【放課後日本語クラスから⑫】「キミはもっとできるよ!」と伝えたい
こんにちは。
公立高校の放課後日本語クラスで日本語指導員をしている、くすのきと申します。
年が明けて2週めから、日本語指導クラスがスタートしました。
3週間ぶりのクラス。新学期が始まったばかりの生徒たちは、まだまだエンジンがかかっていないと思われましたが、私はやる気満々で初日を迎えました。
高校の3学期はとても短いです。
3年生の卒業式。4月に迎える1年生の入学試験。在校生の最後の定期試験。
ただでさえ学校行事が多く休みの日もあるなか、今年はオミクロン株急拡大のもとでの学級運営も求められています。
正規授業の実施も厳しいのですから、正規授業に含まれない放課後クラスはなおのこと。しかしだからこそ、ここにきてジタバタしても仕方ありません。
限られた時間でもできるだけのことをやり、生徒たちを2年生に送り出そう。そう腹をくくって、私は初日のクラスに臨みました。
またやってみた、マンダラート
昨秋10月に本格的にスタートした今年度の放課後日本語クラス。その最初の授業で、私は生徒たちに「中学校では」「高校では」と書いた2枚のマンダラートをやってもらいました。
そのときの授業の様子については、以下の記事をご参照ください。
このとき私は、生徒が「高校では~をしたいです」と書いた用紙にフィードバックを書いて返却し、そのコピーを自分の手元に残していました。そして、学年末の3月には、「2年生では~をしたいです」というマンダラートに取り組んでもらおうと考えていました。
10月の「高校では」と比べて自分の気持ちがどのように変化したか、あるいはしていないのか。たった半年ではありますが、その間に体験したことを思い返し、自分の変化や成長を感じてほしいと考えたからです。
さて、今回の取り組みでは、まとめとなる3月に向けてもう一段階小さなステップを設け、生徒が自分の思いや気持ちを記憶にとどめる仕掛けを作りたいと考えました。
用意した教材の内容は以下の通りです。
「みんな、覚えてますか? 2学期が始まったときに書いてもらったんだけど」。授業ではそう言いながら、まずは「高校では」のコピーを一人ひとりに戻しました。
すると、一瞬怪訝そうだった顔が「あ~」と思い出す表情になり、私がとくに何かを説明する必要もなくすぐに「3学期は」のプリントに向き合ってくれたのは、3学期初日の授業としては上々の始まり方ではなかったかと思います。
作りたいのは、生徒の思いを生かした授業
隣の席の友だちと母語で雑談しながら書き込んでいく生徒たち。一人ひとりと軽く話しながら手元を覗きこんでみると、そこには2学期の初めとは少し異なる言葉が書かれていることに気が付きました。そしてその内容は、意外にも全員が似通っていたのです。
したいことのベスト3は、順番に、
③には少し胸を衝かれました。よくわからない日本語環境で生活し教科学習を続ける生徒たちの疲れは、こちらの想像以上なのでしょう。
②は私へのリップサービスというよりも、照れ隠しなしの本音のように感じられました。生徒たちは、自分の日本語力をもっと伸ばさなければならないことを、充分知っているのです。
①は、10月ごろには漠然とした希望だったのが、今回ははっきりとした目標になっているのが感じられました。そしてこのとき、このアルバイトについて、私には日本語の勉強と結びつけてピンとくるものがあったのです。
アルバイトは勉強を妨げるものとして、学校ではあまり歓迎されるものとは言えません。
一方で、海外ルーツの高校生の家庭環境はさまざまです。学校にスマホだけでなくiPadも持ってくる生徒もいれば、親からアルバイトをするように強く求められる生徒もいます。そのような場合、学校の先生も私たち指導員も、「せめて放課後クラスがある日にはアルバイトは入れないでね」と言うのがやっとのことです。
しかし、このときマンダラートを見てひらめいたのは、生徒が望むことを止めるのではなく、実現できるように授業に利用してしまえばいいではないか! ということでした。
JSL高校生に本当に必要な授業とは
私が考えた授業プランは以下の通りです。
つまり、生徒がもとから意欲をもっているアルバイトを利用し、日本語での会話の仕方を学び、あわせて漢字学習も行ってみようという試みです。
ちょっと話は逸れますが、机の間を回りながら、女子生徒Aさんに「どんなアルバイトがしたいですか?」と尋ねると、
S:「セブヌェレブとか」
T:「……? ああ、セブン・イレブンですね! どうして?」
S:「いらっしゃいませ、ありがとうございました、あと、レジ袋いりますか、とか言ってみたい」
そんな会話もあり、生徒たちが日本語で日本人とコミュニケーションしたいと考える気持ちは、思いのほか強いことを感じさせられました。
じつは、生徒たちが日本語で会話をする機会はとても限られているのが現実です。学校は教員と生徒たちの集団生活のために、一見、コミュニケーションが満ち溢れているように感じられるかもしれません。
しかし、教室は教員からの一方向的な情報提供の場であり、必要があっても質問に答えるだけでよく、生徒が自分から教員(おとな)に話しかける場面は多いとは言えません。
また、私が関わっている高校のように海外ルーツの生徒が数多く在籍する高校では、休み時間や昼食時、部活などではどうしても母語話者同士で固まり、日本語の会話力を伸ばす機会は予想外に少ないのです。
だからこそ、教科学習の日本語とともに、海外ルーツの高校生の日本語でのコミュニケーション力を伸ばすことへの視点は、もっと重視されてもいいのではないかと感じられます。
もし、生徒の「アルバイトがしたい!」という主体的な希望を受け入れ、そのための力になり、さらにその取り組みが日本語力を伸ばすことにつなげられたら。その授業を経験することで、もっと日本語を学ぶことに前向きになってくれたら。
考えるだけでわくわくすることではないでしょうか!
……
後日譚となりますが、このように始まった1週間後、オミクロン株の急拡大を受けて重点措置の対象校となった高校はオンライン授業に移行し、放課後クラスはその間、開かれないことになりました。上述の授業プランも、文字通りプランのままとなっています。
残念でなりませんし、1年生の生徒たちに残された日々を考えると、とても切なく心もとない気持ちになります。
再開したときには、これまで以上に生徒が本当に求めていることに耳を澄ませ、限られた時間を大切にしていきたいと思います。そして、生徒との日々をできる限り記録に留めておこうと思います。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。