見出し画像

「一平」のチャンポン@小倉

福岡に滞在していた週の水曜日に、北九州市に出かけた。関東の住人の感覚で福岡市と北九州市は「隣り合っているのだろう」などと漠然と思っていたが、じつは博多、小倉間は新幹線で20分くらいかかる。行き帰りともこだまの自由席に乗った。なぜかすこしうれしくなる。
 北九州では、門司港と小倉の駅近くを歩いた。JRの在来線で便利に往復できる。門司港はレトロをコンセプトにブランディングをされていて、大正時代の姿に復元された木造駅舎や港湾に点在する赤レンガの建築物も見事だ。海の風は冷たく、今年初めてカシミアコートのボタンを襟元までとめて港を歩く。関門橋や対岸の下関もよく見える。高倉健さんの遺作『あなたへ』を思いだす。佐藤浩一と草彅剛が演じたいか飯販売コンビの役、味だったなあ。
 小倉は、駅から内陸側に向けて銀天街という商店街が伸びていて、こちらは昭和の名残りたっぷり、ごく自然にレトロな趣きを醸し出しておられる。銀天街の先には、今年2度の火災にみまわれた、北九州の台所といわれる旦過市場がある。見て歩くと、全焼したわけでなく、営業を続けておられるお店も多い。すこしほっとする。
 さて、銀天街の入口近くに戻り、昭和32年創業という「一平」に入る。メニューにはいわゆる福岡のラーメンもあるのだが、火曜日に中州で食べたばかりなので、チャンポンを注文してみる。古いけれどどこもピカピカに磨き上げたように清潔な店内に安心しつつチャンポンをすする。太めのいわゆるチャンポンの麺と具だけれど、スープが博多ラーメンのもののように感じた。激しいとんこつの感じはなく、なんだかなつかしいようなおだやかな味わいだ。
 小倉の街ところどころから再建された小倉城が見える。ここは幕末の第二次長州征伐のとき、幕府軍の西側の拠点が置かれた地であることを思い出す。こっぴどく負けて、徳川慶喜の大政奉還につながっていくわけだけれど。
 門司市は日本の海運をはやくから支えてきた港湾都市、小倉市はかつての枢要な城下町、明治時代に国策としてつくられた八幡製鉄所を擁する八幡市もあった。これらに戸畑市、若松市を加えた5市が1963年に合併して政令指定都市になったわけだが、今回すこし歩いてみただけでも、かつてのそれぞれのエリアが持つ特徴を色濃く感じることができた。北九州市は合併による都市規模拡大のいわば見本のようなもので、その後の各地の自治体の合併につながっていったのだろうけれど、城下町の小倉市、港湾都市の門司市、そんな特徴ある適正規模の自治体の姿も見てみたいと思った。素人考えだけど、大きいことをよしとしてきた地方行政の発想について、すこしばかり考えさせられた博多からのプチトリップだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?