子ヤギの放牧についての諸々(野球少年観察記)
子どもは内的な力によって成長する
今日もまた面白いなぁと思って見ているのです。
肘に負担がかからないキレのある投げ方についての動画を見ながら…
私が幼い頃、四泳法を覚えたその次に身につけたことを
自由形で手を入水時に返す…ことについて思い出していました。
つまり、人間の肩の可動域を最大限に無理なく使うって話なのです。
50メートル自由形「40秒」を切るために私が長男と同じ年頃に身につけたこと。
自由形で50メートル40秒
それは初心者から中級者へのハードルなのです。
が…
ただ力いっぱい泳ぐだけでは越えられなかった。
その時に覚えたコツ…身体の前でぐっと水を掴むその手を、入水前に「返す」(ので着水は人差し指側からになる)ということを覚えたのです。
初心者の頃からずっと、おそらく教えられてはいたけれど、実際意識してできるようにしたのはそこ…だったのです。
そうでないと、私の身体は50メートル40秒をきれなかった。
手を返す事で手の使える長さが変わるのです。
おそらく手のひら一つ分、もしかしたら、もう少し沢山。だから身体の前から掴める水が変わるのです。肩から手を動かすのではなくて、肩甲骨から動くから。
同じ事が、どうも投球にも言えるらしい。
いわゆるダルビッシュさんの投げ方に象徴的なそれのことだけれど。
瞬発的で力の向きも違うけれど。そもそも、陸上と水中の違いもあるけれど…。同じ構造の肩と肘とそれにつながる身体で行う事っていう、共通点があって…水の中ならただできないだけのことが、陸上だと抵抗のなさや瞬発的な動き故に肩肘の故障につながることだから。
もし、可能なら母は彼に身につけて欲しいのだけれど…と思いながら…息子の豪快な肘投げを見ては、ため息が出る。
いや…それは…それで美しいな。
ようわからんけれども。
(いつか肘いわすぞ…。と父親が心配している)
私は、私の競技で中級者になるために「手を返す」事を覚えたけれど、手を返さずとも中級者にはなれるのだろうか?
彼の競技では?
母としては、若くして身体を壊してしまうことも心配してしまう。
水の抵抗もないし、瞬発力だし、男の子の筋肉の付き方は、女である私より割り増しだし、まだまだ使い切れていないけれど全身使っているし、まっすぐな球が飛ぶ。
パワーで押し通ることができるのかしら?
それにしても、大きくなって。
春だかに、あなたの手足、自分の思ってる10センチは長いぞ。ってもう一歩大きく踏み出せるし手も大きく使えるはずだって言わなきゃいけなかったのに。
今は…本当に軟式ボールなのかと訝しむような、重い球を投げて寄越すのです。
夕食後の公園。
落ち葉の絨毯を蹴って足場を作った長男が
投球動作に入る。
手元を離れたスピードとほぼ同じように見える…そのままでボールはミットまで届くのです。
ボールが噛みついてくる。って…これか…。
左手の小指がビリビリするのを振りながら思います。
夜の公園の外灯は明るいとはいえ光は弱い。
薄暗がりの中から、空気を切り裂くような音を立てる重いボールが飛んでくる。
少年野球用の軟式ボールのはずだけれど、まともに身体に当たったら涙くらいは出そうな。
母親を信じて、空中に身を投げるように飛んできた、幼い頃その頃のままなのか…
ちょっと試してやろうという魂胆か…
まだ己を飼い慣らせず力のコントロールができないのか…
奥歯をかんできゅっと集中しなければ、さあ、来いだなんて言えない…言うよ…さあ来いって。
何時だってずっとそうしてきたんだから。
男の子が母親を越えていくとき…今がそれなんだろうと思います。
当の本人はなんだか楽しげに見えます。
覚悟だけしかない母の比べてみれば華奢な手を、比べてみれば小さな足を一つ一つ確認しながら、越えていく。
越えられていく。
男の身体を持ち、その恵みを見るにつけ、寿ぎつつも母としては悔しくもある。
私が長男くらいの頃に、今のあなたほどの練習がこなせたかと言うと無理で、今の結果に追いつけたかというと無理なのです。
長くなった手足を優雅に振っているように見える。そこから飛んでくる白球は重たい。
薄暗闇の中から風を切り裂く重たい白球が来る。
ミットを構えていてもボールの正面に入るのは怖い。
やるけど。
私の顔に浮かぶ緊張の色を見て息子がなんだか楽しそうにしている。
球速はそんなにないと思うよ…80キロとかじゃない?
いつの間にか同じ視線の高さから、息子がにやりと笑いながら声をかけてくる。
指がビリビリするのよ。
痛い?
心配そうにのぞき込む。
取る時に数センチ衝撃吸収するんだよ?こうやって。
ごめん。飛んでくる球を追うだけで精一杯だわ。
ああいう球の、なおすごいのを最初に見かけて衝撃を受けたのが大学時代の浅尾君で、しかも見かける度に益々凄みが増したのよね。
面白いから、練習を眺めに通り道を変えるぐらいのことはしたよ。
長男はそれを指して「ママは浅尾さんの邪魔してた」って言って楽しんでいる。
通路でキャッチボールしてたのはあっちだよと母に言い訳させるのが楽しいらしい。
グラウンドはあったけど投球練習できる場所はなくて、通路でするしかなかったんだもの。
いつからだって、どこからだって人は
内的な力によって成長する。
それを、あの学苑で学びながら、あの練習を見ていた事を
長男の姿を見ながら思い出しています。
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