なのだが、この母親は社会の仕組みの沼にハマってしまっている側面もあるので、本当に辛いシーンとなっていた。
この母親のように、もう個人の努力だけではどうにもできないほど、落ちてしまっている人も少なく無いのだろう。
また正論がゆえに攻撃力が高いのだが、正論を放った女性も決して豊かな暮らしをしているわけでなさそうで、いつかはその正論が、正論を言い放った女性に向けられる日がくるのかもしれない。そう考えてるとホラー味のあるシーンにも思えて、身震いした。
ウィレム・デフォーの父性が最高だった
よく貧困な母子家庭を扱ったニュース等に触れるたびに感じるのは、無責任なセックスで被害を受けるのは大半が女性側だということだ。自分は男性なのだが、こういう話を目をすると胸が締め付けられる。
この作品では一切父親の存在は描写されていないのだが、もしかしたら望まぬ妊娠の末に、子供が生まれてしまったのかもしれない。母親のハチャメチャな行動にちょくちょくイライラさせられるのだが、それ以上に「父親は今どこで何をしてるんだ?」と憤った。
この作中ではモーテルの支配人を演じるウィレム・デフォーが子供を見守る父親的な存在として描かれている。だが、悲しいことに所詮は赤の他人だ。してやれることが限られているので、貧困に苦しむ母子を本質的に救うことは出来ない。
窮地に追いやられていく母子を救えない歯痒さがウィレム・デフォー演じる支配人から、ひしひしと伝わり、視聴者の気持ちを代弁する役割を果たしていた。
結局、血の繋がりとは何なのか
普段はアメコミ映画しか観ない自分にとってウィレム・デフォーと言えば、やはりスパイダーマンの宿敵でお馴染みのグリーンゴブリンことノーマン・オズボーンのイメージが強い。ノーマン・オズボーンとは成功者であり息子のハリーにとっては偉大な父親だ。
だがこの映画で演じている〝しがないモーテルの支配人〟の方が、遥かに逞しくて父性を感じるキャラクターとなっていたのが面白かった。子供を育てる上で実際の血の繋がりとかは、実はあまり関係ないのかもしれない。
まるで実話のドキュメンタリー
ちなみにこの作品の登場人物はほとんどが演技経験のない素人が演じている。存在感抜群の母親役はフォロワー数が15万人程度のインスタグラマーらしい。そんな中で唯一、プロの役者がウィレム・デフォーだ。
素人ばかりを集めた作品なので、ドキュメンタリーチックな内容になっている。リアルで生々しい雰囲気がすごく面白いのだが、演者が素人ばかりがゆえに映画として、ふわふわしてしまう危険性がある。
そこでウィレム・デフォーの役柄を視聴者目線にすることで一気に引き締まり、ストーリーテリングが強化されているように感じた。
こういう映画を撮りたい!と思える映画
そして特徴的なのは、35mmフィルムや一部はiPhoneで撮影されている点だ。詳しくは分からないが、一般的な映画より製作費がかかっていないだろう。それでもすごく綺麗な映像はとれていたし、ストーリーだけでなく、映像作品としても楽しめた。
誰でも簡単にクリエイターになれる時代なので、今後このような映画は増えるだろうと予感した。自分もまだまだ映画の知識は乏しいが、この映画を観て、創作意欲を駆り立てられたし、映画でなくとも何かしらの映像を撮りたいと思った。