読書メモ:「意思決定の認知統計学」
「意思決定の認知統計学」という本を少し読みました。
人間の意思決定の過程のベイズモデリングについて論じた本です。1995年初版発行の、28年前の本です。ウェブ上にあまり情報が無く、津本周作(当時東京医科歯科大)の書評以外ほとんど書評や感想が存在しないようなので、ここにメモを書いてみます。
津本の書評で、
とあり、調べたところ「その他の心理モデル」にプロスペクト理論が含まれているようなので、その箇所が読みたくて入手しました。廃刊になっており、図書館でも見当たらなかったので古本を探しました。
私がこれまでに読んだ書籍では、ベイズ認知モデリング系の本はあまり意思決定モデルを扱っておらず、行動意思決定論の本は期待効用理論やプロスペクト理論が中心であまりベイズモデリングについて述べていませんでした。意思決定のベイズモデルについて説明した貴重な本だと思っています。他におすすめの本があれば教えていただければ嬉しいです。
1章
まず、意思決定の定式化が行われます。代替案の集合、結果の集合、主観確率、プロスペクト、効用関数の五つが意思決定の要素だと定義しています。
その後、ベイズ理論が合理的な意思決定の規範となることが解説され、ベイズにしたがわなければ必敗の賭けが存在すると断言されます。
2・3章
2章は実際の人間はベイジアンでないことを例とともに説明し、実際の人間の意思決定の体系を「やさしいベイジアン」として記述的にまとめています。
3章ではエルスバーグの壺や三囚人問題などの人間の確率評価パラドックスを、「やさしいベイジアン」で説明しています。
この辺りは後日追記しようと思います。
4章 意思決定の心理モデル
4章は、ベイズモデル以外の心理モデルの紹介です。
まず、EBA(Elimination By Aspects/属性消去モデル)の解説に結構ページが割かれています。
次に、プロスペクト理論の確率加重関数が「やさしいベイジアン」の立場と一致していることが述べられます。つまり、効用関数は固定されたものではなく、状況に依存しており、現状からの変化に対して評価されるということです。ここが読みたかったところだったのですが、割とあっさりでした。
最後に、現実の人間の意思決定がベイズ的でない理由として大きく以下の三つを挙げられます(包括適応度最大化~とか進化的な話は当然出て来ない。状況依存性は生活史理論と整合的だと思う)
尤度の分布が不明
代替案の固定や過去全データの蓄積が無い
主観確率や効用が状況依存
そして、実際の意思決定のモデルとしての後悔回避性と、カーネマンとトベルスキーの二つの仮説とその検証に触れられます。
仮説1: 目標に近づけたときほど後悔の念が強い
仮説2: 結果が同じでも余計な行動が原因の方が後悔の念が強い
仮説2への反例として、著者のグループによる仮説3の検証も紹介されます。
仮説3: 自分の意志にしたがって決定した場合は後悔しない
例えば、次のような感じです:
転職先の会社が倒産したAさんと、転職せず会社が倒産したBさんでは、転職したAさんの方が後悔する
(ちなみに、Aさんが転職しなかったりBさんが転職した場合にどうなっていたかは全く想像されていません)恋愛結婚したのち離婚したCさんと、しぶしぶ見合い結婚したのち離婚したDさんでは、見合い結婚のDさんの方が後悔する
「やらずに後悔よりやって後悔」と言いますが、それは代替案が外部からの強制や偶然など自分の意思に無関係な力によるものの場合で、「やらない」という案が自分の意思の場合はやった方が後悔するということでしょうか。
とはいえ、現実問題では同一人物が「やらない」と「やった」で同じ結果になることはほとんどないので、「やった方が後悔するケース」はそんなに無いかもしれません。やったらその分の経験が貯まったりしますしね。
(だから上記の検証でも他人同士で比較しているのだと思う)
5~7章
5章以降はベイズモデリングの具体的な手法の説明です。まだちゃんと読んでいないですが、モデル選択、階層モデル、ギブスサンプリングなどが駆け足で説明され、項目応答理論のモデリングなどが例示されます。因子分析をベイズ的に捉える方法も書いてあります。
今はベイズ統計やベイズモデリングの類書がたくさん出ているので、この辺は他の本をあたってもいいかもしれません。因子分析のところは他の本にあるかは全然分かりませんが…。
ここも後日追記します。
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