「浜長」の香箱ガニ@金沢
2022年の年末から年明けにかけて、数日間を金沢で過ごしている。行動制限のない年末年始で、金沢はどこも多くの人出でにぎわっている。
金沢に着いた夜、香林坊の繁華なエリアからすこしだけ離れた、片町2丁目の「浜長」に行った。カウンターと個室があり、アラカルトでも対応してくれる具合のいい和食店で、過去にも何度か利用している。小さな黒板にぎっしり手書きされたその日のメニューから、スタッフの女性と相談しながら注文を決めていく。
季節がらカニが食べたいと思っていたところ、香箱ガニをすすめられ、迷わずオーダーする。日本海の冬の味覚の王様ともいえるズワイガニだが、各地でブランディングが競われていて、私の出身地の北近畿では松葉ガ二。兵庫県の香住(かすみ)、京都府丹後の間人(たいざ)などでとれるものが高い人気(お値段も)をキープしている。
ここ金沢では、雄が加能(加賀と能登から一文字ずつ)ガニ、雌が香箱ガニと呼ばれてやはり名物になっている。香箱は小ぶりだが、甲羅に身と卵が詰めてありしっかり食べごたえがある。これまた人気の金沢おでんではこの形状をカニ面といい、定番の必食メニューだ。「浜長」の香箱ガニを地元の銘酒、銀盤立山とともに堪能させてもらった。北陸の年の瀬だなあ。
滞在中またもショートトリップに出かける。能登半島の海と港が見たくなり、JR西日本の特急「かがり火」を使って、七尾に出かけた。金沢と和倉温泉の区間で運行する特急で、七尾は和倉温泉の手前の停車駅だ。能登島を望み静かに佇む港があり市場があり、港から市街地を歩くと、北前船の海運によって栄えたという風情ある街並みがあり、さらに前田利家が初めて国持ち大名になったときに築いたという小丸山城跡がある。冬の空気のなか豊かな歴史の香りを感じなから港歩き、街歩きを楽しんだ。
特急で金沢、七尾間は約1時間。往復の車窓を眺めながら、この辺は何度も映像化された松本清張さんの『ゼロの焦点』で、主人公が新婚旅行直後に行方不明になった夫を探しにきたエリアだなと思ったりする。敗戦後を舞台にした重く暗いトーンの作品だった。能登の鉄道沿線、山林と小規模な集落が繰り返し、空は鈍色に曇っていて、日がさしたと思ってもまたすぐ小雨が落ちてくる、そんな風情だ。空模様は金沢市内も同様である。
どんより暗いともいわれる日本海側、北陸だが、寒さは思ったほど厳しくない。東京の乾ききった冬に比べると、しっとりと優しい空気につつまれているような気もしてくる。
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