【短編小説】Good night sweetie.

1,053文字/目安2分


 先に寝息を立てた妻の横で、なんとなく眠れずにいる。起こさないように気をつけながら、俺は仰向けからうつ伏せに体の向きを変えた。

 隣を見る。今日のこと一つ一つを飲み込むような深い呼吸で寝ている妻は、口を半分開けている。

 同じ家に帰り、同じテーブルで食事をして、同じ布団に入って眠る。生活を共にしているとは言っても、日中はお互い仕事がある。家にいなければ違う時間が流れる。違う人間関係があって、違う環境にそれぞれが置かれる。

 生まれてから今を生きるまで、そしてこれからを過ごしていく時の中で、たまたま俺たちは出会って一緒になった。
 お互いそれぞれ人生があって、それぞれどこかで疲れてくる。

 俺はお前を幸せにしてやれているだろうか。
 お前は俺といることで、幸せを感じているだろうか。

 妻はもぞもぞと寝返りを打つ。体が触れる。そこから体温が伝わってくる。

 妻と過ごす毎日は楽しい。天ぷらをするのに衣がうまくつかないまま素揚げみたいになって笑ったり。お互い休みの日に何をするでもなく家でだらだらしたり。たまに外に出かけても、体力がなくてすぐに疲れて帰ったり。
 言葉にしたら一つも面白くないようなことも、二人でいればそれで充分だった。これが幸せなんだろうと、そう思った。

 この毎日をずっと繰り返していたい。
 お前はどう感じているんだろう。

 同じ体勢でいると腕が痺れてくる。俺はそっと仰向けになった。そうすると妻も動き始めて、今度は背を向けた。

 妻はよく笑う。冗談を言えばすぐに笑う。冗談じゃなくても、もはや何にでも笑う。その笑った顔に何度救われたことか。でも、笑顔の裏の小さな背中に何かの本音があるのなら、その瞳が曇る前に聞きたい。お前が俺に気づかれないようにため息をついているのは知っているよ。
 俺はお前が何か一人で抱え込んでいるのは嫌なんだ。一緒に抱えれば重さは半分。二人で分け合って生きたいんだよ。

 あぁ、だとしたら矛盾している。

 幸せにしてやろうだなんて思うのは俺一人の気持ちだ。俺は幸せもちゃんと分け合いたい。
 それならまず、俺から話すんだ。
 明日話そう。
 裏側まで見せて、そして待とう。お前が毛布で包んでしまったものを開けるまで。ゆっくりでもいい、起きてくるまで。毎日同じ布団で寝ている限りずっと。俺は待っているよ。

 俺はお前と一緒に、もっと幸せになりたい。
 セミダブルのベッドで、そんなことを考えた。

 寝返りでまたこっちを向いた妻の頬を指で撫でた。妻は起きることなく、変わらずスースーと寝息を立てている。



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