「みっちゃん総本店」のスペシャル@広島
広島に行ったことがなかった。61歳になる10月、原爆ドームと平和記念公園を一度はみておこうと考え、広島に短い旅をした。
よく晴れた10月の平日、広島電鉄の路面電車に揺られてまず原爆ドームに向かう。この路面電車は広電と呼ばれて市民に親しまれており、1945年の原爆投下時もわずか3日後には一部区間で運行を再開し、市民を勇気づけたといわれている。広電で市内を移動すると何度も橋を渡ることに気がつく。広島は7つの川が形成するデルタの上に位置していて、その景観は「水の都」の名にふさわしい美しさだ。
原爆ドーム前の停車場から歩き始める。爆心地のほぼ真下にあったため、横からの爆風をまぬがれ枠組みが残ったとされる原爆ドームは、広島県物産陳列館として建築された見事な洋館だったそうだ。関係者の必死の努力で現在まで保存され、被曝当時のままの姿をみせてくれている。そばを静かに流れる太田川の支流、元安川の橋を渡ると平和記念公園だ。静謐な雰囲気のなか、修学旅行のシーズンだろうか、小中学生と思しき年齢の子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。平和のありがたさをしみじみ感じながら、公園の敷地を平和記念資料館に向かう。随所に鎮魂と祈念のモニュメントが配置されている。資料館は1955年の開館だそうで、丹下健三さんの設計による特徴的なデザインの建物は素晴らしいもので、国際的な評価もきわめて高い。戦争と平和について考えるにふさわしい場所であることを痛感しながら、資料館に入り展示物を順路に沿ってみていく。
途中、何度も息がつまり、胸が苦しくなり、足がもつれそうになった。原爆の凄まじい被害を実際に目の当たりにする。戦前の繁栄ぶりや、原爆投下後の筆舌尽くし難い苦難、復興の困難さにも思いをはせる。人が人に対してこれほど邪悪で残忍な仕打ちができるものかと思う。2022年のいま現在も独裁者による侵略戦争が起きている。人類はどこまで愚かなのか。資料館を出て、よく晴れた10月の空を見上げた。
広島の旅と前後して、堀川惠子さんのノンフィクション『暁の宇品』(2021年講談社刊)を読んだ。かつて軍都でもあった広島の宇品港には陸軍船舶司令部があり、陸軍の兵士や物資の船による輸送を一手に担う兵站と補給の一大拠点だった。日清戦争から1945年の原爆投下と敗戦までの歴史を、この基地の歴代司令官の歩みを丹念に追うことで生き生きと描いた労作だ。ぜひ一読をおすすめしたい。
名物のお好み焼きを食べようと、市内にいくつか店舗がある「みっちゃん総本店」で、そば入りのスペシャルにトライした。豚肉に加えてエビとイカも入っていて、もやしとキャベツもたっぷり。有名な広島の甘めのソースも具合がいい。素朴ながら力強い味わいだ。現在の美しく活気あふれる街を復興させた市民を、この味も支えたのかと思う。すこし涙が出そうになる。
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