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1日1作字|引き出し不足に悩むデザイナーの表現力を広げる練習方法
はじめに
デザインをしていると、時々「自分の引き出しの少なさ」に悩む瞬間があります。新しいアイデアが必要な場面でも、頭に浮かぶのは過去の延長線上のものばかり…。
そんな中で出会ったのが、「作字」という練習方法。シンプルな文字をテーマに、色や形、構図を自由にデザインするこの取り組みが、自分の表現力を高める方法として最適ではないかと思い立ちました。
このnoteでは、作字練習の具体的な方法や、そこから得られた成果などについてお話します。
💡 こんな人に読んでほしい
- デザイナーとして新しい引き出しを増やしたい人
- アイデアを形にする力を高めたい人
- 毎日続けられるクリエイティブな習慣を探している人
練習方法
基本的な練習方法は、うすいゆなさんが書かれた「作字は思考トレーニングの練習として最適である。」という記事を参考にしています。
上記の記事をもとに、自分なりにアレンジや工夫を加えながら、これまでに5日間の作字練習を行いました。ここでは、実際に制作で使用したツールや具体的な手順、練習を続ける中で意識したポイントについて詳しく説明していきます。
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✍️ 使用ツール
ChatGPT: 作字のお題を考えてもらうために活用。目的に合わせたお題の出力ができて良いです。プロンプトは後述。
ノートや紙: お題の言葉から着想を得たイメージを書き留めたり、作字の下書きをしたり。
Adobe Illustrator: 下書きしたものを清書するために使用。
🛠️ 手順
大まかに3つのステップで制作を進めました。
【ステップ1】ChatGPTでお題を出力
【ステップ2】お題をもとに言葉を連想
【ステップ3】作字のスケッチ、清書
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◾︎【ステップ1】ChatGPTでお題を出力
今回作字に取り組むにあたり、お題に対しては自分が初心者であることを踏まえて以下のような制約を設けていました。
日本語であること:
慣れ親しんだ言語の方が取り組みやすいと考えたため1~5文字の存在する単語・言葉であること:
文字数を少なくすることで、難易度を下げるため自分以外の人に考えてもらう:
自分でお題を考えると、自分が作りたいものや作りやすい表現に偏ってしまう危険性があるため
ChatGPTならば、これらの条件を踏まえたお題を簡単に生成することができると考え、以下のようなプロンプトで生成を試みました。
Adobe Illustratorを使って1日に1作品、作字をするのを1ヶ月続けたいと思っています。私が「今日のぶん」と言ったら、作字用に1~5文字で既存の日本語の単語を出力してください。単語のジャンルや雰囲気もランダムになるように考えて欲しいです。
5日間試した所感としては、2文字の単語がやや多いですが、概ね希望通りのお題を生成してくれています。より良いプロンプトがありましたら、是非コメントで教えてください。
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◾︎【ステップ2】お題をもとに言葉を連想
先ほどステップ1で出力したお題から関連する言葉を連想していきます。
言葉は2~3階層に分けて考え、階層が深くなるほど抽象度が高くなるように意識します。
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1階層目はお題から直接連想できる単語(名詞)をひたすら書き出します。
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例えば、5日目に制作した「湯気」というお題の場合、「温泉」「熱」「空気」「煙」「お湯」など、関連する言葉を挙げていきます。
この時重要なのは、思いついた単語をすべて書き出すことです。同じような言葉でも、次の階層を考えると新しいイメージや表現につながることがあります。また、手を動かして書くことで頭の中だけでは気づけなかったアイデアが見つかることも多いです。
2~3階層目では、1階層目の単語から連想される形容詞や擬音、関連する言葉を自由に書き出します。
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形容詞にこだわらず、単語や擬音も含めて連想を広げ、その中から作字に使いたい要素をいくつか選びます。
◾︎【ステップ3】作字のスケッチ、清書
先ほど抽出した要素を踏まえて文字のデザインを考えます。湯気のお題では特に「曲線」や「温かさ」「うねり」といった要素を中心にスケッチで色々な形を書き出し、最終的には以下のような案に決定しました。
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最後にデザイン案をもとにillustratorで清書します。 文字以外の装飾や最終調整をして完成です。
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5日間の作品と振り返り
これまでの5日間の作字練習では、制作前にテーマや学びたいポイントを意識し、制作後には良かった点と改善点を整理していました。
それぞれについて、簡単に紹介したいと思います。
◾︎Day1: 風花
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1日目のお題は「風花(かざばな)」でした。 これは、晴天時に雪が風に舞うようにちらちらと降る様子を表す言葉です。(初めて知った言葉ですが、「雪」を直接使わずに表現しているのが、おしゃれでめちゃ良い。)
初挑戦ということもあり、まずは制作時間や感覚を掴むため、リファレンスなしで自由に納得いくまで作り込んでみました。
カラーや背景グラフィックはお題の意味を踏まえて表現できた一方で、イラレの習熟度不足から作業が想定以上に時間がかかり、文字の形状や表現が曖昧になった点が課題として浮き彫りになりました。
◾︎Day2: 暁
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2日目のお題は「暁(あかつき)」です。
前回の改善点を踏まえ、今回は文字単体の面白さや表現力、完成度を意識して制作に取り組みました。
結果として、文字の形状に特徴を持たせることができ、2回目の制作だったこともあり作業時間を短縮できたのは良かった点ですが、形状の特徴を意識しすぎたことで視認性が低下してしまったことが反省点として残りました。
◾︎Day3: 月影
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3日目のお題は「月影(つきかげ)」でした。「影」という文字が含まれていますが、月の光を指す言葉だそうで、5日間の制作の中で最もビジュアルのイメージが湧きやすいお題でした。
視認性と背景グラフィックのバランスを意識して制作に取り組み、その結果、文字を主役にしながらも装飾との調和が取れた作品になったと思います。
しかし、文字の形状やカラーのコントラストについては、もう少し工夫の余地があったと感じています。
◾︎Day4: 豆腐
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4日目は「豆腐(とうふ)」です。
シンプルで親しみやすいお題ということもあり、この制作では文字の形状にこだわって面白い表現を探すことに集中しました。
良かった点としては、これまで以上に文字自体にフォーカスして表現を模索できたこと、一方で、コントラストの弱さやディティールの処理は改善の余地があると感じました。
◾︎Day4: 湯気
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5日目は「湯気(ゆげ)」です。
これまでの作品では太いウェイトが多かったため、今回はコンセプトに合わせつつ、意図的に細いウェイトでの表現に挑戦しました。
細いウェイトによる若干の視認性の悪さは気になったものの、文字と背景の調和はこれまでで最も良い仕上がりになったと感じています。
作字練習の成果と課題
まだ5日間と始めたばかりではありますが、ここまでの作字練習での成果と課題について、それぞれまとめたいと思います。
☀️ 成果・気づき
◾︎スキル面での成長
表現の引き出しが増えた:
作品制作の際に意識するテーマを設定したり、普段挑戦しない表現に積極的に取り組むことで、新たなアイデアや視点が生まれるようになりました。自分の制作における癖の把握:
作字の練習を重ねる中で、「コンセプト設定 > デザイン設計 > 制作」というプロセス全体を通じて、自分の癖や制作の傾向を客観的に把握することで、自分の強みと課題が明確になりました。
◾︎心境の変化や気づき
日常生活でもデザインについて意識する機会の増加:
自分の中の表現の引き出しが限られていることを痛感したので、新しい表現を探すために、日常生活の中で目にするものからカラーパレットやグラフィックなどをメモする癖がつきました。
☔️ 課題・苦戦した点
独自性と新たな表現の学習のバランスの取り方:
リファレンスを限定しすぎると模倣に陥りやすくなる一方で、自分の中の表現の引き出しはまだ限られているため、模倣を避けつつ自分の意図に合った表現を探し、学習していく必要があります。そのため、どのような意図でどのような表現を行いたいのかを明確にした上でリファレンスを選ぶことが重要ですが、そのバランスの取り方に苦戦しました。(現在も模索中です)目的意識の維持:
作るという行為に集中するあまり、作品が完成した時点で満足し、それで終わってしまいそうになることが多くあります。なぜ作字練習をしているのかという根本的な目的や、毎回の制作で意識すべき点、良い点や改善点の整理は時間もかかり苦労していますが、しっかり継続していきたい部分です。
おわりに
なかなか自分の思い通りに表現できないことも多く、もどかしい気持ちもありますが、この作字練習を行ったことで、デザインする時の選択肢や表現の幅が着実に広がっていることが実感できています。
目標は30日間の継続なので、完遂した暁には、初期と比較しての学びや変化を整理したいと思います。
制作した作字はイラスト用のXアカウントで発信していますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください🦎