MarkeZine Day 2019 Spring「スポーツ×デジタルの未来」に行ってきました。【JリーグとB.LEAGUEのデジタルマーケティング】
はじめに
まちるだ( @ysmf0m4c )と申します。趣味はサッカー観戦で、横浜 F・マリノスのサポーターです。B.LEAGUEもDAZNで横浜ビー・コルセアーズの試合を中心に観ています。
Jリーグ、B.LEAGUEの各リーグがそれぞれどのようなデジタル施策を行っているのか個人的に興味があったため、1割仕事・9割個人の興味本位で行ってきました。
初めてのnoteなので分かりづらい点等あるかと思いますがご了承ください。
イベント概要
・イベント名:MarkeZine Day 2019 Spring トークセッション「スポーツ×デジタルの未来」
・開催日時:2019/03/08(金)17:50 ~ 18:35
・開催場所:御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター
・スピーカー:
平地 大樹氏 [プラスクラス](モデレーター)
笹田 賢吾氏 [Jリーグデジタル]
葦原 一正氏 [ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)]
https://event.shoeisha.jp/mzday/20190307/session/2042/
Jリーグのデジタル戦略の遷移
●2016年〜:デジタル戦略を本格着手。
・J1、J2の全クラブにヒアリングし、各クラブが抱える課題を把握したところ「顧客データの管理」に課題を感じたとのこと。
・2016年顧客データの整備のためにデータを統合するための共通データベースを開発スタート。
・2017年ガンバ大阪と川崎フロンターレにパイロットクラブになってもらい、要件定義の段階からクラブの意見を聞きながら進め、プロトタイプを作った。
・2017年秋に全クラブが共通データベースが使えるようになる。
●2017年〜:チケット、ECと各サービスごとに存在したIDを全てJリーグIDに統一化
共通のIDサービス化したことが起点となり、お客様の利便性をまず第一にし、そのIDを使えるサービスを徐々に増やしていった。
具体例:公式スマホアプリ(=Club J.Leagueアプリ)、EC、スタジアムWi-FiをすべてJリーグIDで使えるようにした。
※EC:electronic commerceの略。電子商取引。要するにネットでの物販
Jリーグの共通プラットフォーム
・各クラブのデータをJリーグが取りまとめて一元管理。
・JリーグIDはOpen IDになっているので、Jリーグのパートナーであるドコモ、楽天、ヤフーのそれぞれのOpen IDと連携することで、たとえばJリーグチケットでチケットを購入するとドコモのdポイントが貯まるようにしたり、ヤフーのTポイント、楽天の楽天ポイントがたまるように。
これにより、ドコモや楽天、ヤフーなどのパートナーがJリーグに送客すると、各パートナー自身のプラットフォームのエコシステムにもつながるようになった。
つまり、お客様は一つのIDで済むし、パートナーはJリーグに送客することで自分たちにも返ってくるような仕組みとなった。
共通データベースに蓄積したデータ内にある、お客様が設定した「お気に入りクラブ」の設定を元に各クラブがお客様にアプローチすることが可能に。
■各クラブがそれぞれで持っていたIDをJリーグIDに1本化できたのはなぜか?(平地氏)
→チケットに関しては各クラブが共通してJリーグチケットを使ってくれていた(JリーグチケットIDを使用)。このJリーグチケットIDをJリーグIDにしただけだと何も変わらず得られるデータはチケットの購入データだけになる。
それをJリーグIDに統合するタイミングで計画的に、たとえばECでいうと各クラブがバラバラのカートサービスを持っていたのを、楽天とパートナーシップを締結したことによりフルフィルメントサービスを各クラブに提供。
※フルフィルメントサービス=フルフィルメントとは、通販・ECで商品が注文されてから、お客様のお手元に届くまでに必要な業務全体のこと
アプリについても明治安田生命や電通とともにアプリを開くためにJリーグIDを使えるようにしたり、Wi-FiについてはNTTやDAZNと連携して高速スタジアムWi-Fiを整備した。
これを一気に進めることでお客様、Jリーグ、各クラブ3方にとって大きなメリットに。
■各クラブにはご年配のスタッフの方もいるので理解してもらえないこともあるだろうに一気に推進できたのはなぜか?(葦原氏)
→クラブとJリーグで上下の関係は無く、横のつながりを大事にしながら強制ではなく任意であることを前提に進めた。
あと、各案件ごとにパイロットクラブを作り、そのパイロットクラブが成功したらリーグからではなく、クラブから「これは使ったほうがいいよ」と横のつながりで勧めてもらった。
例:Jリーグオンラインストア
川崎フロンターレがパイロットクラブとなり、すべてのECをJリーグオンラインストアに寄せてくれた。
運がよくその年に川崎フロンターレが優勝し、今までの仕組みだとサーバがダウンするほどのアクセスが来ていたはずなのに、Jリーグオンラインストアに寄せたことでダウンしなかった。
これにより他クラブにフルフィルメントサービスの良さなどを含めて伝わっていった。
各クラブの横のつながりが結構あるので一気に横展開していく。
各クラブ同士はホームタウン制度があるためビジネス上ではそれぞれのクラブは敵ではない。よって、ノウハウが蓄積されて横に広がっていく。
Jリーグが定義するファン層の定義とターゲット設定
・ライトファン層まではリーグが主体となってマーケティング施策を行う
・1年に3回以上来場するファン層以上はクラブが主体となってマーケティング施策を行う
・各それぞれのファン層を上げていくこと、JリーグIDを2020年までに200万IDにすることを目指してファンの獲得とその育成をしていくことを心がけてやっている。
■なぜ、3回という来場数をしきい値にしているのか?その根拠は?(平地氏)
→各クラブのマーケティング施策でファンクラブという制度とシーズンシートという制度がある。
3回以上行く人はファンクラブに入ったほうがお得。
それ以上行く人はシーズンシートを買ったほうがお得。
3回をしきい値にすることで各クラブが元々やっているマーケティング活動にハマるため。
Jリーグのデータによると3回以上行くといわゆる「常連」になる。
常連化曲線が3回以上行くと60%を超えるような形になる。まず3回スタジアムに行ってもらうことを狙う。
クラブのデータ利活用推進
・毎月デジタルマーケティング研修を実施
・外部の人が来ていきなり「デジタル」と言っても現場の人に受け入れてもらえないため、Jリーグで10年以上働いているような現場をわかっている人を間に挟んでセットで講座を組んでいる
・各クラブ、マーケティングをやっている人はひとり、もしくは0.5人という状況で孤独。横のクラブの人もこんなに忙しいのに頑張っているんだとわかるようなものを持っていって行う。
デジタルプラットフォームの活用事例
・(事例1)クラブがハーフタイムキャンペーンをアプリ上で実施
・(事例2)パートナーであるドコモがJリーグチケットでチケットを買うときにdポイントが10倍つくキャンペーンの実施
などを行っている。
リーグが各クラブの間に、パートナーとの間に入り、毎月の集合研修で横展開していくことも行っている。
今後の展開
DMP・MAを活用して、よりきめ細かなマーケティングをすることで顧客体験の向上を狙っていく。
※DMP:Data Management Platformの略。詳しくはこちら
https://www.innovation.co.jp/urumo/dmp/
※MA:Marketing Automation略。詳しくはこちら。
https://jp.marketo.com/content/ma.html
B.LEAGUEの場合
・リーグが立ち上がって2年。3年目のシーズン。
・コート上でもワールドカップに出たり、オリンピックの話も出始めている状況
・ビジネス上でも入場者数が1.5倍、売上も3倍に増えている
・リーグ開始当初の想定通りに近い推移をしている
ターゲットセグメント
・どんな人をターゲットにするかを最も意識した
・観戦意向者層(「見てみたい」という層)がリーグ立ち上げ当初は700万人いた。実際に来場している人数はユニークで当時は50万人と10%程度しか来ていない
・ファンという人と、実際に来る人では大きな乖離がある。
・ファンを増やすのではなく、来場者を増やすことに大事にした
・全国民を狙うのではなく、観戦意向者層の700万人が誰かということを意識し、来場者になる比率(コンバージョン率)を上げていくことが第1フェーズ
B.LEAGUEの事業方針
・4大収入:チケット、放送、スポンサー、グッズで90%を占める
・スポーツ団体はデータを持っていないところもある
個人情報をリーグで統合し、バスケ界の統合DMPを構築
・スポーツ業界まだまだ顧客データを貯めていないところが多々ある。
・たとえば野球のセ・リーグはバラバラに持ち、パ・リーグはクラブ内でチケットデータやECのデータなどを連携している
・現在B.LEAGUEはリーグ内の連携が終わり、将来的には観る人とプレーする人のデータを連携していくことを目指す
■B.LEAGUEはリーグ全体でサイトを統合していて、リーグの管轄の中で各チームがコンテンツをあげている。それができたのはなぜか?(平地氏)
→国際バスケットボール連盟から制裁を食らいそうになったため、一気に変える必要があったから。
※各チームの公式サイトはほぼ統一されたデザインになっています。
■リーグで統一することで、データが蓄積されやすくなると思うが、各チームへのリーグ側からのフィードバックは行っているのか?(平地氏)
→現在はデータを貯めるのと、リーグの運営で精一杯でまだそこまでできてはいない。
B.LEAGUEの今後の展開
・まだ取り切れていないデータがあるので、そのへんの連携を進める
・セカンダリーマーケットも大事だと思っているが、まだ何も決まっていない。
※セカンダリーマーケット:2次販売のこと。チケットを持っている人から他の人へ販売すること
・リアルタイムでクラブと情報や共通の理念だったりKPIを共有できるようにしていきたい
・B.LEAGUE的には1回あたりの購買枚数を大事なKPIと思っている
→ライトファン層の来る本質は「誘い、誘われ」だと思っているから。
スポーツの場合、ゼロから1回来る人は10人中のほぼ全員が親に誘われたや会社の人に誘われたと回答した調査がある。
■Jリーグの方は?(平地氏)
→Jリーグも「誘い、誘われ」がデータとして明らかになっている。7割ぐらいが「家族、同僚、友達から誘われた」という人が多いため、アプリの方で今そのような企画を設けて実施すると、着券率(=誘われたチケットで来場した率)を調べると90%とか80%と、ほとんどの人が来る。
普通の招待券だと50%の来場率になるが、誰かに誘われるとかなりの高い確率で来場してくれるようになる。
その他
・スポーツはビジョンが明確なのと、ファンとのエンゲージメントが高い。
具体例:Jリーグの場合メールの開封率が40%〜50%ある。何かを発信したときの反応が非常に高い。
→スポーツ業界はおいしい市場、伸びしろのある市場である。
・トークセッション終了後質問をしたところ、
Jリーグにおいて「誘い、誘われ」で来場した人がファン、シーズンチケットに転化する割合についてはまだわからないそうです。これからそのへんも把握していく予定だとか。
ということで、Jリーグ、B.LEAGUEともにまだまだ可能性があり、伸びしろいっぱいの成長市場だと思いました。どちらのスポーツもこれからますます発展していくことをファンとしては願うばかりです。