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【短編小説】付き合っていく
832文字/目安1分
初めて気がついたのは三日前くらい。
家の庭の片隅に、だけどリビングの掃き出し窓から見える場所で、そいつはずーっと跳ねている。
ダルマみたいな顔をした赤いまんまるに、バネのようなものがついている。わたしは平均的な身長だけど、その腰あたり。ずっと跳ねているから、正確な高さは測れないけど、けっこう大きい。三十センチくらいのところをびょんびょんしている。
いつからそこにいるのだろう。
時々目につく以外は何も害がない。音も立てないから夜も問題ない。
都市伝説の類かと調べてみても見つけられない。詳しい人、詳しい人。どこにもいない。警察? 消防? 祈祷師? 誰に頼ったらいいかわからない。
家に人が来るたびに聞かれるけど、「あぁ、なんかそれずっと跳ねてるんだよね」としか言いようがない。説明を求められても、答えようがない。わたし自身、それが何者かわかっていない。何物が正しいのかもしれない。
触ろうが、押そうが、下に石を置こうが、かまわずその場で跳ね続けている。
そう、触れる。正体が何かはまるでわからないけれど、実在しているのだ。これがさらにわたしの頭を悩ませる……わけでもない。だって生活していても特に迷惑がかかっていないから。
たまに気になって見ちゃう以外は、ただただ黙ってずーっと跳ねているだけ。
雨が降ろうが、雷が鳴ろうが、ひらひらと葉が落ちようが、しんしんと雪が降ろうが、満開に桜が咲こうが、ぎらぎらと日が照りつけようが、嬉しい日も、悲しい日も、いいことがあった日も、誰かの温もりに包まれたい日も、そいつはずーっと跳ねている。
少しずつ愛着が湧いてきて名前をつけようかとも思ったけど、なんとなくそれはやめておいた。
今日もバネが生えたダルマは跳ねている。リビングの窓から見える位置で。コーヒーを淹れてこの先の生き方を考えながら、そいつを眺める。
仮にわたしが引っ越すとして、この家が建て壊されるとして、どうなるんだろう。
それを考えるのは、野暮だなと思った。